日本電技 Research Memo(3):空調計装はグループで6~7割程度のシェア、産業システムは未開拓
■事業内容
1. 計装の市場
ビル空調は、個別空調とセントラル空調に分けられる。個別空調は、例えば雑居ビルのように1室ずつエアコンを置いて管理する手法で、比較的小さなビルやホテルなどの小部屋を得意とし、ダイキン工業<6367>や日立製作所<6501>といった巨大メーカーが中心プレイヤーである。セントラル空調は、ビル全体の空調を建物の特定箇所で一元管理(中央監視)する方法で、中型~大型のビルやロビーなど様々な大空間を対象とするため、空調機器メーカーとサブコン※、日本電技<1723>のような空調をコントロールする空調計装企業の3者が一体となってバリューチェーンを形成している。空調計装の市場規模は1,600億円以上(同社調べ)と言われ、その6~7割程度をアズビルと同社を含むアズビル特約店が占めている。このため空調計装は、事実上、アズビル製の機器が業界スタンダードとなっている。また、唯一のエンジニアリング部門を有する専業企業というポジションにある同社は、アズビル特約店のなかで自他ともに認める高い技術力を誇っている。
※大型ビルの建設工事の全体をプロデュースするゼネコンから空調や電気、衛生関連設備といった工事を特化して請負う設備業者。
空調計装の市場は、ビルや工場などの建設に伴う新設工事と、その後のメンテナンスやリニューアル工事などの既設工事の2つに大別できる。近年の傾向として、建物個別の仕様・用途に合わせた空調設備の導入が求められるようになってきており、案件それぞれにカスタマイズできる技術力が必要とされる。例えば、病院の空調計装は精度に厳しく、温度管理はもちろん空気清浄と院内感染防止の観点から適切な湿度管理が要求される。特に、手術室には厳しい空調の基準が設けられており、換気差圧を利用して空気の清浄性を高める空調制御などが必要とされる。このほか、研究施設やクリーンルーム、美術館など、空調制御の技術が利用されている施設は世の中に数多くある。ちなみに、収益性は新設工事に比べると既設工事の方が高く、元請となった場合さらに条件が良くなると言われている。
一方、同社の産業システムは「計装エンジニアリング」の進化形といえ、製造工程などの人的作業について制御技術を活かし工場全体や生産ラインの自動化・省人化を支援している。現在、スマート化など工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)によって効率化やコスト削減を進めているメーカーが多いが、なかでも食品・薬品・化学品は他の産業と比較して人手に依存する現場が多いことから、今後の人手不足を考えると自動化・スマート化の余地は大きいと見られている。特に食品メーカーでは、製造業全体のなかで最も従事者数が多いため、メーカーも自動化やスマート化への関心が高い。しかし、自らスマート化するノウハウがないうえ、同社のようなスマート化を推進できる企業もほとんどないため、市場はまったくの未開拓状態といえる。同社はこうした市場を本格的に取り込むため、2022年4月に産業ソリューション事業部を新設、産業システム関連事業を完全に独り立ちさせた。
主力の空調計装、事業部としてスタートしたばかりの産業システム
2. 事業内容
同社の事業は主力の空調計装関連事業、及び産業システム関連事業に大別され、2023年3月期の売上高構成比はそれぞれ86.8%、13.2%となっている。
(1) 空調計装関連事業
空調計装関連事業では、熱源制御、空調制御、動力制御、中央監視装置などによって、非居住用建築物の空調自動制御システムをトータルでプロデュースしている。最適な自動制御システムにより快適な空間を実現し、設備・機器の更新提案や建物のエネルギー管理のサポート、省エネ化提案などを行うことで、顧客の建物資産の保全やライフサイクルコストの低減を支援している。空調計装関連事業は、ビルシステム事業とソリューション事業に分けられる。ビルシステム事業は同社の主軸であり、建物の建築時に導入される空調設備のシステム設計から施工、引き渡し前の試運転・調整、引き渡し時の取扱説明までをワンストップで行っている。また、熱供給設備(地域冷暖房プラント)では、エネルギーを供給するための各設備機器の自動制御に関するシステム構築も行っている。ソリューション事業では、建物の完成後、空調設備の保守・保全や設備更新に携わる一方、エネルギー効率や設備の運用状況の改善によって省エネ化・省コスト化をサポートしている。
(2) 産業システム関連事業
産業システム関連事業は工場全体の自動化・省人化が事業領域で、「計装エンジニアリング」技術を背景に、小規模工場から大規模工場までの生産プロセス(生産工程)や搬送ラインにおいて、計測機器やロボットなどをセットアップし、自動制御するシステムを構築するサービスを提供している。具体的には、電気計装工事のほか特殊仕様のユーティリティ設備(冷温水、蒸気、圧縮空気など)における自動化・省人化、工場などで排出される廃温水や廃熱などの有効活用による環境負荷の低減及び省エネ化や運用コストの削減、安全性の確保や仕分け作業の精度・効率向上などのサポート、箱詰め・検査・荷捌といった人手のかかる工程におけるロボット導入などによる生産性の向上、人が介在しないことによる安心・安全(フードディフェンス)の確保など、人手を多く使う食品や医薬品などの製造現場がそれぞれに抱える様々な課題に応えることで、顧客のバリューチェーンの最適化を支援している。まさに工場のスマートファクトリー化をサポートする事業と言え、市場は大きく広がりはじめたところである。とはいえ事業部としてもスタートしたばかりであるため、サービスサイトの開設や展示会への出展によって知名度向上を、プラントメーカーとの連携などによって客層拡大を、AIやIoT、クラウドといった最新技術を積極的に取り込むことで付加価値の高いサービス提供を、今まさに進めているところである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《SI》
提供:フィスコ