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【特集】シェール増産がリスクプレミアム圧縮、OPEC影響力低下は始まったばかり <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

―サウジ・ロシアに並びつつある米原油生産量、中東産原油の地位低下は価格安定要因に―

●石油市場に変革をもたらしたシェールオイル革命

 米国でシェールオイルの生産量が拡大している。シェールオイルとは、頁岩(けつがん)層などの岩盤層から採取される原油のことであり、採掘技術のイノベーションがシェールオイルの生産を可能にした。シェールオイル革命である。このイノベーションは米国を変え、石油市場を変えた。石油輸出国機構(OPEC)の影響力も低下させた。

 米エネルギー情報局(EIA)の掘削生産性報告(DPR)によると、シェールオイルの主要7地域(イーグルフォード、バッケン、パーミアンなど)の生産量は2007年で日量130~140万バレルだったが、現在では同600万バレルを上回っている。今年12月のシェールオイルの生産量は日量617万バレルに達する見通し。2016年、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル=30ドル割れまで暴落し、採算割れによってシェールオイルの生産量は一時減少したが、増産傾向に回帰し過去最高水準を更新している。

 OPEC加盟国であるイランの生産量は10月の実績で日量382万バレル、イラクは同438万バレルである。OPEC加盟国は生産制限を行っており、一概に比較できないが米国のシェールオイル生産量はイランやイラクを軽く上回っている。米国全体の原油生産量は日量950万バレルと、10月に同1,000万バレルを記録したサウジアラビアや、ロシアの同1,095万バレルと肩を並べつつある。

●天敵に育ったシェールオイルに対してOPECは?

 米国の石油製品の消費量は日量2,000万バレルで、主要国のなかでは桁違いである。世界の石油需要の20%程度を占め、エネルギーを湯水の如く消費する。自動車が急速に普及している中国の石油需要は日量1,200万バレル超まで拡大しているが、米国には及ばない。米国でシェールオイルの生産量がさらに倍増しようとも自国の需要を賄いきれない。

 米国は今後もエネルギーの輸入国だが、原油の消費大国である米国が中東産原油に対する依存度を低下させていることは、世界のエネルギー地図を塗り替えている。原油は地政学的に不安定な中東で多く生産されることから、リスク・プレミアムをかなり含んでいる。リスク・プレミアムとは、供給不安による価格の割増部分である。争いが絶えない中東の原油には常に供給途絶の可能性がつきまとっており、価格が割高とならざるを得ない。クルド人自治区とイラク中央政府の衝突、イランとサウジアラビアの緊迫化は現在の原油価格を押し上げている要因の一部である。中東に大きく依存する必要がなければ、原油価格はおそらくもっと安い。

 米国のシェールオイル増産は、需給面で価格の押し下げにつながっているというだけでなく、中東産原油のリスク・プレミアムを部分的に相殺するという側面もあり、二重の意味で原油価格の押し下げに貢献している。米原油生産はハリケーンによって妨害されることがあるものの、政治的・経済的な安定感は中東諸国とは比べものにならない。カナダ産原油と同様に、消費者は余計な心配をする必要がない。

 シェールオイルはエネルギー市場の価格安定化に寄与する。今後、採掘・生産技術のさらなる発展も加わって増産が続くようなら、中東産原油の地位低下が続こう。米国が産油国としてさらに強大になれば、原油は価格面で以前よりも安定したコモディティとなり得る。原油価格を低位安定させたくないOPECにとって、シェールオイルはまさに天敵である。今月末のOPEC総会も対シェールオイルの作戦会議といえる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

(注)本文中の数値は米エネルギー情報局(EIA)の週報や掘削生産性報告(DPR)、OPECの月報を参照

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