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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―企業収益と株価の関係-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第34回 企業収益と株価の関係

●コロナ暴落の襲来

 ダイヤモンド・プリンセスが横浜港に帰港したのが2月3日です。日本で新型コロナ感染者が初めて確認されたのは1月16日で、1月下旬には中国・武漢での感染拡大が重大局面を迎えていました。多くの人々が対岸の火事と軽視していた問題でしたが、クルーズ船を洋上培養皿にしてしまったことで問題の重大さが日本でも認識されることになりました。ちなみに筆者が株価急落を警告したのは1月24日執筆の会員制レポートでした。

 あれから3ヵ月の間に世の中も株式市場も激変しました。米国では2月下旬までトランプ大統領がコロナ軽視発言を続けました。様相が一変したのは2月25日に米国疾病対策センター(CDC)国立予防接種・呼吸器疾患センター所長が、米国の地域社会での感染拡大=コミュニティ感染について「起こるかどうかの問題ではなく、いつそれが起こり、この国で重症者が何人出るかの問題になった」と述べたところからです。

 トランプ大統領の楽観論を吹き飛ばすように感染の猛威が米国を覆い尽くしました。5月21日段階で米国の感染者数は155万人、死者は9万3000人を超えました。米国が世界最大の感染国になってしまったのです。

 出口の見えないトンネルに突入して世界の株価が暴落しました。しかし、この暴落に歯止めをかけたのはトランプ大統領でした。トランプ大統領は3月9日に大型経済対策発動を示唆すると、3月27日には議会で2兆ドル(約220兆円)経済対策を成立させました。電光石火のような迅速、大胆な対応でした。

●株価急反発の背景

 株価反発が実現したのは各国の感染拡大スピードに鈍化傾向が観察されたからでもあります。感染拡大鈍化と政策総動員によって株価が実体経済に先んじて大幅反発を遂げたのです。感染拡大を鈍化させた主因は行動抑制です。人と人の接触を減らすことが感染拡大抑止に有効であることが立証されました。

 日本でも3月下旬以降に感染者数急増が観察されましたが、緊急事態宣言発出で行動抑制が浸透した結果、感染減少が実現したのです。ところが、行動抑制は重大な副作用を伴います。経済活動の急激な落ち込みが顕在化するのです。4月の米国雇用者数は2050万人も減りました。4-6月期の米国実質GDP成長率は年率-40%に落ち込むとの予測も示されています。生活様式が巣ごもりに転換することにより、各種レジャー、興行、旅客輸送、飲食、小売が未曽有の落ち込みを示しています。

 トランプ大統領は初動に遅れて米国の感染拡大、死者拡大を招いてしまったため、その挽回策として経済活動再拡大に前のめりの姿勢を示しています。しかし、感染再拡大を招いてしまうと再び行動抑制に戻る必要に迫られることになります。

 安心して元の生活に戻るには特効薬か有効なワクチンが開発されることが必要になるため、その開発情報が株式市場における最重要ニュースになり続けるでしょう。

●経済停滞の長期化

 しかし、ワクチンが開発されても世界の全人口に行き渡る量が確保されないと世界規模のパンデミックを終息させることはできません。年内にもワクチン利用が始動する可能性はあるのですが、十分な量を確保するにはかなりの時間がかかると考えておく必要がありそうです。また、ウイルスの変異スピードが速いとされるため、ワクチンの有効性持続にも疑問符が付けられます。

 コロナウイルスによる死者は欧米で多く、アジアで少ない傾向が観察されています。原因は特定されていませんが体質、DNA特質の相違、複数種類のウイルス存在などの仮説が提示されています。

 日本の場合、公表数値から計算される致死率は5%近く、極めて高いのですが、確認されていない感染者=抗体保有者が多数存在する可能性が指摘され始めています。感染者数が激増すると致死率は大幅に下がります。そうなるとコロナ対策のあり方が根本的に変わる可能性が浮上します。これを想定することも重要になってきます。

 現状ではコロナが重篤症状をもたらすリスクが重視され、人々の行動が大幅に変化しています。この変化が経済活動に重大な影響を与えているのですが、特効薬や有効ワクチンの大量供給が実現するまでの長期にわたり、経済活動停滞が持続することを前提に置く必要がありそうです。

●ピンチはチャンス

 過去10年の日本株価の推移を辿ると株価変動が企業収益変動に連動していることが分かります。株価決定の最重要ファクターは企業収益動向である基本を見落とすことができません。企業収益が大幅拡大した2014年と2017年に株価が大幅上昇しています。

 2020年最大の警戒要因は企業収益が劇的に減少する可能性が顕在化し始めていることです。実質GDP成長率の2桁マイナス示現を考えれば、企業収益激減は十分に想定される現象です。リーマンショックの2008年にも企業収益の劇的減少が観測されています。

 NYダウ日経平均、DAX30などが平仄(ひょうそく)を合わせるようにコロナ暴落の半値戻しを達成しました。米国の超大型経済対策が評価され、感染拡大に歯止めがかかったことを評価した株価変動であると言えます。

 事態は緩やかに改善の傾向を示しており、そのなかで新薬やワクチン開発の情報が株価押し上げ要因として作用しています。3月中頃の先が何も見えない状況とは様変わりの金融環境が実現しています。

 しかし、株価決定の最重要ファクターが企業収益動向にあることを再確認することが重要な局面を迎え始めています。人々の生活様式の激変は支出行動の激変につながります。このことによって浮上するセクター、企業と、沈下するセクター、企業がくっきりと色分けされてくる可能性も高まります。変動の時代が大きなチャンスを提供するというポジティブな側面に注目することが大切な局面を迎えているとも言えるでしょう。

(2020年5月22日記/次回は6月13日配信予定)

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