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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「相場大転換で復活の鐘を鳴らす銘柄」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

●ノーベル賞効果も長続きしない高揚感

 16年度下期相場入りとなった東京株式市場では、それを待っていたかのように3年連続となる日本人のノーベル賞受賞という号砲が鳴り響きました。ノーベル賞発表の皮切りとなった10月3日、医学生理学賞で大隅良典・東工大栄誉教授が「オートファジー」のメカニズム解明で受賞を果たし、これを受けて翌4日のマーケットでは関連試薬を展開するコスモ・バイオ <3386> [JQ]を筆頭に、医学生物学研究所 <4557> [JQ]、タカラバイオ <4974> などバイオ関連銘柄に短期資金が激しく誘導されるかたちとなりました。

 細胞内のタンパク質を分解するオートファジーは人間においても細胞が正常な働きを保ち生命を維持する根本的な仕組みであり、がんや糖尿病の発症を抑制する役割を果たします。将来的な可能性を含め、創薬への期待の高さが個人投資家マネーを引き寄せた格好です。ただ、それでも思ったより資金の誘引効果は限定的なものにとどまった印象は否めません。5日は上記3銘柄とも反落。コスモ・バイオと医学生物の2銘柄については、前日にストップ高水準のまま値がつかずに大引け比例配分となる異彩の強さをみせたにもかかわらず、一夜明けて売りと買いの体(たい)が入れ替わってしまうところに、投資家の相場に対する疑心暗鬼が投影されているようにも思えます。

 今の市場エネルギーの乏しさは投資家の高揚感の希薄化とイコールで結ばれる部分があることは確かです。ただ、結論から先に言えば、これは恒常的に続くことはなく、先行き悲観する必要もないと考えています。個別株勝負でチャンスはいくらでも転がっていると思われるからです

●日経平均と為替との連動性は不変

 全体相場は日銀が7月29日の金融政策決定会合で決めたETF買いの購入枠倍増(年6兆円)のインパクトが強力で売り仕掛けを封じる効果をもたらせたことは明確ですが、一方で相場の活力を失わせ、市場参加者が漸減傾向をたどる現在の状況を招いた槍玉に挙げる声も少なくないようです。いうなれば下値は岩盤だが空も見えない洞窟を進むような、閉塞感の強い相場。しかし、過去の株式市場の歴史が証明するように狭いボックス圏での上下動が永久に続くことはないのです。ボックス圏往来相場の上限をブレークするには、上値を買う主体として外国人投資家の復活を待つよりないところです。そのポイントは為替の動向と来18年3月期の企業業績見通しといえるでしょう。

 物や事象に対する評価は元来、現在と連絡する過去がモノサシの役割を担います。しかし、従来の価値観が揺らげば、過去はモノサシとして機能しにくくなります。今の為替と日経平均は決して連動性を失っているわけではなく、日銀のETF買いという下駄を履かせた状態が過去のモノサシの基準を狂わせているだけで、本質的な部分の相関に変化はないと思われます。したがって、ここから為替が円安に振れるのであれば、下駄を履いたなりのレベル感で日経平均も素直に上値を指向する展開が想定されるのです。

●クロダミクスで再び外国人投資家が動く

 過去10年を振り返ってもドル円相場日経平均株価の連動性は極めて強く、特に第2次安倍内閣以降の東京株式市場、いわゆるアベノミクス相場がスタートした2012年末以降はそれが顕著であり、円安と二人三脚の上昇相場が繰り広げられてきました。その背景にはデフレ脱却を第一義とするアベノミクスの最大の理解者である(日銀の独立性はあっても結果的にはそういう関係にある)日銀黒田総裁の金融緩和政策フォローが扇の要となっていたことは間違いのないところでしょう。そして、そのクロダミクスに乗った株価牽引の実働部隊が外国人投資家という構図です。

 年内は微妙ですが、来年前半にかけてその構図が再び描かれる可能性はあります。株式需給面では、OPECのサプライズ減産合意を背景とした原油価格の持ち直しが、オイルマネーの動きにプラスに作用しそうです。

 9月21日の日銀金融政策決定会合で導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という新たなスキームは、10年債のゼロ%誘導などを背景としたイールドカーブのコントロールで、結果的に長短金利差が収益機会につながる金融機関に有利に働きます。銀行セクターがマイナス金利の呪縛から逃れ、上値追い態勢が確保できれば相場全体の流れも変わるでしょう。このイールドカーブ・コントロールは長期債の買い入れを減らすことでテーパリング(緩和縮小)、すなわち出口を意識した動きではないかとの疑念を市場に与えた部分もあったようですが、日銀は同時に「オーバーシュート型コミットメント」も打ち出しており、これは物価上昇率が安定的に2%を超えるまでは金融緩和の手綱を緩めることはないという意思を明確に示したものです。

 対して米国は大統領選後の利上げが有力視されており、欧州でもECBが出口戦略の糸口を探る動きをみせていることで、金利差拡大の思惑が円安誘導につながっていきそうです。今後は1ドル=107円前後を目指す円安が予想され、日経平均1万8000円台挑戦のひとつの土壌が出来上がっていくと思われます。

●業績悪も暗雲の切れ目を見つめる

 一方、もうひとつの土壌となるのは企業業績です。10月下旬から11月中旬にかけて3月期決算企業の中間決算発表が本格化します。国内はインバウンド需要の剥落に加え消費不況の波が再び強まっているほか、外需も為替の円高直撃で下方修正圧力にさらされています。しかし、17年3月期も折り返し地点にくると、良くも悪くも通期の着地点を株価は織り込み始めます。現時点ではすでに全産業ベースで減益がコンセンサスのようですが、既にネガティブ方向で目が慣らされていることもあって、株価の下方プレッシャーという点では限定的といえるでしょう。

 同時に外国人投資家の視線は来18年3月期の日本企業の「回復」の度合いを探る方向に向くことが予想されます。今期の減益幅を上回る増益見通しが立てば、これまでポジションを落とした分の買い戻しが想定されるのです。今は間断なく雨が降っていても、前方に見える暗雲の切れ目から陽光が差し込みさえすれば、そこを見つめて上昇に転じるのが株価の習性です。個別には、直近のセブン&アイ・ホールディングス <3382> やJ.フロント リテイリング <3086> の値動きなどが象徴的といえるでしょう。

●仕切り直しのネクシィーズG、タカラバイオは中期で変貌妙味

 ここ再び仕切り直し相場に動き始めたネクシィーズグループ <4346> は、「神の手」関連で値動きは荒いものの実態面でも割高感はなく、天井の高さは魅力といえるでしょう。また、鍵や水回りなどの生活トラブル対応ビジネスを展開するジャパンベストレスキューシステム <2453> も13週移動平均線とのマイナスカイ離解消で、一段の上値が意識されます。

 ここ人気薄の不動産関連もそろそろという印象。不動産流動化ビジネスを展開するトーセイ <8923> にも物色の矛先が向かう可能性がありそうです。また、為替が円安方向に向かうとすれば、自動車部品関連で低PER・PBRが光るティラド <7236> なども面白い存在となりそうです。このほか、バイオではゲノム編集関連でもあるタカラバイオ <4974> は株価変貌余地があり、押し目は中期スタンスで狙い目となりそうです。

(10月5日記、隔週水曜日掲載)

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