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【特集】メディシノバ Research Memo(3):イブジラストは進行性多発硬化症でライセンス契約交渉中(1)


■開発パイプラインの動向

1. イブジラスト
イブジラストは、気管支喘息及び脳梗塞発症後の治療薬として杏林製薬が1989年に日本で上市した医薬品で、既に320万人以上の患者に処方されており、安全性に関しては問題のない医薬品となっている。メディシノバ<4875>は、2004年に多発性硬化症を適応疾患として独占的・全世界(日本、中国、韓国、台湾を除く)での再許諾可能な開発販売のライセンス(点眼薬を除く)を取得した。その後、2009年の旧Avigen(アヴィジェン)の吸収合併及び独自の研究開発の結果、現在は神経系疾患において主に5つの適応領域において開発を進めている。各開発動向は以下のとおり。

(1) 進行型多発性硬化症
多発性硬化症とは中枢性脱髄疾患の1つで、神経線維を取り巻くミエリン(電線を被覆する絶縁体のようなもの)が炎症で壊れ、神経伝達がうまく伝わらなくなることで発症すると考えられている。症状としては、手足のしびれ、目が見えなくなる、失禁、歩行困難などを引き起こす。高緯度地方に住む白人に多い病気で、患者数は世界で約230万人、米国で40万人以上、日本では1.3万人と言われており、厚生労働省では難病指定されている疾病である。

多発性硬化症には発症後の状態によって再発寛解型(症状が出たり、治まったり(寛解)を繰り返すタイプ)、一次進行型(発症後、症状が治まらずに進行(悪化)するタイプ)、二次性進行型(再発寛解型から進行型に移行するタイプ)の3タイプに分類され、全体の約85%が再発寛解型、約15%が一次進行型と診断され、再発寛解型については約半数が10年以内に二次性進行型へ移行すると言われている。また、症状悪化の進行は、脳の委縮に起因することがわかっている。

2005~2008年に欧州で実施された多発性硬化症のP2治験結果(被験者数300人)から、イブジラストが脳萎縮の抑制効果があり、進行型多発性硬化症の症状進行を予防・抑制する効果が高いことが明らかとなり、同結果を受けて進行型多発性硬化症を適応対象として米国でP2b治験を2013年から開始し、2017年5月に終了した(被験者数255人)。なお、同治験ではNIH(国立衛生研究所)より、11.3百万ドルの助成金が拠出されている。

治験デザインは、現在治療薬(コパキサン、INFβ)を服用している被験者に対して、プラセボ対照二重盲検試験を2年間実施し、主要評価項目はイブジラストの脳萎縮抑制効果と安全性及び認容性をプラセボ群と比較するというもの。2017年10月に発表されたトップラインデータでは、脳萎縮抑制効果について、プラセボ群に対して委縮進行率が48%抑制されたとのデータ結果が示され、統計的有意差でp=0.04と成功基準となるp=0.05以下の水準を達成した。また、安全性及び認容性も良好であったとの結果が出ている。ちなみに、2017年3月に一次進行型多発性硬化症治療薬としてFDAが初めて承認したロシュ社(スイス)のオクレリズマブ(Ocrevus)は、脳萎縮の進行抑制率が17.5%となっており、イブジラストの脳萎縮抑制効果について大きな優位性が確認されている。

また、2018年2月発表された追加データによれば、二次評価項目であった「継続する身体的障害の進行リスク」が、プラセボ群に対して26%低下したことが確認されている。オクレリズマブは同数値が24%となっており大きな差は見受けられないが、これはオクレリズマブの24%の有意差を確認された観察期間が、治験期間2年間に12週間延長した期間のデータであり、イブジラストでの結果は96週時点でのものであり、同様の期間で比較していれば、さらに差は広がるものと考えられる。P3治験については、現在交渉が進んでいるグローバル製薬企業とのライセンス契約締結後に開始する見込みとなっているが、これらのデータから判断すると開発に成功する可能性は高いと弊社では見ている。ちなみに、P3治験から承認申請に進む確率を疾患部位別で見ると、中枢系では57.4%となっている。また、薬剤の種類別で見ると、バイオ医薬品が57.2%、低分子化合物(新規成分)が48.7%となっているのに対して、イブジラストが該当する低分子化合物(既存成分)は73.9%と高水準となっている※。こうしたことからも、開発に成功する可能性が高いことがうかがえる。

※出所:経済産業省「伊藤レポート2.0~バイオメディカル産業版~」。


注目のライセンス契約交渉の状況だが、同社は2018年9月からメガファーマとの本格的な交渉に入ったようだ。治験データの結果発表から交渉に入るまで数ヶ月のタイムラグがあるが、これは同治験がNIHの助成金で行われ、すべてのデータを同社が入手したのが同年8月だったことが理由のようだ。現在は、対象エリアや対象疾患をどうするか、細部の条件を詰めている段階にあると見られる。特に、イブジラストは複数の適応疾患で開発が進行しており、この取扱いをどうするかが時間を要する原因になっていると見られる。ただ、ライセンス契約締結の可能性が従前よりも一段と高まっているのは間違いないものと思われる。

