新晃工業 Research Memo(4):空調機の製造・販売から工事・メンテナンスまで一貫サービス
■事業概要
1. 事業内容
新晃工業<6458>の事業は、地域別(セグメント別)に日本とアジアに分けられ、2023年3月期の売上高構成比は日本が84.5%、中国13.8%となっている。製品及びサービスは、主軸の空調機器製造・販売事業(国内)、工事・サービス事業、ビル管理事業、空調機器製造・販売事業(海外)の4つで、空調機器製造・販売事業(国内)は新規と更新需要で構成される。用途はオフィス、工場、データセンター、病院、美術館ほか大空間の施設向けである。生産拠点は神奈川と岡山に2拠点(ほかにテクニカルセンター)あり、同社が空調機などの製造販売を行っている。子会社の日本ビー・エー・シー(株)が空調機関連製品などの販売、新晃アトモス(株)が設備更新工事やメンテナンス、千代田ビル管財(株)がビル管理及びメンテナンスと、その子会社が周辺事業を行っている。海外も、上海新晃空調設備股フン有限公司、SINKO Air Conditioning (H.K.) Limited、Taiwan SINKO Kogyo Co.,Ltd.、SINKO Air Conditioning (Thailand) Co.,Ltd.の4子会社が上海、香港、台湾、タイに生産・販売拠点を有している。海外で最大市場の中国を除き、台湾やASEANでは代理店を中心とした営業を展開している。
水AHUを軸に様々な製品・サービスを展開
2. 製品・サービス
同社の製品やサービスは、セントラル空調で使用されるAHUと個別空調で使用されるヒートポンプAHU、FCUなどの製品、「健康空調(R)」(以下、「健康空調」)及び更新工事やメンテナンスなどで構成されている。同社は、製品ラインナップから、施主・設計事務所の意向や施設の特性・用途、設置場所の事情などに応じ、風量や熱処理量、清浄性、静音性といった求められる仕様に合わせて、様々な製品やサービスを個別設計し、生産して提供している。さらに最先端の技術や最新のニーズを取り入れて、製品の省エネ化や省スペース化、高効率化を追求することで、個別空調など新規事業領域の開発や「健康空調」のような新たな切り口、更新・メンテナンス需要の開拓などにつなげている。
(1) 水AHU
主軸の水AHUは、室内からの還気と同時に外気を取り込み、空気中の塵埃を除去した後に熱処理を行って各室へ向けて給気する機器で、セントラル空調の二次側空調システムで使用される。一般に送風機・コイル・加湿器・エアフィルタなどをケーシングに収めたユニット構造をしており、専用の機械室などに置かれる。貸室床面積を重視するオフィスビルなどでは、高機能かつ設置面積を抑えた高度な仕様が求められることも多い。同社は、プラグファンの大幅な高効率化を実現した標準型AHU、空調性能をコンパクトなボディに集約したコンパクト型AHU、機械室を必要としないターミナル型AHUなど豊富なラインナップを用意しているほか、さらなる高機能製品の開発も続けている。
(2) ヒートポンプAHU
ヒートポンプAHUは、外気の取り入れや加湿・空気清浄などセントラル空調の空調品質と、熱源の分散という個別空調の利便性を兼ね備えた空調機である。もともと個別空調とセントラル空調のすき間を狙った商品であったが、近年になって乾燥しがちな冬季の加湿不足などへの対策としてニーズが強まってきた。このため同社は、2017年5月に競合企業で個別空調に強みを持つ空調業界トップ企業であるダイキン工業と、ヒートポンプAHUの共同開発において業務資本提携をした。同社にはヒートポンプ技術をキャッチアップしたいという意向があり、ダイキン工業には水AHUに関して同社のノウハウで補完したいという考えがあったため、Win-Winの関係性といえる。こうした提携を背景に同社は自社ブランド製品を開発、2021年にモデルチェンジした室外機一体型ヒートポンプAHU「オクージオ」を戦略製品として販売に注力している。2022年にはヒートポンプAHUの室外機をモデルチェンジ、複数の室外機が除霜運転のタイミングをコントロールして給気温度の低下を抑制する「デフロストローテーション機能」を搭載した。
(3) FCUなどそのほかの製品
そのほかの製品のなかでも、セントラル空調で水AHUとセットで使用されるFCUは主力製品である。コイルとファンモータユニット、エアフィルタで構成され、室内還気の温度調整を行う機器である。特に個別に仕切られた会議室や外気温度の影響を受けやすい窓側など、AHUだけでは難しいエリアの温度制御を行っている。FCUには2管式と4管式があり、4管式は個々の機器で自由な温度設定ができ、セントラル空調でありながら個別空調の特徴も持った製品である。このほか、品質や温度・湿度といった室内環境をエネルギー損失なしで個別コントロールするデシカント空調機・除湿機や、蒸気や温水を熱源に暖房を行うユニットヒータなどがある。2021年には、スーパーコンピューター施設やデータセンターで長年培った実績とノウハウを生かし、データセンターの様々な空調ニーズに多彩なラインアップでキメ細かく対応するサーバーエアハンシリーズを投入した。
(4) 「健康空調」
同社はコロナ禍以前から「健康空調」という考え方を提唱している。細菌やウイルスは、対策を徹底していても施設内に持ち込まれてしまうものである。このため同社は、空調機にUVC(紫外線C波)ランプを搭載し、空気中に潜む細菌やウイルスを強力な紫外線照射で分解・除去する、空気除菌システム「健康空調」シリーズを開発した。オフィスや工場のほか、医療福祉施設や公共施設、文教施設など外部から大勢の人が集まる場所に最適な製品で、コロナ禍において注目度がさらに増した。また、UVCランプ搭載AHUに加え、UVCランプ搭載のFCUカセット形も投入した。簡単なリプレイス工事で設置可能、人体に悪影響のあるオゾンなど2次汚染物質の発生がほとんどないこと、紫外線漏洩対策として安全装置付きといった特長がある。
(5) 工事・サービス事業
新晃アトモスは工事やメンテナンス・設備更新といった事業を展開する、同社の戦略子会社である。業界トップメーカーという同社の信頼感や設備劣化診断など豊富なサービスメニューを生かすため、現在、新晃アトモスの機能を強化しているところである。これにより、中長期的に予測されている新設需要の減少と既存需要の増加に対応する方針である。また、現場ごとの個別設計に対応できず退出した他社メーカー製空調機の設備更新工事の獲得も見込んでいる。特に長期的にこうした更新需要が拡大する可能性を考えると、同社が工事・サービス事業を強化することは適格な施策であり、同社も将来的に水AHUの製造に次ぐ柱に育てる方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《AS》
提供:フィスコ