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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―FOMC・米中通商協議・消費税増税の影響

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第15回 FOMC・米中通商協議・消費税増税の影響

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

●参院単独過半数を失った自民党

 7月21日に実施された第25回参議院議員通常選挙で安倍首相が率いる自民党は改選議席を9下回る57議席しか獲得できず、参議院単独過半数を維持できませんでした。公明、維新を合わせた改憲勢力は非改選を含めた合計で157議席にとどまり、憲法改定発議に必要な164議席に届きませんでした。改憲勢力3分の2を確保して憲法改定を発議する戦略に大きな支障が生じることになりました。

 選挙の投票率は過去2番目に低い48.8%にとどまりました。投票率が下がると、必ず選挙に足を運ぶことが観測されている安倍内閣支持勢力にとって極めて有利なはずですが、現実には多くの激戦区で野党共闘候補に惜敗するという結果に終わりました。

 安倍内閣与党が大勝していれば、年内に衆院総選挙実施の可能性が高かったと考えられますが、与党は期待した結果を得られなかったため、次の衆院総選挙の時期がいつになるかが流動的になったと言えるでしょう。衆議院の任期は2021年10月まであり、それまでに衆院総選挙が行われることになりますが、本年10月に消費税増税が強行されることになっており、日本経済が消費税増税でどのような影響を受けるのかが、選挙日程を考察する上で重要な意味を持つことになります。

 7月21日の投票日まで 日経平均株価は2万1500円から2万2000円のゾーンを中心に底堅い推移を示しましたが、選挙後にどのような変化が生じるのかを注意深く考察することが必要になります。

●株価下落の二大要因

 日米株価は昨年1月末と10月初に高値を記録しました。1月末からの株価調整は米国FRB議長交代に伴う不安心理を背景にして生じたものでした。パウエル新議長がトランプ大統領からの圧力を背景に必要な利上げを実施しないのではないかとの懸念が広がったのです。

 そのために、米国では長期金利が上昇(債券価格が下落)するなかで米ドルが下落し、株価も下落するというトリプル安が発生しました。NY株価下落は日本を含めてグローバルに波及しました。この不安心理を払拭するように、パウエル議長は昨年4度の利上げを敢行しました。論より証拠で毅然とした利上げ敢行姿勢を示し、市場の不安心理払拭に努めたのです。

 金融市場は不安心理を払拭し、10月初に日米株価が高値をつけました。米国は史上最高値、日経平均株価は27年ぶりの高値となりました。ところが、10月から12月末にかけて再び世界の株式市場に動揺が広がりました。最大の背景は米国FRBが12月に昨年4度目の利上げを敢行するとともに、2019年にもさらに2度の利上げを行う見通しを示したことでした。利上げに消極的ではないかとの市場の不安を打ち消す段階を超えて、経済を抑制しすぎてしまうオーバーキルの懸念が広がったのです。

 グローバルな株価下落が広がった理由はこれだけではありませんでした。もう一つの要因として米中貿易戦争が勃発、激化したことです。上海総合指数はこの影響を受けて昨年1月末から年末まで下落し続け、下落率は32%にも達しました。

●7月末利下げ実施の観測

 さらに、日本ではもう一つの要因が影響を与え始めました。安倍首相が昨年10月15日に、2019年10月から消費税率を10%に引き上げることを具体的に指示したのです。昨年10月から12月にかけての2割を超す株価下落は、これらの三要因を背景として発生したものです。

 本年に入ってからも、この三つの要因が株価変動に強い影響を与え続けています。市場の潮流を転換させたのは1月4日のパウエル議長発言でした。同議長は1月4日、「迅速かつ柔軟に政策を見直す用意」と発言し、金融政策運営の軌道修正を示唆しました。この発言を契機にグローバルな株価反転が実現したのです。

 米中貿易戦争についても紆余曲折がありましたが、米国が中国との交渉を軟着陸させるとの楽観的見方が優勢になり、4月末までグローバルな株価反転が支えられました。

 ところが、そのトランプ大統領が流れを暗転させました。5月5日に中国の対米輸出5500億ドル全体に25%の制裁関税を発動する構えを示したのです。5月の米中協議は物別れに終わり、グローバルな株価反落が進行しました。

 この窮地を救ったのは、またしてもパウエル議長でした。同議長は6月4日に「適切な行動を取る」と発言。ここから米国の早期利下げ実施の流れが生み出されました。この路線は6月19日FOMC、7月10日パウエル議長議会証言で踏襲され、7月31日FOMCでの利下げ実施が確実視される状況が生み出されています。

●最大のヤマ場を迎える金融市場

 これを背景にして NYダウは7月に2万7000ドル台に上昇。7月16日に史上最高値を記録しています。これと対照的に 日経平均株価は上値が抑制される推移を続けています。参院選投票日直前の7月18日には前日比423円安を記録しました。消費税増税の影響を織り込み始めるものだったと見られます。しかし、同日、米国FRB幹部が利下げを強調する発言を示し、利下げ幅が0.5%になるとの期待が広がって日本株価は急反発し、選挙への影響が回避されました。

 それでも、新高値更新のNYダウと上値の重い日経平均株価との相違が際立っています。参院選投票日直前には、中断されていた米中通商協議が7月末に再開されるとの情報も伝えられ、これも日本株価を支える要因になりました。7月末にFOMCと米中通商協議が予定されており、8月2日には7月米雇用統計が発表されます。金融市場は大きなヤマ場を迎えることになります。

 利下げの実施が当面の好材料出尽くしになる可能性を考慮しておく必要があります。米中通商協議も極めて重要ですが、前回の記事にも記述したように、米中摩擦の持続がFRB利下げ政策の大前提になっている点に注意が必要です。利下げ路線を堅持するには、米中摩擦がかなりの強さで残存することが必要との側面があるのです。トランプ大統領がそこまで計算に入れているとすれば、相当の策士であるということになります。

 他方、日本では株価が消費税増税の影響を織り込む場面が到来する可能性が高まります。ただし、次の衆院選を意識して大型景気対策の可能性が浮上すれば、新たな金融市場変動になることも考えられます。7月末、8月初の重要イベントから目を離せない展開になるでしょう。


(2019年7月26日 記/次回は8月10日配信予定)

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