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【特集】金相場は新たなレンジ形成も、米マイナス金利の可能性高まれば一段高も <コモディティ特集>

MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 金の現物相場は5月、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の景気低迷見通しや米中関係の悪化を受けて堅調となり、2012年10月以来の高値1764.78ドルをつけた。

 金は戻り高値更新後に1694.56~1764.78ドルの新たなレンジを形成した。各国のロックダウン(都市封鎖)緩和による経済活動再開に対する期待感を受けて上げ一服となったが、中国が香港の国家安全法の導入を採択すると、米中の対立に対する懸念から1700ドル割れの安値を買い拾われて下げ一服となった。米国で白人警官の黒人暴行死による抗議デモが暴徒化し、警察と衝突したことも金の支援要因になったが、株高に上値を抑えられた。

 新型コロナウイルスによるロックダウンで経済活動が停滞し、労働市場が大幅に悪化し、景気後退(リセッション)入りしたとみられている。各国中銀の量的緩和(QE)と経済対策で大量の資金が投入され、株式市場では先行きに対する楽観的な見方が強いが、米中の対立で第一段階の通商合意の先行きに対する懸念も出ている。

 また、米国で抗議デモの一部が暴徒化したことでトランプ米大統領は首都ワシントンへの軍派遣を表明した。暴動に対して軍が投入されれば1992年のロサンゼルス暴動以来となる。白人警官は既に逮捕・起訴されているが、抗議がどのような形で収まるかを確認したい。

 一方、経済活動は再開されたがコロナ禍による労働市場の悪化は続いており、分断されたサプライチェーンが回復するには時間がかかる。フェデラルファンド(FF)金利先物市場では2021年半ばのマイナス金利が織り込まれた。米金融当局者はマイナス金利を否定しているが、新型コロナウイルスの第2波に対する警戒感も残っており、景気後退が長引きマイナス金利の可能性が高まると、金が一段高となる可能性が出てくる。

●米FRBのマイナス金利の可能性と米中対立の行方

 パウエルFRB議長は、新型コロナウイルスの感染拡大で、米経済は長期にわたって成長が低迷するとの見方を示した。マイナス金利については検討していないとし、導入に否定的な考えを示した。他の金融当局者もマイナス金利を否定している。

 ただ、米経済指標は悪化し、景気後退(リセッション)入りを示した。第1四半期の米国内総生産(GDP)改定値は年率換算で前期比5.0%減と速報値の4.8%減から下方改定され、2007~09年の金融危機以降で最大の落ち込みとなった。第2四半期はGDPが年率で最大40%減になると予想されている。直近発表の米新規失業保険申請件数は212万3000件と前週の244万6000件から鈍化したが、10週連続で200万件を上回った。5日に発表される5月の米雇用統計では非農業部門雇用者数が800万人減(前月2053万7000人減)、失業率は19.6%(同14.7%)と労働市場の大幅な悪化が予想されている。

 経済活動が再開されたが、新型コロナ対策でソーシャルディスタンス(社会的距離)などの措置を継続する必要がある。ワクチンが開発されるまでは経済が正常化するのは難しい。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は、12月までに新型コロナウイルスのワクチン接種を開始する可能性を示しており、ワクチン開発が順調に進むかどうかも確認したい。

 第1段階の米中の通商合意が1月に成立したが、新型コロナウイルスの感染拡大で合意履行は遅れている。5月に入りロックダウンが緩和されると、米中が閣僚級の電話会議を行い通商合意実行に向けて協力することで一致したと伝えられたが、トランプ米大統領が新型コロナウイルスに絡み中国批判を続けたことから、米中関係の悪化が懸念された。また、米商務省が華為技術(ファーウェイ)への規制を強化し、中国商務省が強く抗議した。

 一方、中国は全国人民代表大会(全人代)で香港の国家安全法の導入を採択した。米大統領が香港に対する優遇措置を撤廃することを発表すると、中国政府は国有企業に対して米国からの大豆と豚肉の輸入停止を指示した。通商合意には、合意違反による損害に応じて関税を発動することが盛り込まれており、貿易戦争が再燃する可能性がある。

 11月の米大統領選を控え、最新の世論調査によると、バイデン前副大統領がトランプ大統領を大幅にリードした。中国共産党系メディアの環球時報が、通商合意の見直しを求める声が交渉担当者らから上がっていると報じたこともあり、中国は米大統領選でのトランプ大敗を見込んで合意履行を遅らせる可能性もある。ただ、米大統領が支持率を回復させるために奇策を講じる可能性もあり、今後の米中対立と景気の行方を確認したい。

●金ETFに投資資金が流入

 金の内部要因では、FRBの量的緩和や経済対策などを受けてETF(上場投信)に投資資金が流入した。世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は6月2日に1129.28トンと5月1日の1067.90トンから61.38トン増加した。当面の底となった3月20日の908.19トンからは220.22トン増加し、まとまった投資資金が流入した。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは5月26日時点で23万7914枚となり、4月28日の26万2729枚から縮小した。新規売りが新規買いを上回った。株高を背景に調整に対する警戒感が出ている。

 インド政府は5月20日、国内線の運航再開を認めたが、3月25日から始まったロックダウンは5月末まで延長された。6月からはロックダウンが段階的に緩和されるが、感染者は16万人を超え、アジアで最も多い。都市部の出稼ぎ労働者が帰省すると、地方での感染が拡大すると警戒されている。インドで宝飾需要が急減しており、投資需要の増加を相殺している。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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