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【特集】警報再び“2万円大台攻防戦”、勝ち残りの戦略は <株探トップ特集>

2日、日経平均は542円安の2万1181円と急落。NYダウ急落、円高進行にマーケットの動揺は収まらず、3月に入っても年初の楽観的なムードは帰ってこない。底打ちの時はいつ訪れるのか?

―遠いクライマックス、「バーゲンハンターは急がない」―

 株式市場に再び激震が走っている。前日(1日)の米国株市場では米中貿易摩擦への懸念を背景にNYダウ平均が一時600ドル近い下げをみせるなど急落、大引けは420ドル安と下げ渋ったものの3日続落で2万4600ドル近辺まで水準を切り下げてきた。下げ幅も日増しに勢いを増しており、3日間合計で1100ドル安に達している。

●リスクオフモード一色の東京市場だが…

 これを受けて東京市場でも一気にリスクオフモードとなり、2日の日経平均株価は一時600円以上の下げで2万1088円まで売り込まれた。気が付けば再度の2万1000円台割れが目前に迫る弱地合いに直面している。もし今後、日経平均が2月14日の取引時間中につけた“バレンタイン・ボトム”2万950円を下回ってきた場合、一番底を改めて探る下値模索展開へと移行する。

 前日にトランプ米大統領が鉄鋼とアルミニウムに追加関税を課す方針を表明、鉄鋼の輸入制限なども発動する構えにあり、これが米国と中国との貿易摩擦を強めるものとして嫌気され、米株式市場は大きく売り優勢に傾いた。2月初旬から中旬にかけての世界株安は米国株主導であったが、今回も米国を発信基地とする強力な売り圧力が世界を覆っている。

 とりわけ、東京市場のボラティリティは高く、売り方にとっては“ドル箱”の市場という見方もある。東京市場では名実ともに3月相場入りとなった前日、大幅続落でのスタートとなった。毎月第1営業日の日経平均は2月まで20ヵ月連続の上昇をみせていた。この「月初連騰記録」が始まったのは2016年7月のことであり、1年半以上にわたる上昇トレンドの基点でもあった。その記録がついに途切れたことは、偶然にせよ足もとの波乱相場を予知していたようにも見える。

●いきなり「貿易戦争」に舞台が回った米国

 松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏は「これまでトランプ政権は、批判を集めながらも昨年に法人減税、そして今年は公共インフラ投資政策と株式市場にとって非常にフレンドリーな政策を決定させてきた。ところが、いきなり今回の発言によって“貿易戦争”へと舞台が回ったことで、そのギャップが投資家心理に冷や水を浴びせるようにマイナスに作用した。しかも、あえて中国人民銀行総裁が訪米中に投げた牽制球だったことで、インパクトがあった」とする。

 このトランプ大統領の強硬な通商政策スタンスは既に公に知られるところだったが、正式決定に動くタイミングが悪かったといえる。これを受けて恐怖指数と呼称されるVIX指数は警戒ラインとされる20を再び上回り、株売りを誘発。航空機大手ボーイングや建機大手キャタピラーなどの大幅な下げも、このトランプ発言を受けたマーケットの拒絶反応を如実に反映していた。

●200日移動平均線ラインを維持できるか正念場

 東京市場では、米国発の悪材料で下方圧力が働いた際に、NYダウよりも日経平均の下落率のほうが大きくなることが常だ。今回もその例に漏れず、NYダウの1.7%弱の下げに対し、日経平均は一時約3%の下げをみせるなど足腰の弱さが露呈した。窪田氏は「200日移動平均線は直近2万1179円のところにあり、ここを巡る攻防。完全に下に抜けてくるようだと、2015年8月のチャイナショックの時のように回復までにかなり時間を要することになる」と警鐘を鳴らす。

 また、今回の下げ局面では個人投資家の投げが出ておらずセリングクライマックスには程遠い段階だ。「店内の信用評価損益率をみてもまだ余裕がある状況で、むしろ個人投資家は買い向かっている。これではアク抜け感につながらない」(窪田氏)と指摘しており、裏を返せば今後下げが加速する余地を残しているとも判断される。その意味で値ごろ感を拠りどころとした拙速な買いは慎む場面かもしれない。

