【特集】「新型コロナ対策」次のステージへ、感染減少も再拡大警戒し関連銘柄・総点検 <株探トップ特集>
減少傾向をみせる新型コロナ感染者数だが、気を抜けば冬の到来とともにあっという間に「第6波」はやってくる。次に備え、新型コロナと闘う関連株の動向から目が離せない。
―進むワクチン接種、ウィズコロナにらみ更なる体制強化で真価発揮へ―
新型コロナウイルスワクチンの2回目の接種を受けた人が国民の50%に達した。感染者数も減少傾向をみせてはいるが、いまだ重症者の数は多く収束への道のりは険しい。政府は、経済への配慮から行動制限緩和をうかがうものの、再び感染が広がっている世界の状況をみても国内においてもリバウンドへの懸念は拭えない。この先には、感染リスクが高まるといわれる冬が待っている。新型コロナと闘う関連銘柄を総点検した。
●総裁選+衆院選控え政策期待も
東京五輪が開催されるなか新型コロナの感染が急速に広がり、パラリンピック開幕直前の8月20日には1日の陽性者数が2万5852人となった。ここをピークに減少傾向をみせ、現在は1万人前後で推移している。この間、自宅での療養者が急増したうえ、入院が必要とされたとしても受け入れ先の医療機関が見つからないというケースも多く、医療崩壊がまさに現実となった。ここにきての感染者数の減少傾向を背景にして、医療現場では若干落ち着きを取り戻しているとも伝わるが、現在も厳しい状況に変わりはない。
医療現場のひっ迫が問題視されるなか、次期自民党総裁の選出に関心が集まっている。現在のところ、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、そして“ワクチン担当”も兼務する河野太郎行政改革相が出馬を表明しているが、いずれの候補が勝利しても喫緊の課題は新型コロナ対策に変わりはない。こうしたなか河野行政改革相は6日、米ファイザー製新型コロナワクチンについて、10月中にすべての輸入が完了するとの見通しを発表、供給不足への懸念を払拭した格好だ。衆議院選挙も控えるだけに、医療体制の拡充や新たな新型コロナ対策が発信される可能性も高く、株式市場での個別株物色にも影響を与えることもありそうだ。
●取り沙汰されるブースター接種
こうしたなか、取り沙汰されているのがワクチンの効果を高めると言われている3回目の接種、いわゆるブースター接種だ。いずれにせよ、今後数年はワクチン接種が必要とされるとの見方もある。9日には、菅義偉首相の新型コロナ感染症に関する記者会見に同席した政府分科会の尾身茂会長が、ブースター接種について「次の政権については今から検討いただきたい」と発言しており注目が集まった。
ある医療機器を扱う企業に取材すると、「ブースター接種に関しては、具体的な話がないなかで何とも言えない」と断りつつ、「少なくとも、ワクチン接種が数年続くと仮定すれば、当然のことながら今後の業績にも影響してくる」と話す。また、新型コロナの感染拡大が受診控えにつながり業績を圧迫してきたが、ここにきては診療環境も回復に向かいつつある。「(ワクチン需要に)診療需要の復活も加わることで、業績への貢献が望める」と期待感をみせる。長期戦覚悟の新型コロナとの闘いは、医療関連企業の業績にも大きな影響を与えることになる。
【国産・新型コロナワクチン関連】 日の丸ワクチン誕生へ期待感
国内勢も多くのグループが、新型コロナワクチンの開発を急いでいる。トップランナーに位置づけられる塩野義製薬 <4507> は、グループ会社のUMNファーマなどとワクチン開発を進めており、8月24日には国内第1/2相臨床試験について全被験者60例への初回投与が完了したことを発表し、安全性上の懸念は確認されていないとしている。用量を決定した後、約3000例の日本人を対象とする次相試験に速やかに移行し、安全性、有効性の更なる検討を行うとともに、最終段階の試験を年内に開始すべく準備を進めていく。2021年末までに3000万人分の生産体制構築を目標としている。また、第一三共 <4568> 、明治ホールディングス <2269> 傘下のKMバイオロジクスも開発を急いでおり、21年内に第3相試験の開始を目指す。
株式市場においては大阪大学とアンジェス <4563> [東証M]などが共同開発するワクチンに投資家の関心が高い。さまざまな企業が同グループの開発に参画しており、新日本科学 <2395> 、カネカ <4118> 、ダイセル <4202> 、EPSホールディングス <4282> 、フューチャー <4722> 、ファンペップ <4881> [東証M]、タカラバイオ <4974> 、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ <6090> [東証M]、スリー・ディー・マトリックス <7777> [JQG]などがそれぞれの得意分野を生かすことでワクチン開発を進めている。アンジェスは8月17日、「新型コロナウイルスDNAワクチン:高用量製剤での第1/2相臨床試験接種開始」を発表している。
【海外製・新型コロナワクチン関連】 供給不足解消に向け活躍続く
