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【特集】「原油相場の反発基調は続くか?」 芥田知至氏に聞きました!<直撃Q&A>

芥田知至氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主任研究員)

 急落を続けた原油先物相場は足もとで反発基調にある。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)価格は一時1バレル=41ドル台まで上昇し2月安値の26ドルから値を上げている。ただ、14年前半までの100ドル超の水準からは大きく落ち込んでおり、原油価格の低迷を世界経済の不安要因として懸念視する声は少なくない。今後、原油価格はどう動くのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングで原油価格や国際商品市況を担当している芥田知至主任研究員に見通しを聞いた。

●芥田知至氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主任研究員)

Q1 14年の夏場以降、なぜ原油価格は急落したのでしょうか

「原油市場は、足もとで大幅な供給超過の状態が続いています。ここ数年間、米国でシェールオイルの増産が続きました。さらに昨年はイラクやサウジアラビア、ロシアなどが増産したことで供給超過に拍車がかかりました。その一方で中国と欧州などの景気低迷で原油需要は鈍っています。また、イスラム国(IS)は産油地帯のイラク南部の制圧はできず、IS絡みの地政学上の懸念要因は薄らぎました。なかでも、原油価格が低迷してもサウジアラビアは減産に応じず、OPEC(石油輸出国機構)は需給調整に動かないことが判明しました。ドル高基調もドル建てで取引される原油の割高感につながり価格の下落要因となりました。これらの要因が、バブル崩壊的な原油安状態を招いたとみています」

「サウジが減産に応じない理由としては、シェールオイルにマーケットシェアを奪われることなどを警戒したためとみられます。サウジは、現在の状況で減産したとしても原油価格は下げ止まらず、シェールオイルにシェアを失っただけとなる事態を恐れたのだと思います。従来、OPECは原油価格が下落すると減産に踏み切り、需給引き締めに動きました。しかし、主要国のサウジが減産に動かなかったことで、OPECに対する信頼関係は失われました。2003年頃から始まった原油価格を含む国際商品市況の上昇は『スーパーサイクル』と呼ばれていました。しかし、中国など新興国の資源需要の急増を背景にした同サイクルは14年夏で終り、新たなステージに入ったとみています」

Q2 今後の原油価格の動向はどう予測していますか

「メーンシナリオは、1バレル=30~50ドル前後のレンジ相場だとみています。ただ、目先的には原油価格は軟調に推移する可能性はあると思います。4月17日に予定されている増産凍結に向けた産油国協議を視野に原油価格は反発しました。しかし、この増産凍結の材料はほぼ織り込んだと思います。増産凍結とは、言い換えれば高水準の生産は続くということです。今後、原油は大幅な供給超過の状態にあるという事実に再び目が向かい、原油価格が下落することは起こり得ると思います。いまは戻りの一時的な局面といえるかもしれません。しかし、年後半から原油価格はゆっくり上向き、18年にかけ50ドル台前半を目指すという展開を予想します。50ドル後半からはシェールオイルの開発増を懸念する水準となり上値は重いと思います。原油市場の供給超過の解消には、需要の増加をゆっくりと待つことが必要になるでしょう」

「一方、中国のGDP成長率が6.5%を下回る状況となり資源エネルギー需要が減少するような場合、原油価格は20ドルまで下落することもあり得るかもしれません。逆に、原油価格が急伸する状況としては、サウジとイランの対立がエスカレートして軍事衝突に至るようなことがあれば、中東全体の地政学リスクが増大して原油価格が50ドルを超えて上昇することは考えられます。油田を対象としたテロが起こるような場合もアップサイドを試すことはあり得ます。ただ、これらの可能性はさほど高くないとみています」

Q3 今後、低水準の原油価格が続いた場合、世界の金融市場にどんな影響が出てくるのでしょうか

「ベネズエラやロシア、イラン、アルジェリアなどの一部産油国は厳しい状況にあります。ただ、これらの産油国は、国際資本との接触はあまりないと思われます。原油価格が下がり始めて2年近くたっており、ある程度時間をかけて資産価格の再評価も行われています。海外の大手銀行なども過去の学習から、産油国やエネルギー企業への貸し付けは抑えていると思われます。サウジでさえも財政状況の悪化が懸念されていますが、増税を行ったり支出を削減したりすることで乗り切ると思います。メジャーな産油国がバタバタと破綻するようなことはないとみています。ただ、財政赤字が大きい間は補てんのために、産油国傘下のソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)が保有株式の売却など資産処分を進めるような動きは、今後も続くと思われます」

(聞き手・岡里英幸)

<プロフィール>(あくた・ともみち)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員。専門分野は、国際商品市況、原油価格、金属価格、為替、内外経済。1992年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。同年山一証券入社、山一証券経済研究所・経済調査部。98年、三和総合研究所(現、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2006年から現職。

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