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【特集】コロナで進む飲食サービスのドーナツ化、都心依存度の低い銘柄はおいしい?
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第40回
新型コロナウイルスの感染拡大は社会、経済に暗い影を落とす一方で、人々は同時に広がりつつある新世界に適応すべく前向きな変化を見せています。テレワークに代表される遠隔コミュニケーションの普及は、その代表例といえるでしょう。
遠隔業務自体は、筆者が証券会社に在籍していた4~5年前から先進国を中心に各国で取り組まれており、異次元の変化が急に到来したわけではありません。ただ、新型コロナ以前は、遅々として進まなかったのは事実です。
その意味で今回の事態は、本来進むべき方向に人々を、そして社会を一気に速度を上げて突っ走らせ、それゆえ、今から以前の場所に戻る意欲はもはや生じ得ない不可逆な現象だといえるでしょう。
TOPIXのセクターパフォーマンスが示す「テレ」「リモート」の隆盛
米グーグルのCEO(最高経営責任者)であるサンダー・ピチャイ氏も、先の4月28日の会見で「足元でデジタル化は急加速しており、緊急事態が終わっても世界は元には戻らないだろう」という旨の発言をしています。
株式市場でも、こうした見方に賛意を示しているようです。TOPIX(東証株価指数)の情報通信業と不動産業のパフォーマンスは乖離しており、投資家は先行きが通信技術の発展とオフィス需要とは反比例の関係性にあると考えています。短期的には両指数は乱高下し、格差が縮まる可能性はありますが、構造的には今後も両者の格差は拡大していくと思われます。
■TOPIXの情報通信業と不動産業の相対パフォーマンス(情報通信業÷不動産業)
出所:データストリーム
このテレワークに代表される遠隔コミュニケーションの普及と、同時並行して身近に起こりうる可能性の高い現象があります。飲食サービス業の空洞化で、ドーナツ化現象とも言われます。
この現象の名称は、都心部は地価の高騰などから人口が郊外に流出、空洞化していく一方で、都心周縁部に人口が集まり、人口の多寡を図示するとドーナッツのように見えることに由来します。
千代田区の昼間の就業者人口は、夜間の31倍
東京圏でいえば、23区の中でも千代田区、港区、中央区そして新宿区、渋谷区などオフィスが多い区から、千葉県、埼玉県、神奈川県や東京都でも23区以外のエリアに住居を構える人が増えることです。
もっとも近年では、高層マンションが次々と建設された湾岸エリアの江東区などには、郊外から移り住んでくる人たちも出てきていますが。
■東京圏のドーナツ化現象のイメージ
出所 :智剣・Oskarグループ
ただこれまでのドーナッツ化現象というのは、昼間と夜間の人口が変化し、昼間はオフィスのある都心部に人口が多く、夜間は住居のある郊外の人口が多いという人の流れがセットでした。下の図はそれを示したものです。東京都の主要5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の昼間と夜間の就業人口の比率(昼間人口÷夜間人口)と、純流入通勤者(流入-流出)の数です。
5区の中でも丸の内や大手町など日本有数のオフィス街を抱える千代田区は、昼間の就業者数が夜間の31倍、純流入通勤者の数は73万人となっています(2015年国勢調査からの東京都統計)。
■東京主要5区の昼夜間就業者人口倍率と、純流入通勤者(2015年)
注:「東京都の統計」を基に株探編集部作成
こうしたドーナッツ化に伴う夜間と昼間の人口変化は、飲食・サービス産業の需要でみると、まず平日ではオフィス街においてランチや夕方からの接待、飲み会に伴う需要が旺盛となります。そして、郊外においては、平日は弁当などの持ち帰りといった中食需要が、土日休日は主にファミリーの外食需要が起こります。
それが今回のような疫病に伴う都市間の移動や外出の自粛、テレワーク化が進むと、都心部ではオフィスとともに飲食・サービス業の需要衰退が起こります。仮に今後もテレワークが普及し続け、それが一般的な働き方として市民権を得たらどうなるでしょうか。
もちろん都心のオフィスに毎日通勤する生活へと戻る人は一定割合で出てくるでしょう。通勤するにしても、毎日ではなく、1週間に数日、なかには1カ月に数日という人も一定割合で出てくると予想されます。
飲食サービス業は「都心依存度」が銘柄選定の要素になる可能性も
とはいえ、都心オフィス街でのランチや飲み会といった飲食サービス需要の空洞化現象が誘発される可能性が出てきます。その一方で、自宅や近所のカフェで仕事をする場合は、休日同様にそのまま郊外の店でランチなどの外食を済ますことが増えます。またアフターファイブでは、家の近い同僚とオフィス街とは違う場所で飲む場面が増えそうです。
■新型コロナ後に起こりうる飲食サービス業のドーナッツ化現象
出所 :智剣・Oskarグループ
その結果、新型コロナ終息後も都心部での飲食サービス需要が想定よりも回復せず、逆に郊外の需要が増加した状態は維持される現象が起こりえます。これが、「飲食サービス業のドーナツ化」です。この想定を投資戦略に落とし込む場合の問題は、都心型と郊外型をどのように区分けするかです。
ここでは外食銘柄に対象を絞ります。広域に多店舗展開する外食銘柄のうち、都心部に集中して出店している企業はあまり回復が見込めず、逆に郊外を中心に展開している企業は長い目で見て魅力的、ということになります。都心依存度に基づいた銘柄選定、とでも言えばよいでしょうか。
これをできるかぎり定量的かつスマートに判別をしたいところですが、この観点は企業の事業戦略に直結するもので、多分に定性面を含むものです。そのため、定量的に実施するにしても、非常に泥臭い作業をこなさなければなりません。平たく言えば、気合と根気で銘柄をスコアリングしていきます。
定義としては、次ページのようになります。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
株探ニュース
