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【市況】武者陵司 「究極のポジティブサプライズ、“白いブラックスワン”の飛翔」

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

―日本に対する異常悲観の大修正が始まった―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

●史上初の16連騰は白いブラックスワン

 ブラックスワン(あり得ないと思われていることが実際に起きること)は、ダウンサイドのみにあるのではない。誰もが予想しないアップサイドが実際に起きることもあるはずである。

 1ヵ月前に日経平均株価が16連騰と、日本の高度成長期にもなかった新記録を作るとは(筆者を含めて)誰も想像すらできなかった。WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)紙はこの連騰が日本記録のみならず世界記録である可能性を述べている(The 15days of consecutive gains appear to be one of the longest stakes on records of any market:10月24日付)。

 これは白いブラックスワン(究極のポジティブサプライズ)の飛来といえるのではないか。そして、株式が最も正確な近未来経済の物差しであるとすれば、2018年の日本経済に同様の白いブラックスワンが飛翔する可能性を、だれが否定できようか。

●歴史的連騰記録に向き合おうとしない人々

 あるベテラントレーダーが電話をかけてきた。周囲も、顧客である投資家も、歴史的事実を前に全く冷めていて、依然懐疑心に満ちている、この現実をどう考えるかと。メディアもしたり顔の懐疑論、株高熱狂を戒めるバブル論などに満ちていて、歴史的記録にまともに向かい合おうとしない。私の答えは「だからこそ、白いブラックスワンなのだ」である。

 この突然の「白いブラックスワン」の飛来に直面し、例えば毎日新聞は、「兜町の慢心?日銀の慢心?」(10月24日付夕刊)という論評を載せ、株高は虚構だと断じている。また、同系の週刊エコノミスト誌では『危ない世界バブル』(11月7日付)という特集を掲載し、あたかも間違った株高、邪悪な株高というスタンスを示している。嗚呼…。

 地政学、世界同時好況と技術革命、空前の企業収益とその背景にある日本企業が構築した健全なビジネスモデル、著しい好バリュエーション(異常な株の割安さ)、市場フレンドリーな政策、人々を覆っている懐疑・悲観論、これほどの好条件が揃うということは、歴史的稀有の投資環境が現出しているということである。当社(武者リサーチ)は年初来そのことを主張してきた。「日本株を買わない理由が見当たらない」(ストラテジーブレティン183号 6月29日付)。

 いま市場がようやくそれを織り込み始めた場面だというのに、依然当社は極端な少数派のようである。後から振り返ると、あの時が資産形成の分岐点であったといわれるような局面に我々は立っている。

●正と負と、二つのバブルに振れた日本株式

 1990年の日本株価はミスプライシング、本質的価値からかけ離れて高かった。それは当時の株式益回り2%以下(PER50倍以上)、配当利回り0.5%、長期国債利回りと預金金利8%を比較すれば一目瞭然である。同様に、現在の日本株式も極端なミスプライシング、本質的価値からかけ離れて安いことは、株式益回り6%(PER15倍)、配当利回り2%、預金金利と長期国債利回り0%とを比較すれば明らかである。この明白な誤り(いわばアップサイドのバブル、ダウンサイドのバブル)はいずれ必ず是正される。1990年以降の日本株式の暴落はまさしくミスプライシングの是正運動であったが、いま同様に壮大なマイナスバブルの是正運動が起き始めているといえる。

 これは年末2万4000~2万5000円、2018年末3万円、2020年4万円という壮大な上昇相場の序章である可能性が濃厚であると考える。当社はアベノミクスのスタート直後の2013年、日経平均1万円前後の時に『日本株100年に一度の波が来た』(中経出版)を上梓し、以降日経平均は4万円になると主張し続けている。いや、4万円も単なる通過点に過ぎないだろう。

●経済展望のコペルニクス的転換を

 こうした強気論を理解するためには、人々は経済思考をコペルニクス的に転換させることが必要である。株高を冷ややかに見ている人々は、犬が尻尾を振ると考えている。つまり、本質は実体経済にあり、株価はその鏡に過ぎない、という信念である。

 しかし、時には尻尾が犬を振る、つまり株価が実体経済を動かすこともある。投資家ジョージ・ソロスは再帰性論(reflexivity)という論理を主張し、通常では実体経済を反映する資産価格や金融市場が、逆に実体経済に影響を与えるフィードバックが起きることを説いた。