現在、進行型多発性硬化症では一次型でオクレリズマブが販売されているほか、二次型ではノバルティスのシポニモドが承認申請中となっている。ただ、いずれも自己免疫疾患治療薬として開発された薬剤のため、副作用リスクが大きいことが短所となっている。一方、イブジラストは副作用が殆ど無いため、開発に成功すれば高い市場シェアを獲得できるものと弊社では予想している。オクレリズマブの売上高は上市2年目の2018年で約2,617億円の規模に急拡大しており、2019年は欧州での販売も本格拡大することから3,000億円超えが確実視されている。イブラジストが開発に成功すれば同様の成長が期待できると思われる。なお、再発寛解型の多発性硬化症治療薬については2017年で約2.4兆円の市場規模となっている。

(2) ALS(筋萎縮性側索硬化症)
ALSとは、脳及び脊椎の神経細胞にダメージを及ぼす進行性の神経変性疾患の一種で、発症原因はまだ解明されていない。症状としては、手足など特定の筋肉を動かすための脳からの指令が何らかの理由で届かなくなることで筋肉が萎縮し、筋力低下の進行に伴い随意運動が不自由となる。発症から3~5年ほどで呼吸不全となり、人工呼吸器などの補助が必要となり、診断されてからの平均生存期間は2~5年と言われている。ALSの症状進行には、研究結果からグリア細胞であるアストロサイトとミクログリアの異常が関与していることが判明しており、イブジラストの持つグリア細胞活性抑制効果により、症状の進行抑制効果が期待されている。

米国ALS協会によれば、米国内の患者数は約2万人で、毎年6千人が新たに診断されていると言う。また、出版資料によればEUでは2.9万人と見積もられている。日本でも患者数は約9千人で希少疾患、難病指定されている。現在、承認されている治療薬としてはリルゾール(開発元、現サノフィ)とエダラボン(開発元、田辺三菱製薬)がある。ただ、リルゾールについては、延命効果が2~3ヶ月と限定的で効果は低いと見られている。一方、エダラボンは2015年6月に日本で承認され、2017年5月に米国でも日本の治験データを援用する格好で承認されている。ただ、対象は発症後2年以内の軽度の患者で、かつ腎機能に異常がない患者に限定されている。また、薬効についてはリルゾール、エダラボンともに比較的早い段階において機能障害の進行を2ヶ月程度遅らせる程度のものであり、効果は決して高くはない。

このためイブジラストがこれら先行品を上回る薬効が治験で確認されれば、販売承認される可能性は高い。米国でファストトラック指定及びオーファンドラッグ指定を受けているほか、欧州でもオーファンドラッグ指定を受けており、薬効の高い治療薬が強く望まれているためだ。ALS治療薬の市場規模としては、米国だけで年間3千億円の需要があると同社では見ている。これはエダラボンの1年間の治療薬費が平均14.6万ドルと言われており、これに2万人の患者数を乗算したものとなる。なお、エダラボンは日本では1回当たり5千円であるのに対して、米国では製薬企業が価格決定権を握っていることもあり、1千ドルと高額となっている。

ALSを適応対象とした治験については、2014年10月よりカロライナ・ヘルスケアシステムの神経科学研究所・神経筋ALS-MDAセンターにて実施されたP2治験(被験者数70人)が終了しており、2018年7月にサブグループの解析データが発表された。同発表内容によれば、上肢発症型(上肢麻痺)・球麻痺発症型(言語障害、嚥下障害、咀嚼筋の麻痺)の被験者39名を早期ALSサブグループ、全ALSサブグループに分けて、3種類の評価テストを行い、治療反応者の数を集計し、プラセボ群と比較している。ALS患者の運動機能や呼吸機能を包括的に評価するALSFRS-Rスコアでは、プラセボ群では13人中、治療反応者は1人だけにとどまったが、イブラジスト投与群では26人中、7人に治療反応が出たことが確認された。特筆されるのは、7人中6人は治療前よりスコアが改善している点にあり、イブラジストの薬効の高さを示すデータとして注目される。同様に他の2つの評価テストでもプラセボ群に対してイブラジスト投与群の治療反応者の比率が上回る結果となっている。被験者数が少ないため統計的有意差が出るまでには至っていないが、ALS患者にとってはポジティブな内容となっている。

こうした結果を受けて、FDAからP3治験に関してのポジティブなフィードバックも受けている。具体的には、1)次の治験でASDFRS-R等のALS機能評価スケールで評価し、イブラジスト投与群がプラセボ群に対して統計的有意差が認められた場合は、追加の治験は必要ない可能性、2)イブジラストのポテンシャルの効果を最大限引き出すために、より広いALS患者グループ群を参加させることが望ましい、3)安全性には現時点で問題は無く、次回の治験終了後に安全性については検討を行う、4)上市申請に対して、FDAはフレキシブルにサポートを行う用意がある、の4点となる。これらの内容を踏まえて現在、P3治験のプロトコールを策定中であり、2019年6月末までにP3治験を開始することを目指している。

なお、ALSでは別にP2のバイオマーカーを見る治験(被験者数35名)をハーバード大学にあるマサチューセッツ総合病院で実施しており、最終被験者の登録が完了し、36週間の治療期間のフォローアップを待っている状況(2019年2月時点)となっている。同治験では主要評価項目として、脳のグリア活性抑制効果をPETスキャンで評価するほか、副次評価項目としてALS機能評価スケールなども見ている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《HN》

 提供:フィスコ

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