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【特集】米“一方的”対イラン制裁の帰結は――原油波乱要因に <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

―少ないイランの対抗カード、中間選挙後に動きか―

 ニューヨーク市場で、指標原油であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は今年3月以来の安値を更新した。

 今年5月、トランプ米大統領はイランの核開発を制限する6ヵ国合意から離脱を宣言した。段階的に対イラン制裁が強化され、オバマ政権下で行われていた経済制裁が今週に入ってほぼすべて復活している。イランは再び経済的に孤立しており、一段と困窮していく見通しである。

 米国はイランの原油輸出をできる限りゼロに近づけようとしていたが、原油高を警戒し、8ヵ国・地域に限って、イランと石油取引を継続することを認めた。イラン産原油の主要な取引先だった中国、インド、日本、韓国などは180日の猶予期間内に限って制裁の適用除外となる。ただ、猶予期間が終了した後、米国はイランと石油取引を行わないよう各国に要請している。

●経済制裁にイランはどう対応するのか

 米国の経済制裁に対して、イラン政府、あるいは同国の最高指導者ハメネイ師はどのように立ち回るのだろうか。イランの動きは年末から来年以降の原油価格を左右する。

 米国はイランに対して、核開発・弾道ミサイル開発の中止、シリアやイエメンなど紛争地域への介入停止、テロ支援や米国とその他の同盟国に対する敵対的な行為の中止を要求している。合意に沿って核開発を制限してきたイランに落ち度はなかったが、トランプ米大統領は核合意を一方的に破棄したうえで要求を突きつけている。イランを痛めつけつつ、要求を強引に飲ませようとする米国とイランが協議を開始するとは想像しにくい。

●平和的な解決策は

 制裁によって経済が干上がるのを目の当たりにしつつも、イランが平和的な解決策を目指すなら、ロシアや中国、英国、フランス、ドイツなど核合意に加わっている国々と関係を強化しつつ、経済的な活路を見出していくのが現実的である。イランの人口は9000万人程度と経済的に有望であるうえ、原油や天然ガスなどエネルギー資源は豊富である。各国が米国の制裁をかいくぐり、イランと経済的なつながりを維持しようとする動機になる。
 ただ、ドルや貴金属の取引のほか、エネルギー、金融、海運など幅広く制裁が行われるなかで、イラン経済の疲弊は加速度的に進む。米国の制裁に対抗できないようであれば、市民の怒りは自ずと政府へ向くことから、平和的な解決への道筋は内政の不安定化と隣り合わせといえる。

●米国への対抗は負の効果のみ

 反米感情の高まりによって、イランが原油を武器として利用し、米国に対抗しようとする可能性はある。ただ、原油輸出の要所であるホルムズ海峡の閉鎖を示唆することは、イラン自身の首も絞める。ホルムズ海峡閉鎖の実現可能性はほぼないのではないか。

 米国やイスラエルを脅すために、イランも核開発を制限する合意を破棄するという選択肢もあるが、孤立するイランにとって欧州などとの連携ほど貴重なものはなく、過激なシナリオは負の効果しかもたらさないだろう。

 イランは米国の制裁に対抗できない。一方的で理不尽な経済攻撃をただ耐え忍び、トランプ米大統領が一期目で退き、超タカ派のボルトン米大統領補佐官が政権から去るのを待つという選択肢が最も現実的かもしれない。今週の米中間選挙はイランがトランプ政権の風向きを読むための重要なイベントである。中間選挙の結果が明らかとなった後、場合によってはイランに動きがあるかもしれないが、逆境を覆すほどのカードはイランにない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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