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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「最強の銘柄選択、米中首脳会談後に浮かぶもの」

株経ONLINE 副編集長 中村潤一

株経ONLINE 副編集長 中村潤一

 「地政学的リスク」という概念は、世界の実勢経済とは別の流れで株式市場に影響を与えます。しかし、最近ではこの言葉と正面から向き合うような相場環境に置かれるようなことはあまりありませんでした。

 その意味では新年度早々、4日の東京株式市場で、石川製作所 <6208> がいきなり大商いをこなしてストップ高に張り付くような展開に、違和感を抱いた市場関係者も少なくなかったようです。これまでは北朝鮮がミサイルを日本海に向け発射しても、オオカミ少年的な扱いで防衛関連株が微動だにしないことはありましたが、かの国が沈黙を守った状態で、関連株が(といっても値動きの軽い常連銘柄に絞られますが)軒並み急騰するというのは珍しいことです。翌5日は、逆にこれに北朝鮮が触発されたような形で弾道ミサイルを日本海に向けて発射するなど、足もとはキナ臭さが蔓延しています。3月中旬以降急上昇に転じた金価格も臨戦モードを暗示している、との声も聞かれます。

●米中首脳会談通過まで流れを見極める時間帯

 そうしたなか、日本にとって今週6~7日の米中首脳会談の結果は、米3月の雇用統計発表の比ではないほどに重い意味を持ちそうです。もっとも、4日の東京市場を振り返ると全体指数は“アルゴ売り”の洗礼を浴びながらも日経平均株価は172円安でとどまり、為替も円高が急速に進行するようなことはありませんでした。また、5日はリスクオフの足かせが外れ、上値が重いとはいえプラスに切り返しました。韓国株式市場も落ち着いた動きをみせており、果たして今の市場は冷静なのか、それとも鈍感なのか、これは米中首脳会談後の相場展開が答えを示すことになります。

 勝者と敗者がくっきりと色分けされる相場の世界もまた、マネーの合戦の場です。では、戦いに勝利するための必須条件とは何でしょうか。中国古典に範を採れば、「兵法を知り、時を読み人の和をなす」ということになります。資本主義の戦場である株式市場においてもその原理原則は当てはまります。特に“時を読む”ことは実践的に最も重要で、個別銘柄の持つファンダメンタルズ分析よりも重要性を帯びることが少なくないようです。株価が今より評価されてしかるべき内容を持つ銘柄であっても、タイミングが合わなければキャピタルゲインを掌中に収めることはできません。当該銘柄が首尾よく花を咲かせるか否かは種だけではなく、土であるその時の全体相場に委ねられている部分が大きいのです。

 そして今は、動きを止めて全体の流れを見極める時間帯といえるでしょう。

 過去の観念や目先の値動きにとらわれたビジョンなき投資を遂行しては本末転倒といえます。今は待つ時、そして、ただ待つのではなく次に何が来るのかを考える時です。株式投資の醍醐味は「安く買って高い時に売る」。あるいは、株主として長期スタンスでその企業の業績と株価の成長を見守り続けるというのも立派な選択肢ですが、いずれにせよ時が巡れば、開花する可能性の高い種を見つけ出す努力が、投資家にとって最初にありきなのです。

●トランプ相場とは関係ない米国経済の強さ

 異形の宰相であるトランプ米大統領の誕生は、賛否両論あるなかも資本主義経済の観点からみればポジティブ、世界に株高旋風を巻き起こしました。アメリカ・ファーストによるレパトリエーション(本土への資金回帰)が逆風となるはずの新興国の株式市場にも、昨年11月を境に吹いた風はフォローウインドであった現実は無視できません。

 そうしたなか、オバマケア代替法案の撤回は、トランプ政権にとって初めてといってもよいピンチです。この法案は約1兆ドルの財源を生むことが想定され、それが減税やインフラ投資に回るシナリオが描かれていただけに、ここでつまずいたのは痛かった。しかし、アベノミクスでは折からの円安転換で東京市場に福音がもたらされたように、米国経済の強さが相場の礎となり、トランプ政権を支える可能性があります。今の強靭な米国経済は昨年11月から始まったトランプ相場によって築かれたものではありません。いわば、トランプ氏が掲げる大幅減税や大規模インフラ投資などは、鬼に“金棒”を2本持たせようとするに等しい政策なのです。

