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【特集】核合意の修復に向け米国を焦らすイラン、バイデン政権は原油高騰を切り抜けられるか? <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 供給不足が相場を押し上げている。ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は2014年10月以来の高値をつけた。天然ガスや石炭などエネルギー価格全般が高騰している。化石燃料から再生可能エネルギーへと投資の中心が移り変わりつつあるなかで、二酸化炭素を比較的多く排出する資源への投資が後退しつつあることが現在のエネルギー高の背景である。これまでの原油高局面では世界最大の産油国である米国が増産し、行き過ぎた相場上昇を抑制してきたものの、脱炭素社会を視野に米国では石油関連の投資が萎縮している。

●原油高是正のカギを握るイラン

 米国を除いて、原油高の是正に貢献する可能性があるのはイランである。トランプ前大統領がイランに対する経済制裁を開始したことで同国の原油生産量は落ち込んでいるものの、核合意の修復協議が成し遂げられるなら制裁が解除され、イランの原油供給は回復する。現状でイランの生産量は日量で約250万バレルと、日量150万バレル程度の増産余地があることから、生産量が完全に回復するならば世界的な需給バランスを供給過剰に傾けることが可能だ。

 ただ、イラン核合意の修復協議の再開時期は不明である。イラン大統領選後、ライシ新政権は「まもなく協議の場に戻る」としているが、はっきりとしたスケジュールをまだ示しておらず、いつ戻るのかわからない。今月、イラン外務省の報道官が11月には再開可能との見通しを示したものの、西側諸国にとってイランの態度には不信感しかないようだ。外交的な協議を前提としてきたバイデン米政権は焦らされており、経済制裁を受けているイランのほうが交渉の主導権を握っているような印象だ。イランの生産量拡大によって、原油高を抑制することが可能であることもイラン側の余裕につながっているのではないか。

 米景気回復にとって原油高は邪魔であり、イランに増産させて需給バランスを供給超過に傾けるのが米国にとって理想かもしれないが、イランは修復協議に積極的ではなく、今のところただ待つしかない。不支持率が拡大するバイデン政権にとってガソリン高は不快である。

●イランの強気姿勢に米国の選択は

 イランが交渉の場に戻るとしつつも核合意から逸脱した核開発を続けていることから、イランを敵視するイスラエルは軍事行動の準備を始めたと先月表明した。核合意への復帰を望むにしても、ライシ政権の交渉態度は強気であり、軍事的な緊迫感は着実に高まっている。ブリンケン米国務長官も外交以外の別の選択肢を検討する用意があるとし、「時間がなくなりつつある」との認識を示した。

 トランプ前政権の強引な外交政策の反動もあって、バイデン米政権は対話による外交を重視してきたものの、これが通用しない場合はどのような選択肢を採用するのだろうか。イスラエルのように軍事的にけん制するのだろうか。イランの原油供給再開か衝突か、イラン情勢は原油相場を上下どちらへも導く可能性を秘めている。

 ただ、エネルギー価格が高騰しているなかで、米国が軍事的な手段に言及すれば相場を刺激するのは避けられないだろう。米国としては強くも言えず、外交的な選択肢以外は現実的ではない。イランを脅すにしても、かなりの覚悟が必要だ。外交協議再開に向けて強気な態度を続けているイランは、ある意味で原油高に守られている。これまでの恨みもあってイランが米国の逆撫でを続けると、緊迫感はさらに強まるかもしれない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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