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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―トランプ路線是正を後押しするトランプ弾劾着手

スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役 植草一秀

第22回 トランプ路線是正を後押しするトランプ弾劾着手

●米中合意への期待

 10月30日のFOMCでFRBは3回連続の利下げを決定しました。9月FOMCで公表されたFFレート見通しでは5名のメンバーが年内利上げを見通しました。年内追加利上げ7名と併存する異例の状況が明らかになりました。このため、10月FOMCでは様子見の可能性がありましたが、結果は3回連続利下げ決定になりました。

 トランプ大統領の意向を忖度するメンバーが影響力を高めていることが窺われます。ただし、声明文から「景気拡大のため適切に行動する」という文言が削除されたことが、今後の金利据え置きを示唆したものと受け止められました。

 11月1日発表の10月米雇用統計では雇用者増加数が市場予想を上回り、前月値も上方修正され、非農業部門雇用者増加数の3ヵ月移動平均が17.6万人になりました。米国経済が巡航速度での拡大を続けていることが示唆されたのです。

 こうしたなかで、11月7日には米中が段階的な関税撤回で合意したとの報道があり、内外株価が急騰しました。しかし、その後に米政権内部で関税撤回計画に対して強い反対があることも報じられたため期待が一部剥落する状況が生まれています。

 内外株価は米中協議再開日程が公表された9月5日以降、強い基調に変化を示しています。昨年来、世界経済の先行き不安をもたらしてきた米中貿易戦争に収束の方向感が見え始めているからです。

●中国外交の勝利

 鍵を握るのはいうまでもありません。トランプ大統領のさじ加減なのです。一人の人物が世界経済、世界金融を左右してしまう現実に問題があるとも言えるでしょう。しかし、それが現実なら投資戦略構築は、この現実を踏まえることが必要になります。

 振り返れば、昨年3月以来、米国による対中国貿易戦争遂行が世界経済、金融市場を攪乱する最大の要因になってきました。中国の慣行に問題があることは否定できませんが、米国の振る舞いはその問題のレベルをはるかに超えるものであると言わざるを得ません。トランプ大統領の施策は世界経済を大恐慌の1930年時点にタイムスリップさせてしまう側面を有しています。

 中国は当初、譲歩姿勢を鮮明にしていましたが、米国の要求がエスカレートすると態度を硬化させました。産業補助金と民間企業の技術移転全面禁止が米国から要求されるに至り、中国は米国の要求を拒絶する姿勢に転換しました。この中国の毅然とした姿勢がトランプ大統領のスタンスを変化させる原動力になっています。同時に、トランプ大統領に対する弾劾手続きに向けての調査始動がトランプ大統領の行動を変化させているのだと思われます。

 「毒をもって毒を制する」という言葉がありますが、強引な手法を押しとどめるには腹を据えた毅然とした取り組みが重要になるのだと思います。

●弾劾調査始動の影響

 9月5日に米中交渉再開日程が公表されて以降、米中交渉の進展を示唆する情報が伝えられてきました。10月10-11日にワシントンで開かれた閣僚級会合で部分合意が成立しました。11月7日には制裁関税の段階的撤廃での合意も伝えられ、米中首脳による合意文書への署名も具体的に論じられるようになりました。

 11月16-17日のチリでのG20首脳会議の際に米中合意が調印されるとの見立てが浮上しましたが、政情不安でG20会合が中止になってしまいました。このため、いつどこで合意が成立するのかが不確定になっています。

 10月24日のペンス副大統領演説は昨年10月と同様に、中国に対する厳しい姿勢を示すものでしたが、ペンス副大統領は「中国の発展を抑えこむつもりはなく、建設的な関係を求めている」とも表明し、米中協議への影響に配慮する面をも示しました。

 トランプ大統領は米中関係を正常化し、金融政策をFRBに委ねるのが適正です。これまでは、対中国超強硬路線を突き進みつつ、FRBに大幅利下げを強要するスタンスでしたが、この路線が緩やかに修正され始めているように見えます。背後にあるのが下院によるトランプ大統領弾劾に向けての調査始動です。この動きは大統領再選を目指すトランプ大統領にとっての最大の障害になります。

 その影響を緩和するために、対中国強硬姿勢の軟化による株価上昇誘導に軸足を移し始めたのだと思われるのです。この意味では民主党の戦術がトランプ経済政策の適正化をもたらしてしまうという皮肉な結果がもたらされる可能性が浮上します。

●中国経済の底堅さ

 米中協議進展への期待を背景にNY株価が上昇し、これに連動して 日本株価も上昇傾向を強めています。消費税増税実施の影響で日本株価上昇が制約されていましたが、米中協議進展で日本株価が上値抵抗ラインを突破しました。昨年来の最大の株価抑制要因であった米中貿易戦争の収束は当然のことながら極めて強い影響を金融市場に与えるのです。

 米中貿易戦争が収束されるなら、株価だけでなく、金利や為替、金価格、REIT指数にも影響を与えることになるでしょう。実際にドル円レートは9月5日以降、米中協議情勢の変化に敏感に反応して、ドル高=円安の変化を垣間見せています。史上最低水準に低下した日米長期金利にも反転上昇の気配が広がっています。極めて重要な変化の胎動が観測され始めています。

 とはいえ、米中協議が現時点で決着したわけではありません。米中首脳会談の日時も場所も確定していませんので、まだまだ紆余曲折の余地は残されているのです。逆に言えば、米中協議決着という「材料」が出尽くしになるのは、もう少し先だということにもなります。

 『金利・為替・株価特報』で指摘してきましたが、米中協議の変化をいち早く織り込んでいるのが上海総合指数であると判断できます。この市場には特別な情報が流入しているのではないでしょうか。この市場を注目する意味は大きいと思います。中国製造業PMIが堅調に推移していることにも注意を払う必要がありそうです。

(2019年11月8日 記/次回は11月23日配信予定)

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