【市況】中村潤一の相場スクランブル 「需給エンジン全開の“奔騰株攻略”作戦」
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
人類の歴史は、その叡智のもとに科学技術を飛躍させ数多くの不可能を可能に変える歴史でもありました。しかし、未来永劫どうしても打破できない壁として立ちはだかるのは“未来”を知るということです。宇宙空間で130億年以上前に発した光を捉える才知をもってしても明日の株価を知ることはできません。未来は常に誰にも見えないのです。
●勝ち負けよりも「勝ち方と負け方」が重要
例えばもし相場の達人と呼べる人がいたとしても、人間である以上、知り得ない未来を相手にして常勝はあり得ません。勝つこともあれば負けることもある、結局はその繰り返し。当たり前の話ではありますが、それをまず理解することが勝利への第一歩となります。とはいえ運否天賦の世界とも違うわけで、“勝ち組”と“負け組”に峻別される何かがあるとすれば、それは勝ち負けではなく「勝ち方と負け方」にあるといえます。
これだと思った銘柄は含み益をできるだけ引っ張ることが大きな勝利につながりますが、かといって売り損ねて損益が水面下に沈んでは元も子もない。どんなに小さくても利益があるうちに売るポイントを決めておくことが実戦における知恵です。また、買いのタイミングを間違えて、最初から引かされた(含み損を抱えた)状態となったら、そこは悶々と抱え込まず素早く仕切り直すというのが黄金セオリー。相場において、捲土重来を期すことに労力はかかりません、求められるのはロスカットの現実を受け入れる勇気だけです。
株式市場は海原のように広い。凪の状態が続く時があれば、いきなり時化に遭遇する時もありますが、3次元空間と違っていつでもエスケープできるのは最大の強みです。勝ちを極大化させ、一方で負けを小さくするために何をすべきか。投資家の資質として銘柄に惚れ込むことは必要な要素ですが、それ以上に自らの投資行動を支配するルールを考えておくことは大切であり、決めたらそれに忠実に従うことです。
人工知能(AI)全盛の地合いであっても、機関投資家よりもはるかに融通が利く個人投資家は決してAIに凌駕されることはありません。投資する銘柄対象や投資の時間軸をずらすことによって、目の前に勝機はいくらでも転がっているのです。
●半導体関連は「押し目買い提供場面」が再来
日本企業のファンダメンタルズの強さがこの4-9月期決算で浮き彫りとなりました。上場企業の経常利益は全体で前年同期比25パーセント程度の増益と、大方の強気予想をさらに上回る内容で着地しました。世界的に構造的な需要拡大が続きスーパーサイクルに突入している、ともいわれる半導体関連分野が全体収益を牽引する格好となっています。
その半導体ですが、足もとは供給過剰懸念も指摘され、27日に韓国サムスン電子の株価が急落したことで、米国や東京市場にも突風が吹きつけました。指標株の東京エレクトロン <8035> の下げをみると投資家心理が要警戒モードに変わるのもうなずけますが、冷静に見れば13週移動平均線とはまだ上方カイ離があり、大口の利益確定売りが一巡すればバランスを取り戻すでしょう。実際、市場関係者に聞くと「きょう(29日)の東エレクの下げは、一部外資系ファンドが12月期末接近に伴う利益確定で保有株の一部を外したもの。これに買い向かったのは個人マネーで銀行株からの乗り換えが目立つ」(国内ネット証券)としており、個人投資家のしたたかさが見て取れます。半導体セクターにおいて、こういった“ガス抜き”のケースは今までにも幾度となく繰り返されてきた光景でもあります。今回も東エレクに限らず、押し目は買い場提供となる可能性が高そうです。
ビッグデータとAIの融合やIoT時代到来により爆発的な半導体需要を生むというのは決して画餅に帰すようなシナリオではありません。新興国でも進むスマートフォンのハイエンド化や自動運転への進化過程でコンピューターの塊となる自動車、これらすべてが半導体産業の成長を後押しする材料です。以前にも書きましたが、バブル的色彩を帯びてきたとしても、今はその初動段階といえると思います。
●日本株の出遅れ修正高に乗り遅れた向きの買い
海外投資家は11月第2週に現物と先物合算で約950億円、第3週には約3350億円を売り越しましたが、2週間で4300億円程度の売り越し額はちょっと一休みのレベルです。10月月間では現先合わせて実に3兆5600億円強の大量買い越しとなっています。足の長い資金が流入しているのはもちろんですが、ここでの主役はヘッジファンド系資金。世界の経済実勢や金利などのマクロ指標にリンクして機動的な投資を行うグローバル・マクロ、そして先物やオプションに特化してトレンドフォローで高速売買するCTA、この2頭立て馬車の牽引により、日経平均株価は10月から11月初旬にかけ急勾配の坂道を駆け上がったわけです。
ここまで音無しの構えをみせていた国内外の機関投資家も「持たざるリスク」が意識されてくるのは当然で、売りから入っていた弱気筋はショートポジションを畳むしかない。したがって、ここでいったんは押し目をなんとか作ってほしいというニーズが今のマーケットには漂っている感じがします。29日の東京市場は終始買い優勢でした。同日未明に北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射し、青森県沖に落下、通常であればリスク回避の売りを誘発するところですが、全般は上値こそ重かったものの頑強な動きで、これは日本株の出遅れ修正高に乗り遅れた向きの押し目買いが機能したと思われます。これから年金や投信など足の長い資金の買いが本格化するその序奏といえるかもしれません。