 リーマンショック前後の顛末を振り返れば、まさしく資産価格から実体経済へのフィードバックの連続であったことがわかる。まず過剰な資産価格の上昇(正のバブル)が過剰な需要を実体経済に及ぼしたが、その後に起こったフェアバリューから著しくかい離した資産価格の下落(負のバブル)が、実体経済に壊滅的打撃を与えた。まさに資産価格が実体経済を振り回したのである。

●QEは再帰性論の適用事例

 再帰性論はそれでは終わらない。リーマンショック後に主要先進国で一斉に導入されたQEは、資産価格を中央銀行がコントロールすることで、実体経済を動かそうとする政策であった。その波及経路(トランスミッションメカニズム)は、中央銀行のバランスシート膨張による資産購入→長期金利の引き下げ(債券価格の押し上げ)→株高・不動産価格上昇→金融機関・企業・家計のバランスシート改善→投資・消費の刺激(リスクテイク促進)→インフレ期待の上昇、というものであった。

 米国家計総資産・純資産の推移をみると、QEが見事に成功し、米国の家計のバランスシートは顕著な改善をみせている。リーマンショック直前の2007年第2四半期に68.2兆ドルであった家計純資産(総資産-債務)は、リーマンショック直後の2009年初に55.1兆ドルまで急減したが、その後の株価の急上昇(リーマンショック後のボトムから直近まで3倍に)、住宅価格のバブル崩壊前への回復により、直近(2017年第2四半期)では96.2兆ドルに増加した。家計純資産の水準を家計の可処分所得と比較すると、リーマンショック直前のピーク6.5倍、直後のボトム5.1倍、直近6.7倍となっている。この顕著な資産効果が米国経済回復のけん引車であったことは明白である。

 尻尾で犬を振るという政策、とんでもないと思われた政策であるQEが採用されず資産価格が低迷を続けたのならば、経済は破局的に悪化し続けたであろう。

●いま日本で資産価格からのフィードバックが

 いままさに日本は尻尾が犬を振る局面であるかもしれぬ。株価がいよいよバブル崩壊後の高値を更新し続け、何度も打ち返された日経平均2万1000円を超えた。16日連騰という歴史的記録を達成、チャーチストはテクニカル的には株価新次元に入ったと確信し始めている。さて、チャーチストが描く日経平均3万円、4万円が視野に入ったとしたらエコノミストはどうするだろうか。

 いま公表されている主要シンクタンクの2020年までの中期実質経済成長見通しは、ほぼ1%に収れんしている。明示はしていないが各社とも、株価水準の大幅な変化がないこと、つまり負のバブルが是正されずに続いていくことを念頭に置いているであろう。

 しかし、その予測に日経平均が4万円という前提を置いたらどうなるだろうか。株式時価総額は現在の600兆円から1200兆円へと600兆円増加するが、それは国民一人当たりの資産が500万円増加することを意味する。この資産効果が、投資・消費需要を高めることは疑いないだろう。資産効果、バランスシート改善により、日本企業、家計、投資家、金融機関のリスクテイク能力が飛躍的に高まる。経済風景は一変する。2020年日経4万円を前提とすれば、デフレ脱却、名目GDP600兆円達成は容易であろう。エコノミストには株価を従属変数ではなく、主動変数とした経済予測モデルの作成をお願いしたい。

 日経平均4万円は、利益と配当が今のままで不変としても、益回り3~4%、配当利回り1%弱で、依然ゼロ%リターンの国債や預金より投資妙味が高い。PBRは今の1.3倍が2.6倍となるが、それでも米国の3倍より低い。ファンダメンタルズから見て十分フェアバリューといえる水準である。

●蔓延する幼稚な批判

 こうした資産価格の押し上げ自体が官製バブルだとの批判がある。例えば、寺島実郎氏は前掲週刊エコノミスト誌の中で「GPIFと日銀の買い上げが無ければ日経平均は1万2000円を割る水準、…政府が株高を作り出している…政治主導によって歪められた金融資本主義をどう制御するかが課題」などと論評している。

 しかし、企業収益(=株式価値)が不在のままの公的資産価格押し上げであれば、それは官製バブルだが、逆ならば米国FRBのQEと同様、政府部門主導の負のバブルの是正運動といえ、批判は当たらない。QE成功の事例を踏まえない幼稚な批判といえる。

(2017年11月1日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン189号」を転載)


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