rakumo Research Memo(1):2024年4月から一部製品の値上げを実施
■要約
rakumo<4060>は、Google Workspaceのユーザー管理、認証、セキュリティ機能を共通利用し、Google Workspaceが持つ機能をさらに補完する領域(共有カレンダー、共有アドレス帳)から、Google Workspaceにはない領域(電子稟議、社内掲示板、勤怠管理、経費精算)までをカバーし、顧客の業務生産性向上に寄与するグループウェアサービス「rakumo」をSaaS方式で提供している。多くの独立したデジタルツールが運用されているとツール間の互換性に乏しい場合が多く、Google Workspace及びrakumoを導入することで、デジタルツール使用料のコストダウンが実現できることに加え、社員が業務を円滑かつセキュアな環境で実施することが可能となるため導入によるメリットが非常に大きい。Google Workspace自体の利用者数が今後も増加することが見込まれることに加え、Google Workspace導入企業へのマーケットシェアの拡大余地も大きく、同社は中長期的に高い売上成長の見込まれる稀有な企業の1つである。資本業務提携先のアドバンテッジアドバイザーズ社との協働により2024年4月から一部製品の利用料金改定を実施、業績への寄与が期待されることに加え、新規プロダクトのローンチに向けて開発を積極化することでクロスセルも中長期的に期待できよう。
1. 2023年12月期の業績概要
2023年12月期の連結業績は、売上高が前期比18.1%増の1,295百万円、営業利益が同30.9%増の303百万円、営業利益率は23.5%となり、前期比で2.3ptの上昇となった。期初に開示した業績予想が売上高1,246百万円、営業利益291百万円であったため、期初計画に沿って順調な業績進捗と評価できよう。主要なKPIであるSaaSサービスにおけるユニークユーザー(UU)数は2022年12月末の50.2万人から2023年12月末には56.3万人へと6.1万人の増加となり、年間増加数は過去6年間における最高水準へと達した。同社では中大手クライアントの獲得に注力する方針を期初から示しており、実際に複数の大規模クライアントを獲得したことがユニークユーザー数の大幅な増加へ貢献した。また、解約率についても2023年12月末で0.57%と過去最低の解約率を更新しており、主要KPI全てにおいて同社の高い製品競争力と成長性を裏付ける結果となっている。
2. 2024年12月期の業績見通し
同社では現時点で合理的な業績予想の算出が困難であるとして、2024年12月期の業績見通しを非開示としている。ただし、2023年12月期から外部環境に大きな変化はなく、クラウド市場の高成長が続くことが追い風となるほか、同社が進めている新規顧客開拓のための各種販売施策実施、新規プロダクトのローンチなど独自の販売拡大に向けた取り組み、規律あるコスト管理などにより高い売上高及び営業利益成長が続く見通し。それに加え、同社では2024年4月より同社が持つ10製品(各パック製品含む)のうち5製品で価格改定を実施する方針を打ち出しており、「rakumoカレンダー」では月額100円から150円へ、「rakumoボード」では月額150円から200円へ、「rakumoコンタクト」では月額50円から100円へとそれぞれ50円ずつ値上げされており、この効果が段階的に2024年12月期第2四半期以降、2025年12月期にかけて発現する見通しである。同社製品は企業のインフラに関わることに加え、企業顧客の満足度も非常に高く、値上げによって解約率が中長期的に上昇する懸念は非常に小さい。
3. 一部製品での価格改定実施による収益影響
弊社では同社が2024年4月より実施する価格改定による業績貢献は非常に大きく、かつ、解約率への影響も非常に限定的にとどまることで、2024年12月期第2四半期以降、価格改定効果がフル寄与する2025年12月期第2四半期にかけて同社業績が大きく拡大する可能性が高まっていると考えている。仮に2023年12月末の118万ライセンスのうち半分程度に該当する60万ライセンスが値上げ対象となり、1ライセンス当たり少なくとも月額50円の値上げとした場合、値上げにより同社の月間売上高を30百万円(=50円×60万ライセンス)、年間売上高を360百万円(=30百万円×12カ月)押し上げることになる(試算上、10製品のうち5製品が値上げ対象であることから便宜上、118万ライセンスのうち60万ライセンスが値上げ対象としているが、今回の値上げ対象はGoogle Workspace版rakumoカレンダーなどライセンス数の多い主力製品での値上げが中心とみられ、実際の値上げ対象ライセンス数は60万ライセンスよりも多くなる可能性が高いと弊社では考えている)。これは同社の2023年12月期の売上高1,295百万円の27.8%にも相当し、価格改定に連動して上昇するコストなどは発生しないことから、この金額がほぼ粗利益以下を押し上げる形となる。すなわち、2023年12月期の粗利益831百万円、営業利益303百万円をそれぞれ43.3%、118.8%押し上げる結果となり、値上げ効果がフル寄与する2025年12月期第2四半期にかけて、同社は一段と高収益企業へと変貌する可能性を秘めている。
もちろんこれが実現するためには値上げによる顧客離れや解約の影響を最小限にとどめることが必要となるが、同社では値上げ発表前に資本業務提携を締結しているアドバンテッジアドバイザーズ(株)と共同で他SaaS企業の値上げによる過去の解約率の変動スタディ、顧客に対しての料金設定に関するインタビューを実施して値上げによる解約率の上昇懸念が小さいことを総合的に判断し、今回の値上げ対象品目や値上げ幅を決定している。このように、今回の値上げは決して場当たり的なものではなく、同社経営陣による綿密な議論、ケーススタディのもとで行われた合理性の高いものであり、同社業績並びに企業価値向上に資するものであると判断できよう。
■Key Points
・2023年12月期業績は売上高、営業利益ともに期初計画を超過。主要KPIにおいてはユニークユーザー数の増加数が過去6年間で最高、解約率も過去最低を更新
・2024年12月期は2024年4月より実施予定の価格改定効果の合理的な算定が難しいことなどを加味し、現時点は公表を見送り。ただ、同社を取り巻く事業環境に懸念点はなく、むしろ今後、値上げ効果の大きさが業績予想上で同社から示されることで株式市場が今回の値上げによる業績寄与の大きさを認識する可能性も
・値上げによる解約率のネガティブ影響は懸念不要。一方、同社営業利益を押し上げる効果は非常に大きく、値上げ効果がほぼフル寄与する2025年12月期第2四半期以降に向けて、同社は一段と高収益企業へと変貌する可能性を秘める
(執筆:フィスコ客員アナリスト 永岡宏樹)
《AS》
提供:フィスコ