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【特集】「10月米雇用統計で見えてきたもの」桂畑誠治氏に聞く!<直撃Q&A>

桂畑誠治氏(第一生命経済研究所 主任エコノミスト)
 果たして米国景気は盤石なのか。米10月の雇用統計発表を受け12月利上げの可能性は高まったが、非農業部門の雇用者数だけでなく、その内訳を知っておくことは重要だろう。米国の金融や経済に詳しい第一生命経済研究所主任エコノミストの桂畑誠治氏にプロの視点で、米経済の実態を詳らかにしてもらった。

Q1 10月の米雇用統計についてどのように評価しますか?

桂畑 16年10月の非農業部門雇用者数は、前月差+16万1000人(9月同+19万1000人)と小幅鈍化し、市場予想中央値の同+17万3000人を下回った。ただし、10月はハリケーン「アンドリュー」の襲来による悪影響を受けたことや、8、9月合計で4万4000人上方修正されたことを考慮すると、雇用の増加ペースは市場の想定よりも堅調と判断される。

 10月の失業率は、4.9%(9月は5.0%)と市場予想中央値と一致し、完全雇用といわれている水準を維持した。ただし、労働参加率が62.80%(同62.93%)と低下したことに伴い下がっており、仮に労働参加率が前月と変わっていなければ、失業率は5.1%に上昇していた。また、就業率が59.74%(同59.81%)と低下したほか、失業者全体に占める長期失業者の割合は25.2%(同24.9%)に上昇するなど、雇用の質は悪天候により一時的に悪化した。

 このようななかで、広義の失業率は9.5%(同9.7%)と低下し、緩やかな改善傾向にある。また、自発的失業率が12.2%(同11.2%)と上昇して高い水準を維持しており、雇用環境が良好なことを示している。平均時給は、前月比で+0.4%(同+0.3%)、前年比でも+2.8%(同+2.7%)と加速するなど、労働需給の改善を背景に徐々に高まっている。ただし、過去と比較して広義の失業率が引き続き高い水準にとどまっているほか、参加率・就業率の水準が低いなど、質の面で依然として改善余地が残されている。雇用情勢は失業率が前回の景気拡大局面(07年)の時につけた4.9%だったときほど健全ではないため、賃金上昇率はFRBの期待ほど伸びていない。

Q2 これを受けて12月の利上げの可能性はどのくらいでしょうか? また、来年の利上げ見通しについても合わせてお願いします

桂畑 雇用者数などは予想を下振れたが、賃金の上昇などもありFF先物が示す年内の利上げの可能性は約76%と高い水準を維持している。雇用を含む経済ファンダメンタルズなどは、利上げの条件をみたしており、米大統領選挙でクリントン大統領の誕生を確認後、FRBは12月のFOMCで利上げを決定すると予想される。

 17年は、景気拡大の長期化や世界経済の低成長などの影響により、緩やかな経済成長が続くだろう。PCEコアデフレーターは目標の前年比+2%を下回って推移するとみられることから、FRBは来年については1、2回の利上げを実施しよう。

Q3 米大統領選挙の結果次第で利上げ時期が大きく後ズレする可能性はあるでしょうか?

桂畑 トランプ大統領が誕生するなど金融市場が大きく混乱した場合は、状況は必然的に変わる。金融市場が落ち着きを取り戻し実態経済への影響が明確化するまで、利上げを見送るだろう。

(聞き手・中村潤一)

<プロフィール>(かつらはた・せいじ)
第一生命経済研究所 経済調査部・主任エコノミスト。担当は、米国経済・金融市場・海外経済総括。1992年、日本総合研究所入社。95年、日本経済研究センターに出向。99年、丸三証券入社。日本、米国、欧州、新興国の経済・金融市場などの分析を担当。2001年から現職。この間、欧州、新興国経済などの担当を兼務。

出所:株経ONLINE(株式会社みんかぶ)

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