【市況】「国慶節連休明けの中国動向は?」 内藤証券・千原靖弘氏に聞きました!<直撃Q&A>
千原靖弘氏(内藤証券 中国部 情報統括課長)
●千原靖弘氏(内藤証券 中国部 情報統括課長)
Q1 今年末から来年前半に掛けての中国の経済動向は?
四半期ベースの経済成長率は、大方の予想通り6%台で推移し、大崩れすることはないだろう。経済成長率は鈍化するが、これは自然な流れ。経済成長率は前年比なので、乗り越えなければならないハードルが年々高くなるからだ。中国の経済規模は日本の2.7倍(15年)に達している。この規模で6%以上の成長率を維持していることは、すでに驚異的とも言える。
中国経済に占める第三次産業の比率は半分を超えており、その成長率は他の産業に比べ高い。ここ数年のPMI(CFLP発表)をみても、製造業は景況判断の節目となる50付近で一進一退だが、サービス業は50を超える水準で安定している。製造業は調整が続くだろうが、日本の数歩先を行くIT(情報技術)を武器に、サービス業は一層の発展が見込まれる。
Q2 中国の株価(上海総合)の年末に掛けての推移は?
中国共産党の第18期中央委員会第6回全体会議(六中全会)が10月24~27日に開かれる。議題については、綱紀粛正など政治的内容が中心となる見込みであり、経済政策などがどこまで話し合われるかは不透明。昨年の五中全会では「一人っ子政策」の完全廃止が決まったが、こうしたサプライズを期待する動きが、国慶節連休明けに出てくる可能性もある。
ただ、よほどのサプライズがない限り、上海総合指数は概ね3000ポイント付近にとどまるだろう。理由は中国政府の方針が一枚岩ではないからだ。今年5月に金融緩和に否定的な経済見通しが中国共産党の機関紙「人民日報」に掲載された。著者は政府要人とみられる。一方、今年8月に金融緩和を提案する文書を国家発展改革委員会が発表したが、すぐに一部の文言が削除された。政府要人の考えと相反する内容だったからだ。このように政府内の不協和音が伝わり、投資家は株式市場の方向感を見出せないでいる。
株式には手が出しにくいため、投資家は低リスクの運用に傾いている。今年8月のデータをみると、個人投資家も参加できる国債現先取引は、取引額が株式売買代金の5倍に膨らんでいる。また、オンライン決済サービス「アリペイ」の残高を運用する「余額宝」は、利用者が3億人を突破している。国債現先取引と「余額宝」はいずれも概ね年利2%台後半の利息をほぼノーリスクでもたらしてくれることから、わざわざ方向感が不透明な株式に手を出さないというのが、中国の投資家の現状だ。
逆に、大きなサプライズが出たり、経済政策の方向感が鮮明になったりすれば、膨大なマネーが株式市場に流入すると予想される。ただ、それは政府要人の胸の内にあり、憶測しかできない。このため重要会議などに前後して、思惑買いと失望売りが繰り返されるだろう。
Q3 中国経済が日本経済に与える影響は?
中国は「世界の工場」から「世界の市場」にシフトしている。消費財小売総額は15年も名目ベースで10.7%増加し、16年に入ってからの月間ベースでも2ケタ成長が続いている。
こうしたなか日本を訪れる中国人観光客の数は、1~8月の累計で前年同期比34%増となっており、今年も過去最高を更新する見込み。中国人観光客の日本での楽しみは、「買い物」から「体験」にシフトしており、地方の観光業にも影響が及ぶだろう。
こうした動きを阻害する要因は、中国経済や円相場ではなく、日中関係の悪化と大地震。過去の統計をみても、こうした事象が発生すれば、たとえ円安だろうが、中国経済が好調だろうが、中国人観光客は減少している。
一方、「買い物」に関しては、日中間のオンラインショッピングが中心となっていこう。オンライン決済はアリババの「アリペイ」を使うのが主流であり、これに対応する日本企業も増えるだろう。
(聞き手・冨田康夫)
<プロフィール>(ちはら・やすひろ)
中国株情報の発信に10年余り携わる。大学院修了後、上海市の復旦大学に2年間留学。ニュース配信会社の駐在員として広東省広州市に1年間赴任。中国の現地事情や社会・文化にも詳しい。
出所:株経ONLINE(株式会社みんかぶ)