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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―トランプ金融変動劇場「秋の陣」

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第19回 トランプ金融変動劇場「秋の陣」

●ボルトン更迭の副作用

 トランプ大統領は安全保障担当のボルトン大統領補佐官を更迭しました。ボルトンこそ米国軍産複合体を代表する外交強硬派の中核人物です。トランプ大統領は米国が世界の警察官の役割を担う立場から撤退するべきとの考えを有していると見られます。これまで何度か存在した米国による他国への軍事攻撃開始の機会に、結局のところ、トランプ大統領は引き金を引かない決断を示してきました。

 それでもボルトンのような人物を重要ポストに登用しなければならなかったところに米国政治の深層が垣間見られます。大統領といえども万能の存在ではなく、議会を支配する与党勢力との協調がなければ政権は立ち行かないのです。それでもトランプ大統領はそのボルトンを排除しました。トランプ流の外交を推進する体制確保に一歩前進を示すことができたと言えます。

 しかし、ボルトン解任を契機にトランプ自身の立場が揺らぐ事態が発生しています。ウクライナの大統領に民主党の有力大統領候補であるバイデン元副大統領周辺の捜査を依頼したことが暴露されたのです。ウクライナ外交に強い影響力を有していたのがボルトン元補佐官です。ネオコン最右翼のボルトン氏排除に対してボルトンは正面から挑戦状を叩きつけたとも言えるでしょう。

●金融市場変動のパターンを掴む

 筆者は内外株式市場が7月末を境に調整局面を迎える可能性が高いことをレポート等に記述してきました。『金利・為替・株価特報』2019年7月29日発行号の参考銘柄に「日経平均先物の売り」を掲載したことは本コラムにも記述しました。日本の参院選が終わり、米国FOMCで利下げが決定され、米中通商協議が終了した段階で好材料が出尽くしになることを想定したものです。

 このタイミングでトランプ大統領が米中貿易戦争を拡大させるツイートを発しました。5月5日のツイート発信のタイミングと同じく、米国株価が高値を記録するタイミングで対中強硬策を発するのです。この強硬策を背景に内外株価が急落しました。しかし、株価の本格下落はトランプ大統領の望むところではありません。株価が急落すると態度が軟化するのも恒例のことになっています。

 8月中は米中の応酬が続いて金融市場に不安心理が広がり始めましたが、こうなると市場の空気を変える対応が浮上してきます。9月5日には10月初旬の米中閣僚級会合と9月中旬からの準備会合開催で米中両国が合意したことが明らかになりました。これを契機に内外株価が反発に転じたのです。こうした循環変動を的確に洞察できれば株式トレーディングの運用パフォーマンスを大きく引き上げることも可能になります。

●FRBの内部対立

 9月18日のFOMでFRBは予想通り0.25%の利下げを決定しました。7月FOMCから2回連続の利下げ決定になりました。トランプ大統領は大幅な利下げを求めており、今回のFRBの対応にも不満の意思を表明しました。ところが、FOMC内部の空気はトランプ大統領の想像を絶するものになっています。

 今回のFOMCでは経済見通しとともにFFレート見通しが公表されました。これによって、年末のFFレート見通しが三分されていることが判明しました。17人の委員のなかで、年内追加利下げ見通しを示したのが7人、年末までの金利据え置きが5人いた一方で、年内に利上げを実施するとした委員が5人もいたのです。

 金利据え置きは普通に理解できますが、残り3ヵ月の間に利上げを実施するとした委員が5人も存在することは驚きです。トランプ大統領はこの事実を把握しているのでしょうか。トランプ氏が事実を知れば強権を発動することも否定し切れなくなります。

 NY連銀元総裁のダドリー氏は、FRBの政策運営がトランプ大統領の常軌を逸する対中国強硬政策を側面支援するものになってしまうことに警告を発しました。この発言自体が、政治的思惑を含むものとして批判の対象とされましたが、ダドリー氏の指摘には正鵠を射る面があります。金融政策は本来、特殊な経済政策運営を前提として運営されるべきものでないからです。

●新たな材料出尽くしか

 9月初旬から株式市場は米国利下げと米中協議進展期待で反発地合いを強めてきました。日本では消費税増税が予定されていますが、米中協議進展のインパクトは大きく、株価指標から判断される日本株価の割安感を背景に日経平均株価も4月高値に接近する上昇を示しました。

 しかし、9月18日に利下げが実施されるとともに米中協議進展に対する期待の後退が重なり、株式市場には新たな翳りが広がっています。パウエル議長は会見で、「今後も適切に行動する」と述べましたが、それが具体的に何を意味するのかは不明確になり始めています。

 米中閣僚級協議は10月7日の週に行われる見通しですが、9月19日から始まった次官級協議が不調に終わったことが報じられました。中国の代表団が翌週に予定していた米モンタナ州とネブラスカ州への農業視察を中止したことが明らかにされたのです。

 トランプ大統領は、米中交渉は順調に進展していると強調しますが、その言葉で市場が楽観的になったところでトランプ大統領がはしごを外すことが繰り返されてきただけに、楽観論を自制しようとする市場反応は順当なものでしょう。

 10月4日に発表される雇用統計も今後の金融政策運営を占う意味で重要な意味を持つことになります。日本では消費税増税が断行されます。消費がどこまで落ち込むのかを見極める必要が出てきます。10月初旬は中国建国70周年国慶節にあたるため、市場変動が抑制される可能性が高いと見られていますが、その後の反動に強い警戒が必要になるでしょう。

(2019年9月27日 記/次回は10月12日配信予定)

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