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【特集】「夢の新素材CNF配合ボールペン、ヒットの秘密は?」 三菱鉛筆・開発担当者に聞く!<直撃Q&A>

竹内容治氏(三菱鉛筆 横浜研究開発センター課長)
 日本発の新素材“セルロースナノファイバーCNF)”。製紙企業を中心に開発が進むなか、文房具大手の三菱鉛筆<7976>が世界初のCNFを配合したゲルインクボールペン「ユニボール シグノ 307」を今年5月に日本で発売した。「かすれない」「インク溜まりができにくい」といった特徴が好評で、欧米や日本で順調な売れ行きを示している。CNF配合ボールペンは従来の製品と何が異なるのか。開発の苦労や、先に発売した欧米での評価を、横浜研究開発センター課長の竹内容治氏に聞いた。

Q1 伊勢志摩サミットの公式ボールペンにも採用された「ユニボール シグノ 307」が欧米や日本で人気です。同製品の誕生に至った着眼点は?

竹内 ゲルインクボールペンはなめらかな書き味を持ち、しかも滲みにくいという水性と油性ボールペン両方の特長を兼ね備えています。ゲルインクは、静止時はインクの粘度が高く安定していますが、筆記時にはペン先のボールが回転する力によってインクの粘度が下がってかすれにくくサラサラと書きやすいという特徴を持っています。

竹内 「ユニボール シグノ 307」の開発に当たっては、世の中に数多くのゲルインクボールペンが流通しているものの、まだ改良の余地が有り、ユーザーの中には潜在的な不満点があるのではないかと考えました。調べていく中で、線を強く書いたときに出る線割れ(筆圧の強弱によって生じるかすれ)や、インク溜まり(ぼて)の発生が不満な箇所として浮かび上がりました。インクの粘度が筆記時に十分下がらないと、線や文字を速く書いたときにインクがかすれてしまったり、筆記時にインクが紙につかずボールに残り、一定量を超えるとかたまりとなって紙に落ちてしまいます。これらを踏まえ、粘度をより下げることでユーザーの潜在的な不満を改善したいと考えました。

Q2 世界で初めて夢の新素材「CNF」をインクに採用した経緯は?

竹内 従来のゲルインクボールペンは、筆記時に粘度が十分に下がらないものが多いと感じていました。インクの粘度はインクをゲル化させる(粘度をつける)粘度調整剤に起因します。この粘度調整剤についてより適切なものを見つけられないかと模索する中で、「CNF」を粘度調整剤として利用すれば、静止時の粘度の高さは従来と変わらず、筆記時には今までより少ない力で滑らかに書けるようになるのではないかと考えました。

 そこで、「CNF」を増粘剤として提案してきたメーカーから情報を集め、実際に試作してみようということになり、第一工業製薬<4461>の非常に繊維の細かい「CNF」を採用しました。三菱鉛筆は、もともと黒鉛と粘度を細かく分散させて鉛筆の芯を作っていたので、その技術を応用して「CNF」を増粘剤としてインクに混ぜて分散させたのです。実験と試作を何度も繰り返し、製品化まで2年近くを要する大きなプロジェクトに発展しました。

 数々の試行錯誤を経て開発した「ユニボール シグノ 307」には、従来の不満を大幅に改善して、なめらかな書き味、速書きでもかすれず、インク溜まりができにくいといった特徴があります。

Q3 先行した欧米での好評にはお国柄もあるとか。今後の商品展開についてお教えください

竹内 2015年3月から北米、9月から欧州で販売を開始して、日本でも今年の5月から販売を開始しました。筆記体を用いて速書きする習慣のある欧米圏の人々のニーズと「シグノ307」の特徴が合致していたため、欧米で先に発売したのです。「速く書いてもかすれない、インクの溜まりができにくい」といった点を評価するユーザーの声をいただいております。

 これまでに国内外合わせて累計約2000万本売れており、ゲルインクボールペンの中では良い売れ行きを示しています。日本では字画が多く、しっかりとした字を書くためにボール径が細いものが好まれる傾向がありますので、今後の製品展開としては「細字化」を進めているところです。

(聞き手・吉野さくら)

<プロフィール>(たけうち・ようじ)
1993年4月、三菱鉛筆入社。現在、横浜研究開発センターの課長を務める。水性ボールペンおよびゲルインクボールペンの開発一筋。最近ではCNFを粘度調整剤として配合したゲルインクボールペンの開発を手掛ける。

出所:株経ONLINE(株式会社みんかぶ)

最終更新日:2016年10月18日 18時17分

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