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【特集】調整続く原油価格――在庫増で安値も供給ひっ迫浮上の可能性 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口英司

―安定から遠い産油国政情、足元在庫水準への注目は一時的―

 先週、米国の石油在庫が増加したことを手がかりにニューヨーク原油は約4週間ぶりの安値をつけた。今月初めに年初来高値を塗り替えた後は調整安が続いている。米国の原油と石油製品の在庫の合計は、戦略石油備蓄(SPR)を除き12億6298万3000バレルまで拡大し、昨年10月以来の高水準に達している。

 米国の石油在庫は経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の約4割を占めることから、米国の在庫水準の変動は、世界的な在庫水準の変動と言い換えられる。在庫の増減は最も根本的な 原油相場の変動要因である。米国のエネルギー関連の統計は世界的に突出して充実しており、在庫統計には自ずと注目が集まる。

●イランの穴をサウジとロシアが埋め、原油高は抑制

 米国の在庫増加は、サウジアラビアやロシアなど生産余力のある産油国の増産が背景にある。今年後半にかけてサウジアラビやロシアなど主要な産油国は、トランプ米大統領の要請に応えつつ、原油相場が安定化するよう増産してきた。

 今年、米国が対イラン制裁を再開したことでイランの供給量が減少し、上値を目指す原油相場を安定させるためにはサウジやロシアの増産が不可欠となった。両国などと協調している産油国はやや過剰に生産量を増やしている。2017年から石油輸出国機構(OPEC)を中心とした産油国は協調減産を始め、協調減産の奏功によって世界的な過剰在庫を解消し、原油価格を回復させた後は、一転して価格抑制に取り組んでいる。

●イランやベネズエラでさらなる減産が続く

 エネルギー価格を抑制しようとするトランプ米大統領が産油国に増産を要請し、増産は米国の石油在庫を拡大させたほか、原油相場をやや押し下げている。イランを経済的に痛めつけながらも、トランプ米大統領は思い通りの結果を得ようとしている。米国のイラン制裁は供給ひっ迫懸念を刺激し、今月の初めにかけてブレント原油を2014年10月以来、ニューヨーク原油を同11月以来の高値に押し上げたが、足元の在庫水準を眺めつつ、原油高は抑制されたといえる。米国の石油在庫を考慮して、原油相場は割高と判断された。

 ただ、足元の米石油在庫が供給過剰気味に推移しているにしても、イランやベネズエラの減産はまだ続く見通しである。米国はイランの原油輸出をゼロにしようとしており、本当にゼロとなるならば、産油大国であるロシアやサウジアラビアでも穴埋めは容易ではない。需給見通しからすると、原油相場が割高だとは思えない。

●早晩、供給ひっ迫感がテーマとして浮上する

 足元の需給か、将来の需給か、どちらを重視すべきだろうか。答えは明白である。投資家が重視するほうに目を向けるべきであり、値動きを十分に生む余地があるほうがテーマとしては重要である。

 十分な値動きを生まないならば、投資家の利益につながらないことから、テーマとしてはかなり短命である。現在の原油相場でいえば、在庫変動は短命な手がかりでしかない。一方で、世界的に政治・経済が安定している産油国は一部であり、供給ひっ迫懸感はテーマとして十分な広がりを持っている。米国の制裁によるイラン経済の崩壊と中東の不安定化を想像し始めると際限がない。連想が広がる余地が大きければ大きいほど、投資家が利益を得られるチャンスは多い。時折、在庫水準に視線が移るにしても、足元の在庫変動にあまり影響されない相場が来年以降も続くのではないか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口英司)

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