【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―緊張感が高まる2020年金融市場
植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)
第27回 緊張感が高まる2020年金融市場
●注目される民主党予備選
金融市場の緊張感が次第に高まりつつあります。 NYダウはこれまで高値更新を続けてきました。3万ドルの大台にまであと700ドルに迫りました。ダボス国際フォーラムに出席したトランプ大統領は経済運営の実績アピールに懸命でした。フォーラムのテーマなどトランプ大統領には関係ないのでしょう。本国の有権者に向けてのアピールだけを考えた対応に見えました。
しかし、トランプ再選の道は平坦ではありません。民主党の指名候補が誰になるか。投票日まで10ヵ月を切った現時点で、まだはっきりしていません。世論調査トップを走るのはバイデン元副大統領ですが、バイデン候補はトランプ大統領弾劾裁判に深い関りを持ちます。ウクライナでバイデン候補の子息に不正があったのかどうかは不明ですが、弾劾裁判の進行はバイデン候補に有利に働くとは考えられません。
リベラル色の強いサンダース候補が「女性は大統領になれない」と発言したと伝えられています。同じリベラル色の強いウォーレン候補から批判を浴びているのです。2月3日のアイオワ州、11日のニューハンプシャー州の予備選等で37歳の新鋭ブーティジェッジ候補、女性弁護士のウォーレン候補が浮上すればブームを引き起こす可能性がありそうです。そうなると大統領選はいよいよ分からなくなるでしょう。順当にバイデン氏が指名候補になる場合は、現職のトランプ氏が有利な展開になると考えられます。
●地政学リスクとパンデミックリスク
2020年の金融市場は波乱含みのスタートになりました。イランのイラン最高指導者ハメネイ師直属のイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍によって殺害されました。イランの反発は極めて強いものでしたが、ウクライナの旅客機がテヘランの空港を離陸直後に墜落した原因がイランによるミサイル誤射であることをイランが認めたことにより情勢が変化しました。イラン内部で現体制を批判するデモまで実施されたと伝えられています。
欧米の石油メジャーによってイランは最大の脅威です。中東産油国のなかでイランだけがイスラム革命によって石油資源をイスラム人民の支配下に移行させたのです。イスラム革命が他の産油国に波及することを阻止すること。これが欧米石油メジャーの最重要課題なのです。
今回のミサイル誤射を大義名分にイランの政治体制を転覆させる工作活動が活発化することも予想されます。イランが米国との全面戦争を回避しようとしていることは明確ですが、イラン、シリアを中国やロシアが支援していることもあり、中東一帯で不測の事態が発生する可能性を全面的に否定することはできません。
さらにその後、新たなリスクが表面化しました。中国の武漢で発見された新種のコロナウィルスが全世界に伝播する兆候が確認されたためです。
●米中第一段階合意は調印された
問題の規模は現時点では2002年から2003年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)よりは限定されていますが、今後、爆発的な広がりが生じるリスクが認識されています。金融市場ではリスクオフの対応が拡大しており、これも金融市場の緊張感を高める要因になり始めています。
会員制レポートに詳述しましたが、リスクの拡大に対する適確な対応が求められます。2019年は米中貿易戦争の拡大が最重要テーマになりましたが、昨年9月を転換点にして貿易戦争が拡大から縮小に方向を転じました。
日本株価は右肩下がりの上値抵抗線で上昇を阻まれていましたが、9月になって初めてこの抵抗線を突破することに成功しました。米中の問題が解決に向かうことが世界経済の成長持続に必要不可欠であることが改めて認識されたと言えます。
12月にはついに米中通商交渉の第一段階合意が成立し、この1月15日に米国ワシントンで調印式が挙行されました。NYダウはこの瞬間まで新高値更新という力強い推移を示してきました。
しかし、手放しの楽観は許されません。第一段階の合意が成立して、制裁関税第4弾の一部が実施見送りになりましたが、これまで発動された制裁措置全体から見れば、解除された部分、先送りされた部分は決して大きなものではないのです。焦点はいつ全面的な解決が実現するのかということですが、現時点ではその見通しはまったく見えていないのです。
●日本経済の下方圧力を探る
トランプ大統領の頭のなかは大統領選で一杯です。米中貿易戦争にどう対応するのが大統領選に最も有利であるか、との視点でしか問題が捉えられていません。大統領選の時点で、中国に対してこれほど強い制裁を課しているとアピールする方が有利であるとトランプ大統領が判断している可能性は高いと思われます。
また、トランプ大統領は弾劾裁判を突破しなければなりませんが、最大のカギを握っているのがボルトン元大統領補佐官だと見られています。米朝交渉や米中交渉の進展を妨害してきたのがボルトンだと見られているのですが、そのボルトンがウクライナ疑惑の核心を握っていると見られています。トランプ大統領はボルトン元補佐官の主張に耳を傾けることを強要されている可能性があります。
日本では黒田日銀総裁が政策決定会合後の記者会見で、消費税増税の影響は軽微であるとの認識を示しましたが、2014年の増税時にも類似したコメントを出しています。純粋な経済調査に基づく見解ではなく、財務省寄りのポジショントークの可能性が高いと思われます。
消費税増税が実施される前に、日本経済の悪化は鮮明になっていましたので、増税実施で悪化が加速する懸念さえ生じています。株価変動の最大要因は企業利益変動ですから、消費税増税が株価に与える下方圧力について慎重な見極めが必要であると考えます。
(2020年1月24日 記/次回は2月15日配信予定)
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