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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」

植草一秀 (スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第1回 高値波乱相場の今後

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

●コラム新設のごあいさつ

 新コラムを執筆させていただくことになりました。激動する金融市場を舞台に高い投資パフォーマンスを獲得することは容易なことではありません。私は『金利・為替・株価特報』=TRIレポートという名称の会員制レポートを2005年1月から発行しています。1990年より執筆しておりました前身の『金利・為替・株価週報』を踏襲するかたちで刊行を始めたものです。また、2013年からは年次版TRIレポートを公刊しています。2019年版レポートは『日本を直撃する「複合崩壊」の正体』(ビジネス社)として11月に上梓しました。

 本書には投資の極意を記述しています。「損切り」、「逆張り」、「利食い」、「潮流」、「波動」の五つの極意を示しているのですが、もっとも高度なプロフェッショナルな洞察力が求められるのが「潮流」分析なのです。内外の政治、経済、社会の変化を踏まえ、金融変動の先行きを洞察することの困難さは誰しもが認めるものです。正しい判断を得るための極意は、正しい「水先案内人」を持つことです。

 大事なことは、誰が優れた水先案内人であるのかを判断する判断力を持つことです。水先案内人が不良であれば、地獄に引き込まれるのが相場変動の宿命です。投資家から信頼される水先案内人であり続けることを目指して本コラムの執筆に取り組んで参りたく思います。

●高値波乱

 2016年11月に発刊した2017年版TRIレポート『反グローバリズム旋風で世界はこうなる』(ビジネス社)では、「日経平均2万3000円、NYダウ2万ドルへ!」のサブタイトルを明示して「株価再躍動」を予測しました。予測通り、2017年の金融市場では株価急騰が現実化しました。これに対して2018年版TRIレポート『あなたの資産が倍になる』(ビジネス社)では、第1章「2018年の大波乱」に波乱相場の到来を予測しました。

 2018年は想定通り、波乱相場の年になりました。主要国株価は1月末に高値を記録したのち、急落しましたが、8ヵ月の調整を経て、10月初に NYダウが史上最高値、 日経平均株価が27年ぶりの高値を記録しました。ところが、この後に株価は急反落し、現在に至る乱高下を繰り返しています。

 1月末以降、下落基調を継続したのが中国株価です。 上海総合指数は10月11日に、これまでの下値抵抗ラインであった2016年1月安値の2638ポイントを下回りました。上海総合指数の1月末以降の下落率は31.7%に達しました。中規模調整の範疇を超えて大規模調整に突入したことになります。

 10月8日に上海総合指数が急落し、これを受けるかたちで10月10日以降にNYダウが急落。これを起点に株価急落がグローバルに広がりました。

 ただし、その後、11月6日の米国中間選挙の前後に株価急反発と急反落が生じ、11月中旬に安値を記録したのちに12月初に高値を記録し、その後再び急落するという、目まぐるしい変動が続いています。

●株価下落の基本背景

 『金利・為替・株価特報』では、これらの目まぐるしい株価変動を、ほぼピタリと予測してきました。金融変動を洞察する上で欠かせない二つの視点があります。一つは適正な大局観を持つこと。大きな流れとして、現時点の金融変動が長期循環変動のどの位置にいるのかを判定することです。もう一つの視点は、短期に発生する経済現象のスケジュールを把握したうえで、それらがどのような変化を示すのかを読み抜くことです。

 事前に完璧な判断を持つことは不可能ですが、考えられる事象を特定し、それぞれの事象について、主観的な確率を設定することは可能です。適正な大局観と緻密な事象分析の二つを組み合わせて、短期の金融変動をきめ細かく予測することが大事です。

 投資パフォーマンスを引き上げるためには、金融変動全体を的確に予測する上記の「潮流」分析を基盤にした上で、適正な投資術を確実に執行することが必要不可欠です。これらのすべてを満たすことができて、初めて投資パフォーマンスの確実な向上が実現します。

 現時点で重要な大局観は、2009年3月以来の長期株価上昇相場が最終段階に差し掛かっている可能性が高いと判断できることです。米国の失業率が3.7%にまで低下していること。このなかで、FRBが段階的な利上げ対応を継続してきたことの意味をしっかりと捉えておくことが重要です。

 これを踏まえつつ、2018年の内外株式市場に下方圧力がかかり続けている基本要因を把握することが重要です。私は三つの基本要因を挙げています。

●注目される11月米雇用統計

 10月10日以降の波乱相場の背景の第一は米中貿易戦争、第二はFRB利上げ政策、第三は日本の増税政策です。10月から12月にかけての株価乱高下は、米国中間選挙がほぼ事前の想定範囲内に着地したこと(株価反発要因)と、その材料出尽くし(株価反落要因)、米利上げ終了時期が前倒しになる可能性が浮上したこと(株価反発要因)、米中貿易戦争が緩和される可能性が浮上したこと(株価反発要因)、米長短金利逆転で景気後退観測が浮上したこと(株価反落要因)などが、目まぐるしく表面化したことによっています。

 目先は12月19日のFOMCで、利上げが実施されるのかどうか、2019年の利上げ回数見通しがどの程度下方修正されるのかに注目が集まっています。その政策決定に重要な影響を与えるのが12月7日発表の11月米雇用統計です。非農業部門雇用者増加数、時間当たり賃金上昇率が焦点です。(本稿執筆は12月6日現在)

 利上げの中断、利上げ回数見通しの下方修正は、これまでの金融変動では株価反発要因として作用してきましたが、米国経済の減速観測が強まりつつある状況下では、弱めの経済指標が株価を押し下げる新たな要因になり得る点に注意が必要です。

 米中貿易戦争では90日間の時間猶予が設けられましたが、トランプ大統領は2020年の大統領選に向け、中国に対する厳しい姿勢を維持する可能性が高いことを念頭に入れておく必要があります。日本の増税実施は2019年の早い段階から日本経済への強い下方圧力として作用する可能性が高いと考えられます。日本の株価推移は2007年の株価推移と類似点が多く、引き続き警戒的な視点で株式市場動向を見定める必要が高いと思われます。 (2018年12月6日)


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