【特集】逆風「新電力」のなか頭角現す、実力再評価のバイオマス発電関連株6選 <株探トップ特集>
燃料価格の高騰が「新電力」会社の経営に打撃を与えた。そんななか、木質チップなどを活用し輸入燃料に頼らない「バイオマス発電」を再評価する動きが強まっている。
―輸入燃料に頼らない強み発揮、環境に優しく循環型社会の構築に大きく寄与―
ウクライナ危機に伴う原油価格高騰の影響は、幅広い分野に及び電力小売自由化の流れの中で生まれた「新電力」会社の一部を苦境に追いやっている。そんななか、電力業界で注目を集めているのが「バイオマス発電」だ。森林から出る端材を活用した木質チップや農産物の残渣(ざんさ)、一般廃棄物などを燃料に使うバイオマス発電は、輸入燃料に頼らない強みを持つほか、天候に左右されないという利点もある。注目を集めるバイオマス発電 の動向を探った。
●燃料価格の高騰で新電力会社の経営破綻相次ぐ
2016年4月に電気の小売業への参入が全面自由化された。この電力小売自由化により、全ての消費者が電力会社自体や料金メニューを選択できるようになったわけだが、こうした流れの中で生まれたのがいわゆる「新電力」と呼ばれる、電力小売りの新規参入企業だ。しかし、電力業界に競争を生み出す旗手となることが期待された、時代の寵児とも呼べる新電力会社の経営破綻が足もとで相次いでいる。
新電力会社の経営が行き詰まった原因には、燃料価格の世界的な高騰が指摘されている。こうしたなか、経済産業省は4月1日から条件はあるものの、新電力を含めた電力小売事業者を、中小企業の資金繰りを支援する制度の対象に指定している。これは、金融機関から借りた資金の返済が難しくなった場合に、信用保証協会が残りの返済額の80%の負担を保証することで融資を受けやすくするという内容だ。
●イーレックスはベトナムでのバイオマス発電に注力
新電力撤退の増加は、確かに燃料価格の想定を超えた上昇が原因であることは間違いないが、これは新電力会社を巡る環境が、成熟期に突入していく姿を映していると捉えることもできるだろう。実際、新電力の一角であるイーレックス <9517> [東証P]はそうした向かい風の状況にもかかわらず、積極策を講じて前に進むようだ。そこには、新電力の目指すべき姿の一つが映し出されている。具体的には、「ベトナムで2035年までにバイオマス発電所を20基以上新設する」と3月31日付の日本経済新聞が報じた。同社は現地事業者の石炭火力発電所をバイオマス発電に転じることも視野に入れているという。
●バイオマスは廃棄物の再利用や減少に寄与
「バイオマス」とは、動植物などから生まれた生物資源の総称。バイオマス発電では、この生物資源を「直接燃焼」したり「ガス化」したりすることで発電を行う。その原料の種類も多岐にわたり、それだけ発展可能性が大きいことを示す。例えば稲わらなどの農業残渣、つまり廃棄物をバイオマス燃料として活用する場合、従来は用途がなかった(もしくは限定的だった)廃棄物の再利用や減少につながることから、世界的に希求されているサーキュラーエコノミー(循環型経済)の構築に大きく寄与することにつながる。倒産劇の大きな原因ともなった輸入燃料に頼らない発電体制を構築することができれば、新電力の経営安定性も飛躍的に増すことになるだろう。
萩生田経済産業相は新電力の支援にあたって「電力は、国民生活の基盤となるライフラインであり、安定供給や需要家の保護に支障を及ぼすことのないよう、引き続き市場の動向を注視していきたい」と会見で述べたことが伝わっている。実際、3月下旬に経済産業省が「電力需給逼迫警報」を出して節電を国民に呼び掛け、緊張感が高まったことは記憶に新しい。いずれにせよ、電力という我々の生活の基盤となる領域に関わる企業が安定して経営を行うことができるか否かは重要なポイントだ。新電力の経営安定性の向上とサーキュラーエコノミー、地球温暖化対策の3つの観点から、今後バイオマス発電が果たす役割は大きく広がっていくことになるだろう。以下、注目のバイオマス発電関連銘柄を取り上げる。
●TREHD、東京産、タクマなどに注目
イーレックス <9517> [東証P]~バイオマス発電を主力とする再生可能エネルギー事業を展開している。21年11月にはベトナム国フーイエン省との間で、バイオマス発電所事業全般において協力覚書を締結。今年3月には、同国でのバイオマス燃料事業及び発電事業の検討を開始したと発表している。また、同じく21年11月に韓国のサムスン物産と国内外における非効率石炭火力発電へのバイオマス燃料供給事業において業務提携に向けた覚書を締結したと発表。
TREホールディングス <9247> [東証P]~中核である廃棄物処理・リサイクルから、環境エンジニアリング、再生可能エネなどへ事業領域を拡大させている。再生可能エネ事業では木質バイオマス発電により生み出したクリーンな電気を、地域の小中学校や公共施設などへ供給し、電力の地産地消を実現。また、発電時に発生する余熱を活用した農作物の栽培なども行っている。
三菱ガス化学 <4182> [東証P]~地熱発電、LNG発電、バイオマス発電によるCO2排出抑制といったカーボンニュートラルに取り組んでおり、4月1日には北海道の網走バイオマス発電所2号機及び同3号機の開発プロジェクトに参画すると発表。同プロジェクトは、20年9月から開発を推進している北海道産の国内材木質チップ100%を燃料に使用するバイオマス発電プロジェクト。
東京産業 <8070> [東証P]~火力・水力発電設備やプラント設備などのエネルギー商社。バイオマス発電所の運営に欠かせないバイオマス燃料を各発電所へ安定的に調達する。2月には、中部電力<9502>、稲畑産業<8098>、日立造船<7004>などとともに、Solariant Capital(東京都港区)が設立した「福山バイオマス発電所合同会社」との間で融資契約を締結し、木質専焼バイオマス発電事業への参画を発表した。
タクマ <6013> [東証P]~廃棄物処理プラントや水処理プラント、ボイラープラントを手掛けるプラント メーカー。バイオマス発電プラントでは、木質チップ、バークなどの木質燃料やPKS(パーム椰子殻)、バガス(サトウキビの搾りカス)などを有効利用することが可能。3月には東京産、東京エネシス <1945> [東証P]、SHICHIJO(東京都中央区)、北越コーポレーション<3865>が設立した「合同会社会津こもれび発電所」からバイオマス発電プラント建設工事を受注。
富士電機 <6504> [東証P]~発電プラント事業については、再生可能エネ・分散型電源領域への特化及びサービス事業の強化を挙げている。同社の強みである中小型発電プラントでは、バイオマスは国内シェアトップ。また、リチウムイオン電池を唯一の動力源とするゼロエミッション船の「電気推進システム」を提供している。バイオマス発電所への燃料の輸送において電気推進船を導入する動きも見られており注目されよう。
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