●2万1000円割れはあってもそこは拾い場か

 一方、ここは悲観に染まる場面ではないという見方を示しているのはブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏だ。馬渕氏は1月の日米株式市場の上昇局面では株価調整の必然性を主張していた。しかし、足もとは逆に下げ過ぎの反動が予想されるという。「NYダウは2月9日の取引時間中に2万3360ドルの安値をつけPER面の割高感は解消された。今回の下げでこの水準を下回ってくる可能性は低いとみている。日経平均も2万1000円ラインを一時的に割り込んだとしても、そこは拾い場となるだろう」(馬渕氏)という。

 ただし、東京市場は為替の円高要因というもう一つの下げ圧力がある。2日は引け際に1ドル=105円台後半に急速に円高が進行し日経平均の一段安を誘発した。馬渕氏は「1ドル=106円台であれば日本企業の19年3月期の増益基調はキープされるが、一段の円高進行となれば要警戒」と注意を促している。

●米中摩擦→世界景気懸念は売り煽りの材料

 今回の下げについて、本質的に米中の貿易摩擦を嫌気したものではないと喝破するのは東洋証券ストラテジストの大塚竜太氏だ。2月の急落がそうであったように、今回の株安も海外ヘッジファンドの仕掛けが観測されている。そのなか、大塚氏は「トランプ大統領が保護貿易主義に向け強化策を打ち出すことはサプライズを伴う話ではない。前日を振り返っても、東京時間の後場に(新関税などの話は)既にマーケットに流れていたが、NYダウ先物の下げはそれほど大きくなかった。同じ材料でニューヨーク時間に急落の背景とするのは妥当ではない。裏にヘッジファンドの売り仕掛けがあることは明白で、3月4日にイタリアの総選挙も控えていることもあり、タイミングとしては絶好だった」と指摘する。

 また、「そもそも中国は鉄鋼の対米輸出上位には入っていない。にもかかわらず米中間の貿易問題を煽って、さらにそれを世界景気懸念に結び付ける強引な論法をマスコミを使って拡張、売りの糧としている」(大塚氏)と明快だ。

●バーゲンハンターは遅れてやってくる

 SMBC日興証券投資情報部部長の太田千尋氏は「そもそもNYダウが大引けで400ドル以上下げたとはいっても2%にも満たず、この程度であれば特筆されるような要素には乏しい。東京市場はバリュー面では割安圏にあることは確かだが、バーゲンハンターは急がない。だから、どの水準まで下がったら買いを入れてくるという話ではなく、全体相場が落ち着いたところでおもむろに動き出す」とし、鍵を握るのはただひとつ、“時間の経過”であるとする。“落ちてくるナイフはつかむな”という有名な格言がある。理屈で底が分かれば、逆張りで百戦百勝となるが、それほど相場は甘くない。どこで落ち着くか、それを見極めてから買い出動しても十分間に合う。

 振り返って今年の東京市場は年初に日経平均が急騰で幕を開けたが、結果的に見ればジェットコースターをスタート地点の頂上に引き上げる動きにも似ていた。「今年に入り世界最大級のヘッジファンドは日本と欧州株についてショートポジションに切り替えたことが伝わっていた」(松井証券の窪田氏)ほか、サウジアラビア政府系ファンドの保有株の継続的な売却も観測されるなか、この動きに他のヘッジファンドが相乗りしてきたという構図が今の波乱相場の底流にある。

●米株だけでなく“後門の狼”の為替相場に要注意

 前述したように、東京市場は先進国市場のなかで米国よりもはるかにボラティリティが高い。「国内機関投資家は主体性がなく、仕掛けが入れば右に倣えで売ってくる傾向が強い」(ブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕氏)ことで、売り方にとって与(くみ)しやすい市場とみられているフシがある。2月のISM製造業景況感指数にも反映されているように、米国景気は現時点で盤石といえるほどの強靭さを持つが、株は需給であり常に上値を指向することはない。2012年の年末に始まったアベノミクス上昇相場でも2015年の年末から2016年6月まで約半年におよぶ調整局面を交えた経緯がある。

 今回の波乱相場はどうか。追い証の発生に伴う投げなどセリングクライマックスがあればそこは分かりやすく買い場。その際には日経平均はおそらく2万円大台攻防が意識される形となる。また、鋭角的な底を入れない場合は、分散投資で対処し、戻り局面では持ち高を段階的に減らしていく手法が有効だ。そして市場関係者が共通して指摘するのは「為替動向(円高)に注意せよ」である。

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