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大川智宏(Tomohiro Okawa)
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
新型コロナウイルスの感染拡大は社会、経済に暗い影を落とす一方で、人々は同時に広がりつつある新世界に適応すべく前向きな変化を見せています。テレワークに代表される遠隔コミュニケーションの普及は、その代表例といえるでしょう。
遠隔業務自体は、筆者が証券会社に在籍していた4~5年前から先進国を中心に各国で取り組まれており、異次元の変化が急に到来したわけではありません。ただ、新型コロナ以前は、遅々として進まなかったのは事実です。
その意味で今回の事態は、本来進むべき方向に人々を、そして社会を一気に速度を上げて突っ走らせ、それゆえ、今から以前の場所に戻る意欲はもはや生じ得ない不可逆な現象だといえるでしょう。
TOPIXのセクターパフォーマンスが示す「テレ」「リモート」の隆盛
米グーグルのCEO(最高経営責任者)であるサンダー・ピチャイ氏も、先の4月28日の会見で「足元でデジタル化は急加速しており、緊急事態が終わっても世界は元には戻らないだろう」という旨の発言をしています。
株式市場でも、こうした見方に賛意を示しているようです。TOPIX(東証株価指数)の情報通信業と不動産業のパフォーマンスは乖離しており、投資家は先行きが通信技術の発展とオフィス需要とは反比例の関係性にあると考えています。短期的には両指数は乱高下し、格差が縮まる可能性はありますが、構造的には今後も両者の格差は拡大していくと思われます。
■TOPIXの情報通信業と不動産業の相対パフォーマンス(情報通信業÷不動産業)
出所:データストリーム
このテレワークに代表される遠隔コミュニケーションの普及と、同時並行して身近に起こりうる可能性の高い現象があります。飲食サービス業の空洞化で、ドーナツ化現象とも言われます。
この現象の名称は、都心部は地価の高騰などから人口が郊外に流出、空洞化していく一方で、都心周縁部に人口が集まり、人口の多寡を図示するとドーナッツのように見えることに由来します。
千代田区の昼間の就業者人口は、夜間の31倍
東京圏でいえば、23区の中でも千代田区、港区、中央区そして新宿区、渋谷区などオフィスが多い区から、千葉県、埼玉県、神奈川県や東京都でも23区以外のエリアに住居を構える人が増えることです。
もっとも近年では、高層マンションが次々と建設された湾岸エリアの江東区などには、郊外から移り住んでくる人たちも出てきていますが。
■東京圏のドーナツ化現象のイメージ
出所 :智剣・Oskarグループ
ただこれまでのドーナッツ化現象というのは、昼間と夜間の人口が変化し、昼間はオフィスのある都心部に人口が多く、夜間は住居のある郊外の人口が多いという人の流れがセットでした。下の図はそれを示したものです。東京都の主要5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の昼間と夜間の就業人口の比率(昼間人口÷夜間人口)と、純流入通勤者(流入-流出)の数です。
5区の中でも丸の内や大手町など日本有数のオフィス街を抱える千代田区は、昼間の就業者数が夜間の31倍、純流入通勤者の数は73万人となっています(2015年国勢調査からの東京都統計)。
■東京主要5区の昼夜間就業者人口倍率と、純流入通勤者(2015年)
注:「東京都の統計」を基に株探編集部作成
こうしたドーナッツ化に伴う夜間と昼間の人口変化は、飲食・サービス産業の需要でみると、まず平日ではオフィス街においてランチや夕方からの接待、飲み会に伴う需要が旺盛となります。そして、郊外においては、平日は弁当などの持ち帰りといった中食需要が、土日休日は主にファミリーの外食需要が起こります。
それが今回のような疫病に伴う都市間の移動や外出の自粛、テレワーク化が進むと、都心部ではオフィスとともに飲食・サービス業の需要衰退が起こります。仮に今後もテレワークが普及し続け、それが一般的な働き方として市民権を得たらどうなるでしょうか。
もちろん都心のオフィスに毎日通勤する生活へと戻る人は一定割合で出てくるでしょう。通勤するにしても、毎日ではなく、1週間に数日、なかには1カ月に数日という人も一定割合で出てくると予想されます。
飲食サービス業は「都心依存度」が銘柄選定の要素になる可能性も
とはいえ、都心オフィス街でのランチや飲み会といった飲食サービス需要の空洞化現象が誘発される可能性が出てきます。その一方で、自宅や近所のカフェで仕事をする場合は、休日同様にそのまま郊外の店でランチなどの外食を済ますことが増えます。またアフターファイブでは、家の近い同僚とオフィス街とは違う場所で飲む場面が増えそうです。
■新型コロナ後に起こりうる飲食サービス業のドーナッツ化現象
出所 :智剣・Oskarグループ
その結果、新型コロナ終息後も都心部での飲食サービス需要が想定よりも回復せず、逆に郊外の需要が増加した状態は維持される現象が起こりえます。これが、「飲食サービス業のドーナツ化」です。この想定を投資戦略に落とし込む場合の問題は、都心型と郊外型をどのように区分けするかです。
ここでは外食銘柄に対象を絞ります。広域に多店舗展開する外食銘柄のうち、都心部に集中して出店している企業はあまり回復が見込めず、逆に郊外を中心に展開している企業は長い目で見て魅力的、ということになります。都心依存度に基づいた銘柄選定、とでも言えばよいでしょうか。
これをできるかぎり定量的かつスマートに判別をしたいところですが、この観点は企業の事業戦略に直結するもので、多分に定性面を含むものです。そのため、定量的に実施するにしても、非常に泥臭い作業をこなさなければなりません。平たく言えば、気合と根気で銘柄をスコアリングしていきます。
定義としては、次ページのようになります。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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