新晃工業 Research Memo(7):SIMAプロジェクトを前提にAHUの市場戦略を展開
■新晃工業<6458>の中期経営計画
2. 成長戦略と進捗
中期経営計画「move.2025」の前提になっているのがSIMAプロジェクトで、デジタル化・自動化を推進することで、新たなデジタル工場(生産プロセス)の構築と新たな営業スタイルの確立を目指す。同時に、水AHUの競争優位の維持・向上、ヒートポンプAHUの市場シェア拡大、工事・サービス事業の強化、中国事業の強化、技術深耕・品質向上という5つの重点項目に取り組んでいる。そのなかで水AHUとヒートポンプAHUの市場戦略が成長のカギを握る。また、こうした戦略と並行して、製品を通じた環境負荷低減や人材育成・働き方改革、ガバナンス強化といったESG経営も推進する考えである。
(1) SIMAプロジェクトと進捗
SIMAプロジェクトは、個別受注生産方式をより高度なレベルでデジタル化して原価低減につなげるというプロジェクトである。2019年にスタートし、2023年には増益貢献など一定以上の成果が期待されている。同社の製品は、個別設計で労働集約的なセル生産方式であるため、営業も個別対応となり、生産性を引き上げづらいビジネスとなっていた。そのため、現状のままではベテランの退職や作業員不足などの課題を解消することができなくなる恐れがあった。そこで、SIMAプロジェクトによって営業・設計・積算・製造を一から再定義するとともに、デジタル化・自動化を進めて事業基盤を強化し、個別設計でありながら高い生産性のビジネスを目指す。その点でSIMAプロジェクトは同社が社運を賭けたプロジェクトと言える。
SIMAプロジェクトは、製造面において、BOM(Bill of Materials:部品表や部品構成表のこと)を中心に3DCAD、AIによる工数予測などを導入して、AHUの設計から積算、製造までの作業・工程をデジタル化・自動化し、全作業・全工程をライン生産方式で一気通貫して製造するシステム基盤を持つ新たな工場(生産プロセス)の実現を目指すものである。営業面では、高精度の需要予測やBOMを活用することで、図面・見積・納期に関する顧客の疑問に営業現場でリアルタイムに応えることができる、システマチックな営業スタイルを確立していく。SIMAプロジェクトの進捗は、2023年10月の本格稼働に向け、BOM中心のデジタル設計・生産体制の構築が進んでいるようだ。このため生産を計画する際、AIを活用した一品一様の図面によって、物量や時間など需要予測の精度向上が進み、先行きを工数ベースで把握する運用が定着した。また、3DCADやライン生産、AIによる工数予測、画像認識技術を用いた図面検索システムといった周辺技術は先行して利用が進んでいる。SIMAプロジェクトは、BOMや3DCADへの投資が一定程度進んだこともあり、設計製造や営業の効率化を進める段階となった。
(2) 5つの重点取組項目と進捗
水AHUの強化では、マーケットリーダーとして圧倒的な競争優位を維持・向上させるとともに、成長分野で引き合いの強いデータセンターを深耕しているところである。データセンターは短納期になることが多く、SIMAプロジェクトの強みを発揮しやすい市場のようだ。ヒートポンプAHUの強化では、新規参入したチャレンジャーとして知名度の浸透と、ダイキン工業と共同開発したオクージオブランドによるシェア拡大を進めている。従来の顧客に加え地方の設計事務所を中心に新規開拓を推進している。工事・サービス事業の強化については、メーカー系の強みを生かし、水AHU中心から空調工事全般へと業容を広げるとともに、ヒートポンプAHU周辺技術など領域拡張と利益率の向上を推進している。成長余地の大きい中国事業の強化は、高機能空調機にシフトするなど採算性重視に販売戦略を転換し、徹底した原価管理など利益体質の構築を進めている。技術深耕・品質向上では、技術開発の推進と品質大綱の落とし込みを目指し、解析やAI、IoTなどデジタル技術の積極的な活用、SIMAプロジェクト周辺技術の開発に一定の手ごたえを得ることができた。加えて、エアスタ※やSINKOテクニカルセンターを活用した技術情報の発信を開始した。2024年3月期には、従来の実験設備ではカバーできない高能力の試験が可能となる実験棟を神奈川工場に建設する計画である。
※エアスタ(SINKO AIR DESIGN STUDIO):大阪府寝屋川市にある空調機のショールーム。建物全体が体験型ショールームとなっている。
(3) 水AHUとヒートポンプAHUの市場戦略
5つの重点取組項目のなかでも主力製品である水AHUと戦略商品であるヒートポンプAHUに関しては、綿密なマーケティングによって、大型ビル、産業、データセンター、更新、個別空調という5つの重点ターゲットを設定し、市場特性や技術要件に基づいた市場戦略を展開している。大型ビルは、設計に時間がかかるが生産は高効率であるとして、東京や大阪を中心とした大型再開発に関して設計事務所やゼネコン、サブコンへのアプローチを強化した。産業向けとデータセンター向けは、短工期でフレキシブルな対応という強みを生かして高まる需要を取り込み、業容を大きく拡大している。更新向けは、掘り起こしはやや計画を下回ったが、今後、納入後20~30年を経過した更新需要の発生が予測されており、おおむね順調と言える。個別空調向けは、中小ビルの簡易な空調システムや既設工場の環境改善需要、熱源追加・置換え用途といったニーズに対応した。
(4) ESG経営の推進とSDGsへの貢献
ESG経営の推進やSDGsへの貢献も同社の重要な取り組み課題であり、社会的責任を果たすサステナビリティの実現を目指している。そのため、中期経営計画のなかで「ESG経営の推進/SDGsへの貢献」を掲げ、製品を通じた環境負荷低減や空調による社会貢献、リスク管理の強化を目指している。現状、各拠点のCO2フリー電力への切り替え、労災度数率の低下、BCPの基本方針作成などの面で進捗があった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《AS》
提供:フィスコ