【市況】明日の株式相場に向けて=関税交渉で見えたトランプ大統領の本音

日本側からは、トランプ関税に対し強い遺憾の意を表明し見直しを申し入れるというのが既定路線であったが、「何もお土産なしではトランプ大統領が了承するわけもなく、とりあえず今回は、次回以降の会合で早期に合意できるよう努力しましょうという意思確認の場となった。その意味ではゲンコツで殴られるような衝撃は回避されたが、為替について円安牽制発言が出なかったということ以外は、別にポジティブでもなかった」(中堅証券ストラテジスト)という声もある。だが、トランプ氏が赤沢氏に対し「日本との協議が最優先である」と言ったのは、社交辞令もあるが多分に本音の部分もあったかと思われる。
米国にとって本当の敵は中国という認識で、これはバイデン政権時代から変わらないと思われる。だが現状は、強引な関税政策で世界すべてを敵に回してしまっているような構図となっている。とりわけ、BRICS各国が中国寄りに傾いている状況下、今後対米包囲網が敷かれると、米国からのキャピタルフライトが加速する可能性が高まる。足もとでは売りターゲットの米国債がアキレス腱となっているが、加速すれば一段とトリプル安の洗礼を受けることになり、政権基盤の瓦解につながりかねない。少なくとも日本は子分として抱えておかなければならない、というトランプ政権の思惑を感じ取ることができる。
いずれにせよ米国との関税交渉第一弾は、その中身のあるなしにかかわらず、円高圧力など日本にネガティブな圧力がかからなかったという点で株式市場はポジティブ評価した。この評価は実需の買いではなく、空売り筋の買い戻しを誘発するにとどまっており、その点で楽観はできないものの、副産物として個別株のテーマ買いの流れを引き出した。
循環物色の一環と言えば、その域を出ないかもしれないが、きょうは防衛関連株に買い人気が集中した。最近の「内需買い・外需売り」のアンワインドが反映された面もあるが、その引き金となったのは、今回の日米交渉においてトランプ氏が直前に参加を表明するとともに、SNSで軍事費用についても俎上に載っていることを示したことにある。売買代金トップとなったのは川崎重工業<7012>で一時600円を超える上昇で8200円台まで上値を伸ばした。そして売買代金2位となった三菱重工業<7011>も頑強な値動きを示し、売買代金4位となったIHI<7013>は後場の取引で利食われ急速に萎んだものの、後場寄り時点で960円高と値を飛ばし1万1000円台まで買われる場面があった。防衛三羽烏の面目躍如だが、これ以外にも“リアル防衛関連”である東京計器<7721>、日本アビオニクス<6946>、シンフォニア テクノロジー<6507>、菱友システムズ<4685>、IMV<7760>といった銘柄群に投資マネーが流れ込んだ。
一方、半導体関連もこの日はショートカバーの動きが顕在化した。午後に発表された半導体受託生産世界首位のTSMC<TSM>の25年1~3月期決算は、最終利益がコンセンサスを上回る伸びをみせたほか、4~6月期のトップラインについて1~3月期を上回るとの見通しを示したことで、際どく合格点を確保、前日のASML<ASML>の二の舞は避けられた。ただ、例えばディスコ<6146>の上げ幅は555円で、前日の下げ分の2260円の4分の1程度戻したに過ぎない。戻り売りを凌駕して、上昇トレンドに復帰するのは至難の業である。株式需給にフォーカスすれば、半導体の短期リバウンドに照準を合わせるよりは、防衛関連の押し目を丹念に拾っていく方が戦略として有効性が高い。
あすのスケジュールでは、4月の月例経済報告のほか、朝方取引開始前に発表される3月の全国消費者物価指数(CPI)、2024年の全国CPIなどが注目される。また、前場取引時間中に3カ月物国庫短期証券の入札が行われる。米国はグッドフライデー(聖金曜日)の祝日で株式・債券・商品市場がいずれも休場となる。なお、この日はアジアでも香港、シンガポール、インド、インドネシア、フィリピン市場などが休場となる。(銀)
出所:MINKABU PRESS