【特集】工場DX推進、生産性向上へ「予兆保全」再脚光 <株探トップ特集>
工場DX推進のカギを握る「予兆保全」に再注目してみたい。
―メンテナンス効率化需要さらに拡大―
少子高齢化の進展に伴う人手不足の深刻化や新型コロナウイルスの感染拡大など、企業を取り巻く環境が激変するなか、ビジネスの存続・成長を図るうえで最新のデジタル技術を駆使したデジタルトランスフォーメーション(DX)対応の加速化が必須となっている。DXが実現すると、さまざまなデータがデジタル化され、これを収集・蓄積・解析することによって得られた情報を活用することで、業務の効率化や生産性の向上が期待できるからだ。例えば、工場のDXを進めることはダウンタイム(保守や不具合による稼働停止期間)やメンテナンスコストの削減に有効であり、これらを実現するカギを握る「予兆保全」関連株に再注目してみたい。
●トラブル予兆をつかむ勘所
予兆保全は予知保全ともいわれ、機器の状態をセンサーで計測・監視し、そのデータをもとに故障や異常が発生する前ぶれを察知して部品の交換や修理を行い、予定外の生産ラインの停止を回避する保全方法。故障による停止を未然に防ぐことで、長期間にわたる設備全体のダウンを回避し、生産性を高めることができる。
従来の一般的な機器の メンテナンスは、一定期間経過したときに整備・保守する“予防保全”の観点から行われていたが、この方法は工場に数多く並ぶ機械それぞれの状態は考慮されず、平均故障間隔をもとに一律で行われるため、保全のタイミングよりも前に故障してしまうケースがあるほか、逆に耐久性に優れた機械でも一定期間ごとに強制的に保全が行われ、まだ十分使える部品も交換されてしまうことも少なくない。
対して予兆保全では、個々の機械の状態を診断し、故障の可能性が高まっていると考えられる機械から優先的にメンテナンスすることで、技術者や部品など保全に必要なリソースを適切に配分でき、メンテナンスのトータルコストを削減することが可能になる。また、予兆保全によるメンテナンスは計画的に短時間で行えるため、繁忙期を避けるなど生産への影響を最小限に抑えることができるのも大きなメリットだ。
IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の普及加速を背景に、企業のデジタル武装が積極的に進められるなか、製造業にとって工場のDXは早急に取り組むべき課題となっており、生産性や品質を向上するために予兆保全は実現しておきたい管理システムのひとつ。メンテナンスや故障対応を行うフィールドサービス業務を効率化する動きは今後更に加速することが見込まれ、ソリューションを提供する企業のビジネス機会が広がっている。
●YEデジタルなどはAI活用
YE DIGITAL <2354> [東証2]は、自社のIoTプラットフォーム「MMCloud」で蓄積したデータを機械学習し、故障予知を行うサービス「MMPredict」を展開している。これは複数のセンサーデータの相関関係に着目し、AI・機械学習により正常モデルを作成、正常モデルと最新の稼働データとの乖離度から故障予兆を検知。知見追加学習機能により、使い続けることで予兆検知の精度が更に向上するのが大きな特徴だ。
JMACS <5817> [東証2]の「PICCS」は、自社の分析ソフトとAIの利用により対象装置の定期点検やメンテナンスなどの適切な周期を分析・特定することができる。定常状態での動作を数値化することにより異常状態を検出し、装置の劣化・不具合の予兆を社内LANやVPN回線を経由して一括監視することができる。
THK <6481> の「OMNIedge」は、独自のアルゴリズムと豊富なバックデータにより部品の状態を数値化する技術「THK SENSING SYSTEM」で収集・解析し、その部品の状態診断や予兆検知を実現するシステム。NTTドコモ <9437> や伊藤忠テクノソリューションズ <4739> などと連携することで、各社の強みを生かしたシステムの構築が可能になるという。
SCSK <9719> は、AIを活用した時系列データ解析ソリューション「Falkonry」を提供している。これは産業機器やセンサーの振動・温度・圧力などの複数データを取り込み、独自のアルゴリズムにより波形として記録し、自動で学習することにより、故障予兆や製品出荷前検査などで、特異となる波形・振舞いを解析する。
●ソリューション提供企業続々
このほか、たけびし <7510> とアドソル日進 <3837> は、工場のDXを加速させると同時に、クラウドサービスとの連携でサイバーセキュリティー対策を強化した「IoTセキュアサーバー」を共同開発し、7月から販売を開始。この製品はたけびしの通信ソフトウェア「DxpServer」とファイル転送ソフトウェア「HULFT IoT TAKEBISHI」に、高セキュリティーを実現するアドソルの「LYNX Secure」を組み合わせたIoTソリューションで、制御機器の予兆保全など幅広い分野で利活用できる。
また、工場設備の状態監視を容易に実現するAIを活用した予兆保全プラットフォーム「CX-D」などを販売する東京エレクトロン デバイス <2760> 、設備稼働モニターと遠隔モニタリングの情報を融合してリモート監視するIoTソリューション「WIZNEX」を展開している新東工業 <6339> 、福岡市が来年3月まで実施するIoTを活用した水道設備の予兆保全実証実験に参加するコネクシオ <9422> 、モーター異常予兆検知システムなどを提供している日本システムウエア <9739> などにも注目したい。
株探ニュース