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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―2020年のオクトーバーサプライズは何か-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第43回 2020年のオクトーバーサプライズは何か

●所信表明なき内閣発足

 安倍首相の突然の辞意表明に伴う内閣交代が瞬時に確定し、9月16日に第99代総理大臣菅義偉氏による内閣が発足しました。この内閣交代劇のシナリオはかなり早い段階から綿密に練り上げられていたようです。

 東京都の小池百合子都知事が都内の飲食店などに対する営業自粛要請を解除した6月19日、安倍首相は自分自身の会食を解禁しました。安倍、麻生、甘利、菅の3A+Sの4名が虎ノ門のホテルで会食しました。実は3年前の2017年7月2日にもこの4名が会食し、会食から2ヵ月後の2017年9月に衆院が解散され、10月総選挙が実施されました。今回も政局の機微に触れる問題が話し合われたと見られます。この時から安倍首相は辞意をほのめかすようになったとのことです。

 最大の課題は次期総選挙での大敗を回避すること。もり・かけ・さくら、コロナ対応失敗、現職国会議員3名逮捕で支持率急落の現実に直面し、その挽回を図る方策が練り上げられたのだと見られます。辞任を美談に仕立て上げて、苦労人が総理に上り詰めるサクセスストーリーを御用メディアが流布して、見事に茶番劇が上演されました。

 派閥均衡、論功行賞を基軸とする総選挙用の「急場しのぎ内閣」が発足したのです。最大の焦点は総選挙のタイミングに注がれます。政権発足直後の解散が想定されましたが、菅首相は何らかの実績を示して衆院を解散し、12月に総選挙を実施するシナリオを描いているように思われます。内閣刷新の臨時国会は3日間で閉会されてしまったので所信表明も行われない事態が生じています。

●過剰流動性相場

 GoToトラベル事業は菅氏肝煎りの政策でした。菅内閣発足と同時にGoToトラベルに東京都が組み込まれる方針が示されました。警戒解除と受け止めた市民は9月19日からの4連休に一斉に外出行動を拡大させました。人の移動状況を示す指数は爆発的に拡大しましたが、これが4週間後の新規陽性者数に反映されることになると思われます。

 臨時国会は10月下旬に召集される見通しで、菅首相は11月に衆院を解散し、12月総選挙を挙行するシナリオを描いていると推察されますが、10月中旬から新規陽性者数が急増すると総選挙シナリオが崩壊する可能性があります。国会ではGoToトラベル事業による感染拡大責任が追及されることになります。攻めの総選挙実施シナリオが一転して防戦一方の国会運営に転じる可能性を否定し切れません。

 本年7-9月期のGDP統計が11月16日に発表されます。4-6月期のマイナス28%成長の反動で大幅プラス成長数値が発表される見通しです。この統計数値と第3次補正予算を看板に掲げて総選挙に臨むシナリオが用意されていると思われるのですが、コロナ次第でシナリオが全面転換するかも知れません。

 日本株価が堅調である大きな背景に政府による巨大信用創造があります。コロナ対策として資金繰り支援などの名目で実質無利子・無担保融資が激烈な勢いで創造されました。この資金が株価を支える重要な要因になっていると思われます。しかし、経済停滞が長期化すると巨大な与信が不良債権と化すことになります。過剰流動性相場の反動に強い警戒が求められます。

●米国大統領選のゆくえ

 米国の大統領選は州ごとに勝敗を決します。勝者が州に割り当てられた選挙人を総取りし、獲得選挙人数で大統領当選者を決定します。勝敗を分けるのは、共和、民主で勝者が入れ替わるスイング・ステート=激戦州です。2016年はトランプが激戦州で軒並み勝利して大差でクリントン候補を圧倒しました。ところが、2018年上院選では多くの激戦州で共和党が敗北を喫しました。この流れが維持されるとトランプは敗北することになります。

 各種調査ではバイデン候補の優勢が示されており、トランプ大統領は焦燥感を強めています。大統領選のある年の10月に起こる驚きをオクトーバーサプライズと呼びますが、今年はどんなサプライズが生じるのでしょうか。

 この状況下で最高裁のギンズバーグ女史が死去しました。米国の最高裁は終身制で判事の交代頻度は非常に低いのです。大統領が指名するので大統領の所属政党によって判事の属性が変化します。現在は保守5人、リベラル4人の構成ですが、これが5対3になりました。次の判事は新大統領が指名するのが慣行ですが、トランプ大統領が大統領選前の指名を強行しようとしています。

 現状で5対3ですから慌てる必要はないはずですが、保守系のロバーツ長官が中道で、トランプ大統領の意向に沿う判断を示さない可能性があり、トランプ氏は指名強行を目論んでいるのです。大統領選に敗北したら郵便での投票で不正があったとして訴訟を提起する構えです。その際、最高裁が自分に有利な判断を示すことを狙っています。

●波乱に警戒

 最高裁判事の人事権を持つ上院は共和53対民主47で、議長がペンス副大統領なので、3人の造反が出てもトランプ大統領は指名案の上院通過を実現できることになります。投票結果によっては、トランプ大統領が敗北する場合に選挙結果をめぐる混乱が長期化することも想定される状況です。

 大統領選に強い影響を与えるのが投票日直前のテレビ討論です。テレビ討論は9月29日、10月7日、10月22日の3回予定されています。手元資料なしのスピーチに慣れているのはトランプ大統領です。バイデン候補は高齢によるスピーチ能力低下が懸念されており、その影響が表出しないかどうかが注目点のひとつになります。

 議会で承認が難航していた1兆ドル規模の追加経済対策は決定が先送りされることになりました。雇用統計では5月以降、272万人、478万人、173万人、137万人の雇用者増加が発表されてきました。雇用者数の大幅増加が米国景気の回復期待を支える重要な要因として機能してきました。

 しかし、9月16日FOMCでは米国経済の本格回復に3年以上の時間を要する見通しが示されました。金融緩和政策は続くのですが、FFレートはすでにゼロまで引き下げられており、追加政策発動の余地は極めて限定的になっています。その米国景気の回復に翳りが示されるのかどうか。10月2日発表の9月雇用統計を注目しなければなりません。

 日本株式市場の地合いが極めて強いのですが、そこには健全とは言えぬ訳があります。安易な楽観を戒めることが必要です。

(2020年9月25日記/次回は10月10日配信予定)


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