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【特集】金は高値波乱!ウクライナ停戦期待もインフレ制御が焦点に <コモディティ特集>

MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 の現物相場は、2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことをきっかけに急伸した。欧米がロシアに対する制裁措置を発動したが、ロシアの攻撃は止まず、西側諸国は国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの主要銀行を排除することを決定した。更にロシアがウクライナの原子力発電所を攻撃・占拠すると、米英はロシア産原油の輸入禁止を発表した。金はインフレ懸念の高まりなどを受けて上値を試し、2020年8月以来の高値2067.58ドルをつけ、史上最高値2072.90ドルが視野に入った。

 しかし、ニューヨーク原油 が2008年7月以来の高値130.50ドルをつけたのち、アラブ首長国連邦(UAE)が石油輸出国機構(OPEC)に原油の増産検討を呼び掛けたことをきっかけに急落すると、金も調整局面を迎えた。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦を呼び掛け、北大西洋条約機構(NATO)に対して飛行禁止区域の設定を要請した。しかし、NATOが飛行禁止区域を設定して軍事介入すればロシアとの全面戦争に発展するとして介入の可能性を排除すると、ゼレンスキー大統領はNATO加盟を主張しないと述べ、ロシアに対して譲歩する姿勢を示した。これにより一旦は停戦交渉の進展に対する期待感が高まったが、ウクライナはロシア軍の即時撤退と安全保障の確約を求めるとして14日の協議を中断した。ゼレンスキー大統領は16日に米議会でオンライン演説を行う予定であり、内容を確認したい。

 一方、SWIFT排除を受けてロシアから撤退する企業が相次ぎ、ロシア経済は孤立化しつつある。西側諸国の対ロ制裁の対象が新興財閥「オリガルヒ」まで拡大されると、ロシアの富裕層は暗号資産を求め、中東の金融ハブに向かった。停戦交渉が続くなか、ニューヨーク原油は調整局面を迎え、100ドルの節目を割り込んでおり、金ETF(上場投信)に利食い売りが出る可能性がある。

●金はインフレを制御できるかどうかを確認

 エネルギー・穀物価格の高騰によるインフレ懸念を受けて米短期金利先物市場で、15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.50%の大幅利上げを織り込む場面も見られた。しかし、西側諸国の対ロ制裁が相次いで発表されると、景気の先行き懸念が高まり、大幅利上げの見方は後退した。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は議会証言で「0.25%の利上げを提案し、支持する方向に傾いている」と述べた。一方、インフレが想定通り緩和されなければ、FRBはその後の会合で「より積極的に対応する用意がある」とも述べている。

 CMEのフェドウォッチによると、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標水準(現在0~0.25%)は3月会合で0.25~0.50%の確率が97.3%となり、米FRB議長の発言通りになることを織り込んでいる。ただ、4月会合で0.75~1.00%の確率が54.7%となっており、今後発表される経済指標次第で大幅利上げの可能性がある。

 2月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比7.9%上昇し、約40年ぶりの大きな伸びとなった。原油・穀物の乱高下が続くと、インフレ見通しも大きく変化するとみられる。金にとっては各国の中央銀行がインフレを制御できるかどうかが焦点であり、制御できないとの見方が強まると、金ETFに逃避買いが入って再び上値を試す可能性が出てくる。

 国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は、来月に世界成長見通しを引き下げざるを得ない、と述べた。ロシアのウクライナ侵攻と西側諸国の対ロ制裁が貿易縮小を引き起こし、食料・エネルギー価格を急上昇させるとした。また、ロシア経済がディープリセッション(深刻な景気後退)に直面すると指摘した。ただ、ロシアは債務不履行(デフォルト)を引き起こすかもしれないが、金融危機をもたらすことはないとの見方を示した。当面はインフレと景気減速によるスタグフレーションが世界経済に与える影響を確認したい。

●SPDRゴールドに投資資金が流入

 世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は3月12日に1064.15トンとなり、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日から34.83トン増加した。インフレ懸念の高まりやウクライナ情勢に対する懸念を受けて投資資金が流入した。停戦交渉や原油価格の動向、インフレ見通しなどを背景に投資資金の行方を確認したい。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは3月8日時点で27万4388枚と2月22日時点の24万3148枚から拡大し、昨年1月以来の高水準となった。原油急落で利食い売りも出やすいとみられるが、インフレ見通し次第では買い直される可能性がある。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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