●大勢占める悲観論、しかし歴史観に立てば買い場探し

 東京市場の見通しについてはひところの強気ムードが一変、にわかに悲観論が大勢を占めるようになっています。確かに日米欧いずれも政治的には波乱含み、テクニカル的にも日経平均は稲穂が頭を垂れるような形で一目均衡表の雲を下抜けており、ひと頃の先高期待は雲散したといってよいでしょう。しかし、少し長い目で見れば今回の調整もやはり買い場の提供になると思います。米中会談の結果にも左右されますが、相場はいったん下値を探るにせよ、意外に早い段階で出直ってくるのではないかと考えます。

 歴史観に立てばここから下押す場面は分散して買い下がるチャンスです。日本は1990年にバブルが崩壊、そこからは経済大国の看板を掲げたまま、長いデフレのトンネル、いわば“逆バブル状態”に入りました。「失われた10年」という言葉がよくメディアに躍りましたが、実際にトンネルの出口まではその倍、20年強の歳月がかかりました。2012年末の安倍政権発足後にようやく“逆バブル”崩壊のステージに突入。アベノミクスやトランポノミクスの神通力が消えても、それはデフレ脱却に向けた長い道のりの小休止に過ぎない可能性が高いのです。

 日経平均は1万9000円台半ばが戻りのフシとなっていますが、この水準は1989年末、今から「約28年前」につけた史上最高値3万8915円のわずか「半値」に過ぎないのです。デフレマインドからの脱出を依然として果たしていない東京市場。だからこそ、この既成概念が完全に消滅するまで、長期的観点に立った上昇相場は懐疑の森のなかで育ち続けるはずです。

●4月に態度を変えるか外国人、日銀ETF買いも健在

 2月と3月の2ヵ月間で外国人は現物で1兆2100億円強、先物で8300億円弱、現先合計で2兆円以上の売り越しを記録しています。この間に、オールシーズン買い続ける日銀はどうしていたかというと、2月に4927億円、3月に5068億円、2ヵ月合計で約1兆円のETF買いを入れています。日経平均は1万8800円から1万9600円のボックス推移で、現物だけでみれば外国人の売りをそのまま日銀が飲み込んだ格好となっています。しかし、これは外国人の売り攻勢を日銀が矢面に立って凌いでいる構図には全く見えないのです。ちなみに4月以降、日銀は4日に725億円、新年度第一発目のETF買いを入れています。

 4月は新年度入りで新たな機関投資家資金が流入しやすい月ですが、特に海外マネーの上陸が恒例化しています。昨年まで外国人投資家が16年連続で日本株を買い越しているという鉄板アノマリーに支えられた月です。米中首脳会談が大きなカギを握るとはいえ、この経験則が今回も生きる可能性は小さくなく、その場合は相場の風景がガラッと変わるケースも念頭に置いておくべきです。

●銘柄リバランスの動き捉え機械セクターに照準

 では、それを考慮したうえで物色対象をどこに絞ればよいか。米中首脳会談後をにらんだ最強の選択肢、それは、今の相場において現在進行中の銘柄リバランスの動きを察知しておく必要がありそうです。

 5日の株式市場は米長期金利が上昇しても三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> などメガバンクの株価は軟調、また円高一服となってもトヨタ自動車 <7203> など自動車株は戻らない。対照的にファナック <6954> が強い動きみせ、ツガミ <6101> は続急伸、タクマ <6013> や不二越 <6474> なども買われており、いわゆる設備投資関連の機械セクターに資金が向かっています。自動車株を外して機械株を組み入れる動きなどが国内外の機関投資家の一部で出ているもよう。機械セクターは、スーパーサイクル突入を背景とした半導体製造装置やアップルのiPhone次世代機種など高機能化の進むスマートフォン、さらに電装化が加速する自動車業界など、“超成長市場”のダイナミズムに触れる銘柄が多い。この流れは今後太くなる可能性があり、銘柄の裾野も広がりそうです。

 DMG森精機 <6141> やソディック <6143> 、オークマ <6103> は押し目買い対象として押さえたいところ。また、アジア地域では高機能化された繊維機械の需要が伸びており、工業用ミシンのトップメーカーJUKI <6440> が本命、穴株ではジェットルームの世界最大手である津田駒工業 <6217> が意外性を内包しています。

●直近IPO銘柄の押し目買いも一考

 このほか、為替や米国株の動向に左右されにくい直近IPO銘柄の切り返しについてみるのも面白そうです。大手メーカー向けプリント基板の通販を展開するピーバンドットコム <3559> [東証M]は17年3月期営業利益3.8倍予想と高変化、中期成長力の高さも魅力です。また、デジタルマーケティングで成長を遂げるマクロミル <3978> も17年6月期は大幅増収増益見込みで、時価PERは20倍未満、来期以降も業績拡大路線が期待できるだけに要注目でしょう。

(4月5日記、隔週水曜日掲載)

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