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【特集】植物由来「CNF」に絶好のチャンス、脱炭素ニーズを捉え市場拡大へ <株探トップ特集>

循環炭素社会の実現には国土の約7割を占める森林の有効活用が欠かせない。そこで関心が高まっているのが、木材などを原料とした素材「セルロースナノファイバー(CNF)」だ。

―環境負荷小さく優れた特性に注目、早期の社会実装に向け政府も後押し―

 気候変動対策が世界的に喫緊の重要課題となるなか、日本でも政府が温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げ、さまざまな取り組みが進められている。脱炭素というと大量の二酸化炭素(CO2)が発生する火力発電を再生可能エネルギーに転換する施策などが注目されやすいが、それだけではカーボンニュートラルの達成は難しい。今後は国土の約7割を占める森林を有効活用することも必要となりそうで、新たなビジネスチャンスの可能性を秘めるのが植物由来の「セルロースナノファイバー(CNF)」だ。

●各省の概算要求増額

 CNFは、木材などから得られる木質繊維(パルプ)を1ミリの100万分の1にまで微細化(ナノ化)したもの。植物由来であることから生産・廃棄に関する環境負荷が小さいほか、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を持ち、弾性率は高強度繊維で知られるアラミド繊維並みに高く、温度変化に伴う伸縮はガラス並みに良好、酸素などのガスバリア性が高いといった優れた特性を発現する。環境省では、さまざまな製品の基盤となる樹脂材料をCNFで補強した活用材料(複合樹脂など)を使用することで、CO2の効果的な削減を図ることを目的としたCNF性能評価モデル事業を推進中。CNF活用材料で部品などを試作し、実機に搭載することで製品としての信頼性、CO2削減効果などの性能評価を実施するとともに、早期の社会実装に向けた導入実証を行っている。

 CNFは大気中のCO2を吸収・固定した木材などが原料であることから、カーボンリサイクルの一端を担うことが可能で、炭素循環社会の実現に有効とあって政府は市場拡大を後押しする構えだ。経済産業省は製造プロセスにおけるコスト低減や製造方法の最適化、量産効果が期待できる用途に応じたCNF複合化・加工技術などの開発を促進するため、22年度の概算要求で8億3000万円(21年度当初予算は6億3000万円)を計上。環境省は概算要求に、革新的な省CO2実現のための部材(GaN:窒化ガリウム)や素材(CNF)の社会実装・普及展開加速化事業として40億円(同18億円)を盛り込んだ。

●着々と進む用途開発

 企業でもCNFの特性を生かし、多方面で新たな機能の付加につなげようと技術開発が活発化しており、例えば大王製紙 <3880> は18年から部分的にCNF化したセルロース(濃度10%)複合樹脂ペレットのサンプル提供を開始し、20年にはセルロース濃度を55%にまで高めたCNF複合樹脂の開発に成功。現在は用途に応じた多様な形態で提供しており、自社商品であるトイレ掃除用ペーパークリーナーへの配合や卓球ラケット用部材、レースカーの車体内外装への実装といった実績を積み上げている。

 また、王子ホールディングス <3861> 、北越コーポレーション <3865> 、阿波製紙 <3896> 、レンゴー <3941> 、第一工業製薬 <4461> 、星光PMC <4963> なども用途開発を進めており、目が離せない。

 このほか、中越パルプ工業 <3877> は8月、自社で製造したCNF「nanoforest」が共同開発先であるサイデン化学(東京都中央区)の水系アクリル系エマルション材料の添加剤に採用されたと発表した。この素材を塗料分野で利用するメリットは、強度アップや耐久性及び塗装性の向上など。揮発性有機化合物(VOC)削減の観点から環境配慮型塗料への転換が求められ、更には節電・省エネを目的とした遮熱・断熱効果の重要性が増しているなか、建築業界をはじめ自動車・鉄道・船舶など多岐にわたる分野への普及が見込まれる。

 横河電機 <6841> 子会社の横河バイオフロンティアは6月、硫酸エステル化セルロースナノファイバー「S-CNF」を提供する事業を開始した。第1弾としてサンプル提供を始めた「S-CNF」は、一般的なCNFの特徴に加え、ゲル状から乾燥させて粉末状にしても水分を与えることで物理的性質を再現でき、ゲル状に比べて体積と重量が100分の1程度になる粉末状にすれば輸送時や保管時のコスト抑制が可能だ。今後は商用生産に着手する計画で、化学・石油化学・自動車・建材・窯業・繊維・食品・薬品・紙加工などの分野での利用を想定している。

 東北大学は3月、日本製紙 <3863> などと共同でCNFに強力な蓄電効果があることを世界で初めて発見し、CNF表面形状を制御したナノサイズの凹凸面を作り出すことにより、乾式で軽量のスーパーキャパシターの開発に成功したことを明らかにした。今後はナノ電気機械システム(NEMS)加工技術を導入して集積化及び積層化を行い、弱電用蓄電体としてパワー密度とエネルギー密度の向上を図るとしており、今後の動向が注目される。同社は5月に公表した中期経営計画で、CNF「セレンピア」の量産化に向けた製造技術の確立など新規事業・新素材を早期に戦力化する計画を掲げ、事業構造転換を加速したい考えだ。

●東合成、島津にも注目

 これ以外では、毛髪の1万分の1の細さであるシングルナノセルロースまで容易に解きほぐすことができる新しい酸化セルロースを開発済みの東亞合成 <4045> にも注目したい。従来はセルロース繊維をシングルナノセルロースまで解きほぐすには多大なエネルギーが必要だったが、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた酸化反応によって製造時及び使用時にかかるエネルギーを大幅に抑え、コストとCO2の削減を同時に達成できる技術を確立。CNFの価格低下につながるとして期待されている。

 島津製作所 <7701> は、CNFやCNF複合材をさまざまな観点から評価するための技術を持つ。高品質なCNFを効率的に生産して実用化を進めていくためには、分散性、形態、繊維長、結晶化度、耐熱性、成分組成、凝集性、固形分濃度、力学的特性などの項目を測定し、それらをベースとした規格化が重要となるとされ、同社の分析計測技術が生かされる場面が今後更に増えそうだ。

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