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【特集】クルド独立問題「原油上昇」引き金に、武力衝突とリスク・プレミアムの行方 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口英司

―独立をめぐる白と黒、IS弱体化も再び高まり始めた地政学リスク―

●クルド人の“希望”をイラクは武力で制圧

 先月、イラク北部のクルド自治区が独立の賛否を問う住民投票を行い、独立が賛成多数となった。国を持たないクルド人にとって念願を叶える第一歩だったが、住民投票の段階から反対していたイラク中央政府や、イラン、トルコは住民投票後に一気に殺気立った。トルコのエルドアン大統領は、クルド自治区が原油輸出に利用しているパイプラインを締めることが可能であると発言し、クルド自治区の歳入の生命線を脅した。ロシアのプーチン大統領が対話を求めたこともあって一時的に緊迫感は後退したものの、独立に向かうクルド自治区と独立に反対するイラク中央政府の主張が交わることはなく、イラク政府軍が油田都市キルクークに侵攻し、限定的な交戦に発展した。

 クルド人は国家を持たない世界最大の民族で、トルコやイラン、イラクなどで生活を営んでおり、人口は約3000万人にのぼる。第一次世界大戦後に引かれた国境によってクルド人は各国に分断され、クルド人を最も多く抱えるトルコでは政府とクルド人による内戦が続いている。トルコの非合法武装組織クルド労働者党(PKK)を、トルコ政府は分離主義テロ組織であるという。ただ、イスラム国(IS)を弱体化させ、イラク北部を安定化させたのは米軍の支援を受けたクルド自治区の治安部隊「ペシュメルガ」である。

●中東が恐れる独立機運拡大、燻る原油供給不安

 ISを弱体化させ、中東の不安定感を後退させたことから、クルド人は原油価格の安定化に寄与したといえる反面、イラク北部のクルド自治区が独立を目指していることは原油市場の長期的なテーマの一つとして陳列され、原油価格を一段押し上げるだろう。独立機運がトルコやイランに住むクルド人に波及していく可能性があることが中東の地政学的なリスクを高め、原油価格を底上げする要因となる。中東各国は独立機運の拡大を一番恐れていると思われる。独立か否か、対話で解決の糸口がつかめるような問題ではない。スペインのカタルーニャ州も同様である。白か黒しかなく、グレーはないのである。仮に内戦が頻発するようになれば、原油の供給不安が高まる。

 イスラム圏におけるシーア派やスンニ派の確執、アラブ人やペルシャ人の対立、パレスチナ問題など、数ある中東のリスク要因のなかにクルド人の独立問題がしっかりと加わってくると、原油価格は一段上の水準へとシフトしそうだ。リスク・プレミアムの上乗せはすでに始まっているのではないか。石油輸出国機構(OPEC)を中心とした協調減産は今のところ奏功していると言い難く、クルド人の独立問題による原油高は、産油国にとって思わぬ恵みの雨となりうる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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