●駆け込みで大化けチャンス巡る低位株を探せ
とはいっても、師走相場で主力株の上値はある程度限られそうです。日経平均は11月9日に2万3382円の高値をつけた後、CTAに振り回され急落に見舞われましたが、投資家の脳裏にはその時の残像も残っていることで、慎重なムードも拭い切れません。個別単位で見落とされているもしくは軽視されている銘柄は多く、年末年始相場でインデックス売買の影響を受けにくい材料株に対するニーズは再び高まることが予想されます。
株は基本的に需給で動きます。実態はもちろん重要ですが、定点観測で株価に織り込まれたら、後は“需給エンジン”が掛かるかどうかが上昇トレンドの鍵を握ります。そうしたなか、100株取引統一に伴う株式併合の動きに絡み、銘柄数が少なくなってきた低位株は、その株価変動率の高さが魅力であり、現時点での居残り組には駆け込み的な需要が発生しているようにも見受けられます。
前日(28日)時点で株価400円未満の銘柄は、東証1・2部と新興市場を合わせて338銘柄あります。このなかで、100株取引統一のゴールとなる来年10月までに大きく居どころを変える素地のある銘柄が、相当数含まれているのではないかとみています。
●見直し余地大のNaITOに要注目
目先注目したい銘柄として、まず、NaITO <7624> [JQ]が挙げられます。同社は機械工具の専門商社で設備投資需要の恩恵を享受、特に主力部門である金属加工用の切削工具が自動車業界向けを中心に収益に貢献しています。18年2月期は本業のもうけを示す営業利益段階で前期比31%増の6億5000万円を見込んでおり、19年2月期も増収増益基調を堅持しそうです。親会社は名古屋の岡谷鋼機でこちらも業績絶好調。親会社の存在感と設備投資関連の真ん中に位置する銘柄であることを考慮すれば、200円近辺の株価は大きく見直される公算が大きいでしょう。
次に、目先は押し目を形成しているインターライフホールディングス <1418> [JQ]も25日移動平均線への接近場面は狙い目と思います。大型商業施設の内装工事が主力としていますが、人材サービスも展開しています。東京建物 <8804> が大株主に入っており、M&Aを絡めた不動産事業への布石に期待がかかっています。
●FRSに上値思惑再燃、ルツボは異彩高へ
さらに株価100円台のフォーバル・リアルストレート <9423> [JQ]に上値思惑。フォーバルグループに属しており、不動産仲介に始まり、オフィスの移転、設計、内装、レイアウト、セキュリティー、社内ネットワーク環境に至るまで一貫したソリューション事業を展開しています。安倍政権が掲げる「働き方改革」ではオフィス空間の改善といった好環境作りも重要テーマで、同社の商機につながります。値動きは速いものの上ヒゲをつけやすい特性があり、その点は留意する必要がありますが、ここ売買代金増勢で上げ潮ムードにあることを窺わせます。
日本坩堝 <5355> [東証2]も異彩を放つ上昇トレンドを構築中、300円未満は追撃買いのチャンスといえるでしょう。黒鉛や炭化ケイ素など特殊耐火物の大手ですが、鉄鋼株が軒並み戻り足をみせるなかでフォローの風が強まっています。18年3月期営業利益は4億5000万円予想と前期比約2割の伸びを見込んでいますが上振れも視野に入っています。リーマン・ショック前の2007年には472円の高値をつけており、08年3月期の利益水準が今期予想と同水準であったことから、時価との比較で約200円幅の水準訂正余地が意識されます。
●強い株につくなら冨士ダイス、マイスター
また、低位株以外では設備投資関連や人材関連のテーマが中軸。特にチャートの強い銘柄につくのが実戦的な作戦です。全体相場に左右されることなく我が道を行く上昇株は、その背景にしっかりとしたファンダメンタルズを支える理由があるのです。
今回、注目したいのは冨士ダイス <6167> 。超硬合金製の耐摩耗工具のトップメーカーで取引先は全国3000社に及んでいます。車載用リチウムイオン電池用ケースやセパレーター製造用の工具を手掛けるなど時流に乗っており、17年4-9月期営業利益は前年同期比32%増の7億8700万円と絶好調。会社側では下期に人件費などの増加を見込み、通期営業利益11億1000万円予想は修正していませんが、上振れる可能性を内包しています。株価は10月下期相場入りから上昇開始、途中微調整する局面はあったものの、これまで25日移動平均線に接触することすらない強力な上昇波を形成しています。上場来高値圏を走っており、戻り売りの洗礼を浴びることはありません。信用買い残も少なく需給面でも申し分はないといえます。
また、産業機械のメンテナンスを主力とするマイスターエンジニアリング <4695> [東証2]も上値指向の極めて強い銘柄です。いま最もホットな業界といってよい半導体と自動車業界向けに技術者を派遣し高水準の受注環境を享受しています。会社側の18年3月期営業2ケタ減益見通しは保守的で、一転して増益で着地する可能性もあります。上場来高値圏でもみ合う状況にありますが、ここを抜ければ一気に視界が開けそうです。
(11月29日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース