米政権暴走中、混沌の世界でキラリと光るディフェンシブ7銘柄選抜 <株探トップ特集>
―関税発動で米国の景気減速シナリオに現実味、ウクライナ情勢は予測不能な状況に―
日経平均株価が水準を切り下げている。トランプ米政権の関税発動が投資家のリスク許容度を低下させ、更に米国では景気減速懸念が広がるようになった。自国第一主義を貫く米国はウクライナだけでなく欧州とも距離を置き、米国の軍事力を支えにしてきた欧州各国は自ら軍備増強に動き始めている。米ウ首脳会談の決裂も世界情勢の不透明感を一段と強める結果をもたらし、必然的に投資家の目線は景気に左右されにくい ディフェンシブセクターに向かうようになっている。
●米国「GDPナウ」が急落
ディフェンシブ株は教科書的には、食品株や医薬品株に加え、通信、電力やガス、鉄道など公益セクターに属する銘柄を指す。これと対の関係にあるのが、景気の波によって業績が上下しやすいシクリカル(景気敏感)セクターで、自動車や電機、機械、鉄鋼や不動産などが該当する。景気減速シナリオが意識される局面や、相場の不確実性が高まった局面においては、シクリカルセクターからディフェンシブセクターへ資金をシフトさせる動きが広がることとなる。
経済指標をもとに米アトランタ連銀が米国の成長率を予測する「GDPナウ」をみると、6日時点で1~3月期の米国の実質成長率は年率換算で前期比2.4%減となっている。第1次トランプ政権当時と比べて発足から関税発動までのピッチは速く、政府職員のリストラも進行中である。仮に米国の実質GDP(国内総生産)が1~3月期、4~6月期と2四半期連続でマイナスが続くこととなれば、リセッション(景気後退)と評価されることとなる。米国がリセッション入りとなった場合、米国経済と強い結び付きを持つ日本経済にとっては対岸の火事でとどまることはなく、ダメージを被るのは避けられない。
ヴァンス米副大統領が2月14日にドイツ・ミュンヘンでの安全保障会議で行った演説内容をきっかけに、米国と欧州のデカップリング(分断)の機運も、とみに高まった。BBCなどの報道によると、ヴァンス副大統領は演説時間の大半を欧州の民主主義への批判に充て、会場は次第に沈黙に包まれるようになった。同月28日にトランプ大統領とヴァンス副大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と激しい口論を交わし、会談は決裂。欧州はすぐにゼレンスキー大統領の擁護に動いた。加えて、ドイツでは与野党が債務抑制ルールの緩和で合意し、軍事費の増強に動き、EU(欧州連合)も防衛力の強化に向けた計画を3月4日に発表している。パワーバランスが急変するなかで、ウクライナ情勢の先行きを見通すことは極めて困難な状況だ。
●投機筋の円ポジションの買い越し幅過去最大に
日本株は世界でも有数のシクリカル性を持つとされている。3月期決算企業の第3四半期(10~12月)決算発表シーズンを通過し、市場の関心は来期の業績動向にシフトしつつあるが、悲観的な投資家は少なくない。「25年3月期の上場企業の業績予想は、第3四半期発表が一段落した後、更に上振れをした。来期はその反動に加えて、会社側は期初に慎重な計画を示す傾向があるため、全体で減益予想となる可能性もある」(国内証券会社のストラテジスト)との声がある。
足もとでは円高も進行している。トランプ大統領は3日、日本と中国を名指しして、通貨安政策を取る国が米国の利益を損ねる状況について問題視する発言を行った。これを受けて円安是正に向けて政府・日銀が利上げペースを速めるのでは、との思惑が広がりつつある。投機筋による円ポジションの買い越し幅が過去最大規模まで膨らんだことも話題となっており、円安効果を享受したシクリカルセクターには買い手控えムードが漂っている。
一方、ディフェンシブ関連株が総じて上昇しているかというと、そういうわけではない。例えばDXやゲーム関連など、景気に左右されにくい内需系で成長が見込める銘柄に関しては、バリュエーションを切り上げた結果、上値を重くするものが散見される。ディフェンシブセクターには割安な銘柄も多く存在するものの、投資家には収益性や資本効率の向上の余地などを見極めながら選別することが求められることとなる。これらの観点を踏まえ、投資妙味を感じさせる銘柄をピックアップしていく。
●外部環境に耐性発揮のディフェンシブ系7銘柄
◎DM三井製糖ホールディングス <2109> [東証P]
「スプーン印」の三井製糖と「ばら印」の大日本明治製糖が統合した製糖最大手。原料となるサトウキビの最大生産国のブラジルにおいて、干ばつの懸念が広がりながらも25年度までは豊作となる見通しで、砂糖原料相場に関しては、しばらくは落ち着いた動きとなるとの見方が優勢。同社についても安定的な業績推移が見込まれる。製糖業界では合従連衡が進んでおり、日新製糖と伊藤忠製糖が統合して誕生したウェルネオシュガー <2117> [東証P]が2月、東洋精糖 <2107> [東証S]の買収を発表している。DM三井製糖は日本甜菜製糖 <2108> [東証P]と資本・業務提携しており、議決権比率で10%を超えない範囲で甜菜糖の株式の追加取得への検討も続けているもよう。DM三井製糖は値上げの浸透などを理由に1月31日に25年3月期の利益予想を上方修正した。昨年12月末時点の利益剰余金は972億円。総還元性向50%を目標とする同社だが、追加の株主還元への期待も膨らみつつある。
