【和島英樹のマーケット・フォーキャスト】─バリュー株優位の展開に、TOPIXと日経平均で異なる景色
●日米SQが転換点になる可能性も
9月の東京株式市場で、日経平均株価は基本的にはもみ合い相場が想定される。米国での長期金利の高止まりや中国経済の先行き不透明感などが上値を抑える一方で、9月末は3月期本決算企業の中間決算期にあたり、下値では配当取りの動きが見込まれる。日経平均株価の予想レンジは3万1500円~3万3500円。日米の先物・オプションのSQ(特別清算指数)算出日前後でボラティリティ(変動率)が高まる可能性がある。
東証プライム全銘柄の値動きを示す TOPIX(東証株価指数)が堅調な展開となっている。日経平均株価が6月の高値3万3772円(ザラバベース)から7月、8月と上値を切り下げているのに対し、TOPIXは8月1日に90年7月以来33年ぶりの高値となる2337ポイントを付けている。日経平均への寄与度の高い値がさハイテク株が調整し弱含む一方、メガバンクや鉄鋼、海運、造船、自動車など時価総額が大きく流動性の高いバリュー株が相対的に買われていることが要因だ。
8月31日現在、TOPIXは2336ポイントと8月1日の高値に肉薄している。TOPIX Small、TOPIX Mid400は既に高値を更新と指数間で景色は違っており、日経平均株価ばかりに気を取られると、相場の本質を見失うことになりかねない。
引き続き、グロース株よりもバリュー株優位の展開を想定する。
注目スケジュールは、8日に先物・オプションの特別清算指数算出日(メジャーSQ)、13日に米消費者物価指数、14日にECB理事会、米小売売上高、米卸売物価指数、15日に米国メジャーSQ、20日にFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果発表、22日に日銀金融政策決定会合の結果発表などが予定されている。
特に20日のFOMCでは追加の利上げに進むか否か、また、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の会見にも関心が高い。ソフトランディングシナリオが描ける内容であるかがポイントだ。日銀会合も金融政策の先行きを巡って注目度が増している。このほか、中国では15日に鉱工業生産指数、都市部固定資産投資などの指標が発表される予定となっている。
また、日米のSQが相場の転換点になる可能性もありそうだ。
需給面では、外国人投資家が8月第3週(14~18日)に8週ぶりに売り越しに転じ、第4週(21~25日)も連続で売り越している。日本株をけん引した海外勢の勢いが鈍化しており、日経平均株価の上値の重さが意識される。
●ロケット関連に妙味、インバウンドの中長期での基調は変わらず
物色動向では、9月という季節性を考慮すれば、中間期末配当の権利取りの動きが想定される。高配当利回りの主力株は下値が堅くなることが想定される。三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]、三井住友フィナンシャルグループ <8316> [東証P]、みずほフィナンシャルグループ <8411> [東証P]のメガバンクを軸に、MS&ADインシュアランスグループホールディングス <8725> [東証P]、東京海上ホールディングス <8766> [東証P]などの保険、日本製鉄 <5401> [東証P]、JFEホールディングス <5411> [東証P]の鉄鋼、商船三井 <9104> [東証P]、川崎汽船 <9107> [東証P]といった海運などの一角には高利回り銘柄が少なくない。このほか、ENEOSホールディングス <5020> [東証P]やオリックス <8591> [東証P]、三菱ケミカルグループ <4188> [東証P]などの押し目にも注目したい。
福島県沖の原発処理水の放出を巡り中国側が反発していることで、インバウンド関連株は下落基調にある。ただ、中長期的に見れば基調に変化はないとみられる。直近の業績が好調だったドラッグストアのマツキヨココカラ&カンパニー <3088> [東証P]、中古ブランド品流通大手のコメ兵ホールディングス <2780> [東証S]、地域限定ブランド菓子を手掛ける寿スピリッツ <2222> [東証P]は買い安心感がある。
百貨店の高島屋 <8233> [東証P]や三越伊勢丹ホールディングス <3099> [東証P]のほか、ホテルや宴会場を展開する藤田観光 <9722> [東証P]、外食・ホテル運営のロイヤルホールディングス <8179> [東証P]、鉄道、ホテルを主軸に遊園地等も手掛ける西武ホールディングス <9024> [東証P]などもチェックしておきたい。
また、生成AI(人工知能)関連の代表格である画像半導体ファブレス企業の米エヌビディア<NVDA>は、好決算にもかかわらず株価は材料出尽くしとなり、関連銘柄の株価も一服となっている。ただ、同社の今後の業績見通しも想定以上であり、中長期的な先高観は衰えてはいない。関連銘柄では、エヌビディアの取引先で検査装置世界大手のアドバンテスト <6857> [東証P]、ICパッケージのイビデン <4062> [東証P]が軸となる。このほか生成AIが業績に寄与してくることが見込まれるディスコ <6146> [東証P]、東京エレクトロン <8035> [東証P]、ヘッドウォータース <4011> [東証G]なども有望だ。
個別には「H2A」ロケット関連に妙味があると思う。47号機は打ち上げが2度延期されたものの、予備期間は9月15日まで設定されている。月探査機「SLIM(スリム)」を搭載し、世界で5カ国目の月面着陸を目指す。SLIMは精密な着陸技術を実証する見込みで、成功すれば日本の技術力が見直されそうだ。探査機の推進系はIHI <7013> [東証P]系のIHIエアロスペース(東京都江東区)、メーンエンジンは三菱重工業 <7011> [東証P]、京セラ <6971> [東証P]、統合化制御系は三菱電機 <6503> [東証P]、電源系は古河電池 <6937> [東証P]など、太陽電池はシャープ <6753> [東証P]が担当している。このほか、来年に月を目指す宇宙ベンチャーのispace <9348> [東証G]、H2Aロケット向け固体ブースターの主原料を手掛けるカーリットホールディングス <4275> [東証P]も妙味がある。
(8月31日 記/次回は10月1日配信予定)
■和島英樹(Hideki Wajima)
株式ジャーナリスト
日本勧業角丸証券(現みずほ証券)入社。株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年にラジオNIKKEIに入社。東証・記者クラブキャップ、解説委員などを歴任。現在、レギュラー出演している番組に、ラジオNIKKEI「マーケットプレス」、日経CNBC「デイリーフォーカス」毎週水曜日がある。日本テクニカルアナリスト協会評議委員。国際認定テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。
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