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インフレ下でも堅調な消費活動、浮揚機運強まる「小売有望株」に照準 <株探トップ特集>


―名目・実質ベースで消費活動指数はプラス圏維持、収益力着目のマネー流入で飛躍期待―

 コロナ禍後の経済回復が続いている。なかでもGDP(国内総生産)の約6割を占める個人消費に関しては、ベースアップや定額減税の効果から、先行きは持ち直しが想定されている。堅調な消費活動を支えに、小売各社の業績は底堅く推移するとみられており、不安定な相場のなかで異彩高を演じる銘柄も現れそうだ。

●8月の月例経済報告で個人消費の判断が上方修正

 政府の月例経済報告で個人消費は8月に判断が上方修正され、9月まで2ヵ月連続で「一部に足踏みが残るものの、このところ持ち直しの動きがみられる」となっている。サービス消費を含むことなどから、国内消費活動を把握するのに有用とされている日本銀行の消費活動指数をみると、9月6日発表の7月の消費活動指数(2015年=100)は実質ベースで99.1と、2ヵ月連続で前月比プラス。ボトムの20年5月(80.9)からは大きく回復している。名目ベースでは24年7月で110.2と、33ヵ月連続で前年同月比プラスとなっている。

 実質と名目の差は物価の変動分である。経済学的にはインフレ(あるいはデフレ)修正後の実質値を重視する場合が多いものの、実際に消費された金額は名目値である。小売企業などが発表している月次販売データ(既存店売上高など)も名目値に基づいている。そして、企業利益や株価もインフレ修正をしていない名目値である。株価を考える上で、どちらが有用かは自明であろう。 消費関連企業においては、3年近くにわたって前年同月比でプラス(増収)になっていることが「普通」だということになる。

 もちろん、コロナ禍で巣ごもり需要を取り込んだ企業もあれば、訪日外国人観光客の回復が追い風となった企業もある。小売業といっても、個別の要因があるには違いないが、それでも収益が伸びていない小売企業には何か問題があると考えるべきだろう。ちなみに、厚生労働省の毎月勤労統計調査では、現金給与総額(賃金・名目)は7月まで31ヵ月連続で前年同月比プラスを記録している。

●小売株は金利上昇時にアウトパフォーム

 一般に金利上昇時には、営業キャッシュフローの潤沢な小売を含む消費関連企業の株価がアウトパフォームしやすいとされている。わが国の金利上昇ペースは緩やかなものにとどまると想定されているが、投資家にとってポートフォリオの一角に消費関連株を入れておくことは、金利上昇時のヘッジとして、リスク分散にもつながると考えられる。

 足もとでは、石破茂首相の発言を受けて日銀の早期追加利上げの観測が後退し、ドル高・円安が進んでいるが、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げによるドル安・円高圧力が見込まれるなかにあっては、円高によるメリットを受ける銘柄にも目配りが必要な局面である。小売株で代表的な円高メリット銘柄には、ニトリホールディングス <9843> [東証P]や神戸物産 <3038> [東証P]などがある。百貨店ドラッグストアでは、円安によるインバウンド効果もあるが、国内消費者の購入が主体となる小売企業の場合、海外から輸入する製品の原価が上昇するというこれまでのデメリットが反転する形となり、総じて円高メリットの方が勝ると考えられる。

 更に、商品開発で優位性を持つ小売企業の場合、同業他社との競争に巻き込まれにくくなり、消費減退の局面でもインフレ環境下でも増収基調を維持しやすくなる。定額減税や給与増加、可処分所得増加などを背景とした本格的な消費回復が見込まれるなか、売上高の着実な増加や、利益を伸ばせる余地が見込める小売企業は、株高の恩恵を享受できると考えられる。これらの観点から、有望な小売株をピックアップしていく。

●小売セクターで注目すべき有望5銘柄

◎ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス <3222> [東証S]

 国内最大消費地の関東地区にグループ合計で532店舗を展開している。マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の3業態に加え、今年11月末には同じイオン <8267> [東証P]傘下のいなげや <8182> [東証P]を株式交換によって経営統合する予定。前期の営業収益ベースで単純計算すると 食品スーパーとして国内首位の売り上げ規模となる。現段階での利益率は低いものの、経営効率化とシナジー創出によって収益性向上を図る余地があろう。

◎イズミ <8273> [東証P]

 中四国、九州を地盤とする総合スーパーで、イズミ単体では8月1日時点で107店舗を展開している。既存店活性化やM&A・アライアンスに注力し、事業領域拡大を志向している。8月に西友(東京都武蔵野市)の九州地域における食品スーパー事業を承継。5月には大分県の食品スーパーを買収した。2月のランサムウェア感染被害発生を受けて一部収益に影響があったものの、資本コストや株価を意識した経営へと大きく舵を切っているのは評価できる。中期的にROE(自己資本利益率)10%以上、PBR(株価純資産倍率)1.5~2倍以上にするため、収益性の向上を目指している。

◎ジンズホールディングス <3046> [東証P]

 均一料金のアイウェア(眼鏡)販売の大手。国内495店(8月末時点)、海外249店(5月末時点)の店舗網を構え、既存店売上高は19ヵ月連続で前年同月比プラスを維持している。24年5月までの第3四半期決算発表の際に、業績予想と配当予想が増額修正された。過去に原価上昇を製品値上げで吸収した同社ではあるが、独自商品の開発に加え、有料オプション装着率の上昇も利益率向上に寄与している。

◎エービーシー・マート <2670> [東証P]

 国内靴小売の最大手で、グループで国内外に合計1496店(8月末時点)を展開している。国内売り上げの2割強が自社企画商品で、その9割を海外から輸入している。コロナ禍後の人流回復効果もあり、スポーツ系カジュアル、旅行やレジャーなどアウトドア系ファッションなどの需要が拡大している。値上げ効果もあって客単価は上昇しており、既存店売上高は31ヵ月連続でプラスを継続中だ。

◎パルグループホールディングス <2726> [東証P]

 若年女性向けアパレルで約50のブランドを有するが、生活雑貨を含めて5月末時点で982店を展開している。100円ショップより割高だが、デザイン性のある商品をそろえた「3コインズ」業態が拡大している。6月にはサーバートラブル発生の影響があったものの、7月下旬以降は円高メリット株として投資資金を呼び込み、戻り歩調を早めた。25年2月期には、3期連続で過去最高業績を更新する見通しだ。

 このほか、海外生産が主体という点でアパレル関連は円高メリット株である。更に低PBR銘柄の場合、資本コストとPBRを意識した経営が浸透すれば、株価が居所を変えるという可能性がある。PBR1倍割れの老舗アパレルには、TSIホールディングス <3608> [東証P]、三陽商会 <8011> [東証P]、ルックホールディングス <8029> [東証S]などがあり、いずれも再評価の余地があろう。紳士服大手の青山商事 <8219> [東証P]、AOKIホールディングス <8214> [東証P]などもマークしたい。

 加えて、経営改革の可能性という点で、セブン&アイ・ホールディングス <3382> [東証P]はカナダのアリマンタシォン・クシュタール社から法的拘束力のない初期的な買収提案を受けたが、本源的価値及びそれら価値を顕在化する機会を「著しく」過小評価しているとして拒否した。逆に言うと、経営陣は明示的に企業価値を向上させなければならないわけで、経営改革のスピードが加速する可能性が高まっている。

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