◎参天製薬 <4536> [東証P]
眼科用医薬品最大手で花粉症関連銘柄とも位置付けられる。25年3月期は税引き前利益(フルベース)で5割増を計画。ドライアイ治療薬「ジクアスLX」の自主回収が業績の足かせとなる半面、海外向けが堅調に推移している。来期にジクアスLXの出荷が再開すれば、ネガティブ要因がはく落することとなるだろう。昨年12月末時点の自己資本比率は71.3%で利益剰余金は2273億円。英投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズの保有割合は直近で7.10%に上る。アクティビスト側の圧力を受けて株主還元姿勢がどう変化するのかも注視される。
◎日本瓦斯 <8174> [東証P]
関東圏でLPガス・都市ガス事業を展開。11年にJPモルガン・チェース<JPM>の投資部門傘下のファンドと資本・業務提携を実施してM&Aを加速し、31年3月期に時価総額5000億円に伸ばす野心的な目標を掲げる。気温要因を踏まえて25年3月期第3四半期の決算説明資料で業績の下振れの可能性について言及したが、株価の下押し圧力は限られた。主力のLPガス事業では物流コストを抑えた効率的なオペレーションを強みに安定的な利益創出が見込まれるうえ、スマートハウス向けのハイブリッド給湯器の販売拡大にも期待が膨らむ。25年3月期のROE(自己資本利益率)は20%程度の見通しと高クオリティー銘柄であり、波乱相場が続くなかで投資家の待避資金の受け皿となることが見込まれる。
◎セイノーホールディングス <9076> [東証P]
「カンガルー便」の西濃運輸を傘下に持つ路線トラック輸送最大手。運輸業界は再編の流れが加速している。同社が昨年10月に連結子会社化した三菱電機 <6503> [東証P]系物流企業については、来期の連結業績にフルで寄与することとなる見通し。今25年3月期の営業利益に関しても4割増と過去最高益を予想する。政策保有株主の売り出しに合わせて取得総額400億円規模の自社株TOB(株式公開買い付け)を実施した。自己資本の減少に伴って来期のEPS(1株利益)とROEの水準が切り上がる見通し。値上げによる単価上昇効果は来期も続くとみられるほか、配当利回りは4%台と高水準にある。株価は200日移動平均線を下回っており、値頃感も意識される。
◎STIフードホールディングス <2932> [東証S]
コンビニエンスストアで販売されるおにぎりや弁当に向けた水産食材や総菜などの製造・販売を手掛け、セブン&アイ・ホールディングス <3382> [東証P]傘下のセブン‐イレブン・ジャパンを主要取引先とする。2月13日に発表した25年12月期の業績予想は営業利益が前期比3.4%増の30億円と連続最高益を計画するものの、増益率の鈍化が嫌気されて発表後の同社株は押し目の形成を余儀なくされた。今期は将来の成長に向けて経営を筋肉質にするための1年と位置付ける同社だが、百貨店などで西京漬や弁当の販売を手掛ける「味の浜藤」の運営企業の買収も発表。およそ100年の歴史を持つブランドと、セブンプレミアムのおにぎりよりも高価格な商品を取り扱うノウハウを取り込む方針だ。中期的な収益成長力の更なる高まりに期待したい。
◎扶桑薬品工業 <4538> [東証P]
人工腎臓用透析剤や輸液製剤などを供給。透析剤では国内トップシェアとなっている。25年3月期第3四半期累計の営業利益は前年同期比97.2%増の36億3300万円と大幅増益で収益性も向上。通期の計画に対して営業利益の進捗率は9割と業績の上振れが期待される水準にある。PBRは0.5倍台とバリュー的な色彩が濃い同社は9月中間期の決算発表時点で、累進配当を実施する目標を掲げたほか、策定を進める中期経営戦略において新たな株主還元方針を公表すると表明した。信用倍率は2月に入り1倍を下回り、好取組の状況にある。
◎エスビー食品 <2805> [東証S]
カレー粉で確固たるブランド力を持ち、コショーなどスパイス・ハーブ製品、本わさびやおろし生しょうがなど香辛調味料を製造・販売する。既存株主による株式売り出しを2月7日に発表。需給懸念が株価の重荷となったが、洋風スパイスや即席カレー、チューブ型香辛調味料の販売は堅調に推移し、25年3月期第3四半期累計の経常利益は前年同期比3割増で通期計画を超過している。海外売上高比率を将来的に40%超とする目標を掲げる同社は、ウォルマート<WMT>など米国の現地スーパーを通じカレールーなどの販売を着実に拡大。「おかずラー油」を寿司ロールのトッピングとする活用方法も広がっている。昨年12月末時点で利益剰余金は677億円。PBRは0.8倍台だ。
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