海外製のワクチン関連では、JCRファーマ <4552> が英アストラゼネカADR<AZN>製の原薬製造を手がけている。一時はアストラゼネカのワクチンについて、まれに血栓ができる例が報告されたことなどから供給が躊躇(ちゅうちょ)されていたが、海外への提供を経て国内でも接種が始まるなか、供給不足解消に力を発揮している。同社が、7月29日に発表した22年3月期第1四半期(4-6月)の決算では、営業利益が前年同期比3.8倍の29億8400万円と好調だった。3月からアストラゼネカ製の新型コロナワクチン原液の販売を開始したことなどが寄与した。また、武田薬品工業 <4502> は米モデルナ<MRNA>製の国内供給を担っている。今月7日には、武田が生産する米ノババックス<NVAX>製の新型コロナワクチンについて、製造販売承認取得を条件として、厚生労働省が1億5000万回接種分を購入する契約を締結しており、22年初頭の供給開始を目指すという。
【シリンジ・針関連】 追加接種で高まる思惑
新型コロナワクチンの接種が加速しており、河野行政改革相は11月上旬にも希望する全国民に2回接種が完了するとの見通しを示している。更に、ブースター接種の可能性も高まるなか、シリンジ(注射筒)や針に関連する企業の繁忙は続くことになるのは確実だ。シリンジや針の不足に懸念が高まった昨年7月、加藤勝信厚労相(当時)が、テルモ <4543> 、JMS <7702> 、ニプロ <8086> など医療機器メーカー6社のトップと会談し、シリンジと針の増産を要請、にわかに株式市場でも注目が集まった。ただ、あるメーカーに話を聞くと「シリンジなどの増産が収益に大きく寄与するかは、それぞれの企業の売り上げに占める比率にもより一概には言えない」とも話す。新型コロナ感染拡大の影響による受診控えや手術件数減少などが響いていたものの、それも徐々に回復しており業績にも浮揚力を与えることにつながる。
また工業用ガス大手のエア・ウォーター <4088> も、注射器に残る薬液の量を減らせる「ローデッドスペース注射針」を開発、販売するなどシリンジ関連の一角として注目度が高い。業績も好調、8月5日には22年3月期の連結業績予想について、営業利益を580億円から630億円(前期比23.0%増)へ上方修正した。半導体関連向けの製品需要が増加している。また、医療関連事業における病院向けビジネスの需要回復に加えて、ケミカル関連事業における製品市況の好転や農業・食品分野における生産・物流コストの改善が進展していることも寄与する。
【PCR検査関連】 検査能力増強で新型コロナと対峙
新型コロナの感染拡大につれて PCR検査数も増加しており、関連する企業の業績にも恩恵を与えている。感染が広がり始めた昨年の春ごろには、その検査数の少なさが世界から批判を浴びたが、民間検査各社が急速に検査能力を増強したことで、大幅に増加した検査にも対応できるようになった。PCR検査などを手掛ける主な民間検査企業としては栄研化学 <4549> 、H.U.グループホールディングス <4544> 、ファルコホールディングス <4671> 、ビー・エム・エル <4694> などが挙げられるが、新型コロナ関連検査の市場規模拡大に加え、受診控えも改善傾向にあることから業績は堅調な銘柄が多い。なかで、BMLは8月11日に22年3月期の連結業績予想について、営業利益を192億円から320億円(前期比60.5%増)へ大幅上方修正し、減益予想から一転して増益予想とした。株価はこれを受けて上昇加速、同月16日には4985円まで買われ年初来高値を更新。現在は上昇一服も、4500円近辺で頑強展開となっている。
新型コロナ検出試薬キットや検査機器などで検査体制の拡充に貢献している銘柄にも投資家の視線は熱い。島津製作所 <7701> は、昨年の感染拡大当初から新型コロナ検出試薬キットを迅速に発売するなど対応力に評価が集まっている。8月5日に22年3月期第1四半期決算を発表しており、連結営業利益は前年同期比2倍の124億1800万円に拡大。通期では前期比6.5%増の530億円を計画する。株価は上昇一途。昨年3月中旬には2200円近辺だった株価は、きょうも5450円まで買われ上場来高値を更新している。そのほかでは、新型コロナ検出試薬などを手掛けるシスメックス <6869> やタカラバイオ、自社ブランド製品及びエリテック社向けOEM製品である全自動PCR検査装置を展開するプレシジョン・システム・サイエンス <7707> [東証M]などにも目を配っておきたい。
【酸素関連】 「酸素濃縮装置」不足で一気に関心
自宅療養者が急増し、在宅酸素吸入装置の需要が高まるなか注目を集めたのが「酸素濃縮装置」だ。自治体も「酸素ステーション」を設置するなど、株式市場でも「酸素」をキーワードに一気に関心が高まった。主な関連銘柄として、帝人 <3401> 、エア・ウォーター、日本酸素ホールディングス <4091> 、テルモ、小池酸素工業 <6137> [東証2]、ダイキン工業 <6367> 、フクダ電子 <6960> [JQ]、星医療酸器 <7634> [JQ]などが挙げられるが、“酸素不足”を背景に、関連銘柄の株価を刺激したことは記憶に新しい。現在もなお、酸素濃縮装置などの供給不足は変わらず、予断を許さない状況が続くだけに注目は怠れない。
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