新晃工業 Research Memo(9):需要堅調、価格改定、上海ロックダウンの反動などで増収増益へ
■業績動向
2. 2024年3月期の業績見通し
新晃工業<6458>は2024年3月期の業績を、売上高46,500百万円(前期比3.8%増)、営業利益6,300百万円(同5.0%増)、経常利益6,700百万円(同2.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益4,600百万円(同1.9%増)と見込んでいる。世界的な金融引締めなどを背景に海外景気の下振れが国内経済に影響を及ぼすリスクがあり、原材料やエネルギーの価格高騰、サプライチェーンへの影響に注意が必要な状況が続くと見られる一方、工場や研究施設などの産業空調及び都市部の再開発案件は引き続き需要が堅調に推移すると予測されている。同社は中期経営計画「move.2025」に基づき、SIMAプロジェクトにより業務のデジタル化を進めることで労働集約型事業からの脱却を目指す考えである。業績は、需要堅調と2023年4月の価格改定効果、アジアは上海ロックダウンの反動増により、日本・アジアともに売上回復が予想されている。営業利益は価格改定や業務の効率化、生産性の向上による売上総利益率の改善を計画し、2023年3月期以上に増加する見込みの販管費をカバーして、売上高を上回る成長を計画している。
2024年3月期のセグメント別の取り組み方針は、日本は基盤事業であるAHU分野の競争力の維持・向上に加え、ヒートポンプAHU分野においても市場シェアの拡大を目指すほか、工事分野の収益性向上と業容拡大を図る。サブコンなどの受注状況を見ると、2~3年前から続いている空調機市場の伸びは今後も1~2年続くことが予測される。足元の案件は多いものの競争が激化して利益率が取りづらくなっている都心のオフィスビル以上に、依然好調が続いている工場やデータセンター、病院などに注力する方針である。
SIMAプロジェクトと5つの重点取組項目は引き続き推進する計画である。SIMAプロジェクトでは、労働集約型事業からの脱却を実現へ近づける計画である。5つの重点取組項目においては、主力の水AHUで業界の活発な需要を取り込み、ヒートポンプAHUでは地方の設計事務所にも重点を置いた営業を継続し、工事・サービスではヒートポンプAHU周辺技術の強化を続ける予定である。また、アジアでは主に中国で採算を重視した販売戦略と原価の低減を徹底する方針で、継続的に利益を確保できる体制構築を進める考えである。技術深耕・品質向上ではデジタル解析技術の拡充やSIMAプロジェクト周辺技術の開発を継続するとともに、高効率部品が適用できる製品の開発・拡充に注力する方針である。研究開発・品質管理の高度化・効率化を目的に神奈川工場に空調機総合実験棟を23年6月に着工する予定(24年9月竣工予定)にもなっている。
中期的に好環境、長期的にも成長継続の可能性
3. 中長期成長イメージ
原材料価格の高騰や納期遅延など短期リスクを乗り越えたあと、中期成長にとって重要なポイントとなるのが、SIMAプロジェクトの完成と5つの重要取組項目の進捗である。SIMAプロジェクトは2024年3月期中に一定の完成を見ることになっている。重要取組項目においても、国内の空調機が工場やデータセンター向けに好調で、加えて東京都心再開発や大阪万博関連、商業施設なども視野に入り、まだ1~2年は好調な事業環境が続く見込みである。さらに、その頃から徐々にバブル期納入後20年~30年が経過した水AHUの更新需要が増えてくると予想される。ウクライナ情勢などに起因する原材料高など様々なリスクは最悪期を抜け出しつつあり、この先さらに悪化することは考えにくい。したがって最終年度の2025年3月期に向けて業況は勢いを増し、中期経営計画目標の売上高520億円、営業利益75億円を達成する公算が高まっていると言える。
長期的には、新規のオフィスビル向け需要の鈍化や労働力不足といった新たなリスクが予測されている。しかし、データセンターや工場など産業向けの需要は、デジタル化や生産の国内回帰などを背景に息が長いという見方がされている。加えて、更新需要の本格寄与が加わってくることが期待される。また、同社の水AHUは温室効果の大きい代替フロンを使用せず地球温暖化防止に貢献するという特徴があるため、気候変動への対応の点からも、同社空調機へのニーズは長く強いと予想される。労働力不足については、SIMAプロジェクトによる生産性向上などを背景に解決に向かうだろう。これにより同社の長期的な事業環境も良好と考えられる。ただ、大型案件が様々増えてくると新技術の開発や、諸々のリスクを考慮した在庫の確保も必要となり、工場や倉庫への投資が今後不可欠になると思われる。また、業容拡大の点から、同社はM&Aなどにより空調工事分野へと領域を拡大する意向も示している。この辺りの投資と成果が、同社の長期的な成長を支えることになると思われる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《AS》
提供:フィスコ