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【特集】急騰する金相場、米軍基地への報復攻撃で風雲急を告げる中東情勢 <コモディティ特集>

MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 金の現物相場は年末にかけて11月からのレンジを上放れ、1500ドル台を回復した。年初に米国がイランのソレイマニ司令官を殺害し、中東情勢の緊張が高まったことで一段高となり、8日の朝方に2013年3月以来の高値1610.18ドルをつけた。一方、東京金先限は上場来高値5574円となり、現物の税込小売価格は6149円と1980年1月の史上最高値6415円以来の高値となった。

 イランの最高指導者ハメネイ師は米国に対し「激しい報復」を宣言している。8日朝にはイランがイラクのアルアサド基地にロケット13発を発射し、殉教者ソレイマニ作戦を開始したことが伝えられた。トランプ米大統領はイランが報復した場合、重要施設52ヵ所を攻撃すると警告しており、武力衝突の可能性が高まっている。また、イランは核合意の制限を全面的に順守しないと発表しており、核兵器の開発が進むかどうかも焦点である。

 核開発については北朝鮮の動向も注視する必要がある。北朝鮮は非核化協議で米国に譲歩を要求し、一方的に2019年末を期限としていたが、金正恩委員長は12月末に開かれた総会で核開発や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を再開する可能性を示した。米朝関係が悪化すると、地政学的リスクが意識される。

●米中の第1段階の通商合意で景気見通しを確認

 米中通商協議は第1段階の合意に達し市場はリスク選好の動きとなったが、株安に対する警戒感は残り、金の下支え要因になった。

 第1段階の署名式は15日に予定されている。中国が米国産の農畜産物の購入を拡大することなどで合意し、米国は昨年12月15日に予定していた対中追加関税の発動を見送り、1200億ドル相当の中国製品に課している15%の追加関税率を7.5%に引き下げることを決定した。

 ただ、2500億ドル相当の輸入品に課している25%の関税率は維持している。米中摩擦によって世界経済の減速が続けば緩和的な金融政策が見込まれ、金の支援要因になるとみられる。第1段階の通商合意は署名30日後に発効する見通しであり、発効後の各国の経済指標を確認したい。

 第2段階の協議がいつ始まるかも焦点である。ただし協議が開始されても合意に達するのは11月の米大統領選後との見方もあり、米中の貿易摩擦は続くとみられている。

●英国のEU離脱で離脱後に対する懸念が残る

 12月の英総選挙で、ジョンソン英首相が率いる与党保守党が圧勝し、1月末の欧州連合(EU)離脱が確実視されている。英議会で同首相の施政方針をエリザベス女王が読み上げる「女王演説」が行われ、女王は「わが政府の優先事項は1月31日のEU離脱を達成することだ」と述べた。

 ただ、同首相はEU離脱後の移行期間について2020年以降への延長を阻止する法案の成立を目指すとしており、離脱後の政権運営に対する懸念が残っている。将来の関係についてEUと合意に達するには時間が足りないとみられており、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は移行期間を20年末以降に延長する必要があるかもしれないと述べている。延長阻止に英首相が固執すると、混乱を招くことになりそうだ。

●金ETFに投資資金が戻る

 金の内部要因では、ETF(上場投信)に投資資金が戻ったことやニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しが過去最高を更新したことが支援要因となった。世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は1月7日時点で896.18トンと昨年12月17日の880.66トンが当面の底となって増加に転じた。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは12月31日時点で32万7066枚となり、過去最高だった16年7月5日時点の31万5963枚を上回った。当面の底である12月10日時点の27万0920枚から新規買い・買い戻しが入って買い越しが拡大した。強材料が一巡すると、利食い売り主導で調整局面を迎える可能性もある。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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