アンジェス Research Memo(1):2024年前半はゲノム編集技術による遺伝子疾患治療の注目度が高まる可能性
■要約
アンジェス<4563>は、1999年に設立された大阪大学発のバイオベンチャーで、長期ビジョンとして「遺伝子医薬のグローバルリーダー」になることを目指している。新薬候補品を開発し、販売パートナーとの販売権許諾契約によって得られる契約一時金や、開発の進捗状況等によって得られるマイルストーン収入、上市後の製品売上高にかかるロイヤリティ収入を獲得するビジネスモデルである。2020年12月に米国で先進ゲノム編集技術の開発を行うEmendoBio Inc.(以下、Emendo)を子会社化したほか、2021年4月には国内で希少遺伝性疾患を対象とした新生児向けオプショナルスクリーニング検査を行う衛生検査所アンジェスクリニカルリサーチラボラトリー(以下、ACRL)を設立した。
1. 最近の事業トピックス
同社は、2023年10月よりNF-κBデコイオリゴDNAの慢性椎間板性腰痛症を対象とした第2相臨床試験を国内で開始した。目標症例数は92例で、痛みの改善を評価する。2025年末の終了を見込んでおり、試験結果が良好であれば開発協力先の塩野義製薬<4507>にライセンスアウトする意向だ。米国で実施した後期第1相臨床試験では好結果が得られており、期待値は高い。一方、2023年10月に勃発したパレスチナとイスラエルの紛争により、イスラエルに研究施設を有するEmendoへの影響が懸念されたが、現時点において従業員や社屋への被害はなく、また重要資産についても安全な場所に移管した。ELANE(好中球エラスターゼ遺伝子)関連重症先天性好中球減少症(以下、SCN)※を対象としたゲノム編集治療薬の米国でのIND(新薬臨床試験開始)申請については、当初予定よりも遅れそうだが早期に実施できるよう準備を進めている。ゲノム編集技術に関しては、米国のVertex Pharmaceuticals<VRTX>他1社が2023年11月に英国、12月に米国で血液の遺伝性疾患に対する治療法として初めて承認を取得しており、今後Emendoのゲノム編集技術に対する関心が一段と高まると期待される。
※SCN(Severe congenital neutropenia)とは、骨髄における顆粒球系細胞の成熟障害により発症する重症先天性好中球減少症のことで、遺伝子変異により出生後の早期から好中球減少による中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を反復し、肺炎や敗血症などその他の疾患に至るケースもある。100万人に2人の割合で発症する希少疾患で、SCNの約7割はELANE変異による。
2. 主な開発パイプライン及びACLRの動向
同社は、国内で慢性動脈閉塞症治療薬「コラテジェン(R)」と導入品であるHGPS及びプロセシング不全性PL(以下、PL)治療薬「ゾキンヴィ」※の製造販売承認申請を行っており、いずれも2024年前半に承認される可能性がある。「コラテジェン(R)」は2019年3月に条件及び期限付きで承認され、市販後調査を経ての本承認申請となる。データの再現性確認が主な審査事項となるため、承認取得の可能性は高いと弊社では見ている。また、米国で実施中の後期第2相臨床試験の結果も2024年5月頃に判明する見通しである。好結果が得られれば、早期承認制度を活用して承認申請を行う意向だ。そのほか、ACRLでは(一社)希少疾患の医療と研究を推進する会(以下、CReARID(クレアリッド))を通じてオプショナルスクリーニング検査を受託しているが、2024年4月以降は自治体や医療機関からの受託を開始するほか、確定診断となる遺伝学的検査サービスも開始すべく準備を進めており、2024年12月期以降の収益化が期待される。
※HGPS(ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群)の死亡リスク低減、プロセシング不全性PL(プロジェロイド・ラミノパチー)の治療薬で、欧米では承認済み。開発元は米メルクで、米Eiger Bio Pharmaceuticals Inc.(以下、アイガー)がメルクから全世界での独占的権利を取得し、2022年5月に同社がアイガーと国内における独占販売権契約を締結した。HGPSやPLは遺伝子の突然変異により発症し、平均14.5歳までに心臓病(動脈硬化症)で死亡するのが一般的とされる。病気の症状としては深刻な成長障害、強皮症に似た皮膚、全身性脂肪性筋萎縮症、脱毛症、骨格形成不全、心血管系の衰えを伴う全身性動脈硬化の促進、衰弱性の脳卒中がある。世界の患者数は600人程度で、日本でも難病指定されており、数名程度の患者が確認されている。
3. 業績動向
2023年12月期第3四半期累計の事業収益は102百万円(前年同期比57百万円増)、営業損失は9,207百万円(同3,248百万円減)となった。事業収益は、検査事業や「コラテジェン(R)」の増加に加えて、EmendoのOMNIプラットフォーム技術に関する売上13百万円を計上した。費用面では、円安によるのれん償却額の増加があったものの、国内の新型コロナウイルス予防ワクチン(以下、コロナワクチン)の開発中止で研究開発費が同3,688百万円減少し、営業損失の縮小要因となった。2023年12月期の業績は事業収益で190百万円(前期比123百万円増)、営業損失で13,500百万円(同2,816百万円減)を見込む。事業収益についてはやや未達となる可能性があるが、営業損失はおおむね計画どおりとなる見通しだ。2023年9月末の現金及び預金は5,958百万円となっているが、2023年7月に発行した第三者割当新株予約権(行使価額修正条項付き)※の行使を進めることで、今後の事業活動資金を調達する方針である。
※新株予約権数446,393個(潜在株式数44,639千株、下限行使価額74円)を発行し、2023年11月末時点で103,964個が行使された(行使率23.3%)。
■Key Points
・HGF遺伝子治療用製品は2024年前半に国内で本承認取得、米国で後期第2相臨床試験の結果が判明する見通し
・NF-κBデコイオリゴDNAは慢性椎間板性腰痛症を対象とした第2相臨床試験を開始、2026年頃に結果が判明する見通し
・ゲノム編集技術を用いた治療法が海外で初承認、Emendoのゲノム編集技術も注目度が高まる可能性
・研究開発費の減少により、2023年12月期第3四半期累計の経常損失は大幅縮小
・治療法がない疾病分野や希少遺伝性疾患などを対象に開発を進め、遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指す
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《SI》
提供:フィスコ