Pウォーター Research Memo(3):周辺を含め潜在市場は5兆円規模。成長する浄水型サーバー市場
■プレミアムウォーターホールディングス<2588>の会社概要
3. 宅配水市場の周辺市場と浄水型サーバー市場
宅配水市場(2,115億円)の周辺には、様々な市場があり、一部で競合しあっている。主に小売店経由で流通するミネラルウォーター市場(3,809億円)、炭酸飲料(5,672億円)、無糖茶飲料(日本茶・麦茶等)(9,087億円)、コーヒー飲料(7,860億円)などの清涼飲料水市場は合計で5兆円を超える巨大な市場である。また、天然水を宅配する事業モデルではないものの、浄水型のウォーターサーバーを自宅に設置する市場・事業モデルも存在し、市場規模で431億円と推計されている。水道水を高性能フィルターでろ過する浄水型ウォーターサーバーは月額2~3千円台で利用でき、天然水宅配とは異なる低価格帯の市場として拡大しており、過去2年で約6.5倍出荷台数が伸び47万5千台に達した模様である。(いずれも同社決算説明会資料より)同社も昨年から浄水型サーバー事業に参入しており、今後も相対的に市場規模は小さいものの拡大が予想されている。(浄水型サーバー新商品に関しては成長戦略・トピックに詳述)
顧客獲得力により154万件の安定成長する顧客基盤を形成
4. 強み
同社の強みの根源は「高い顧客獲得力による顧客純増」であり、それによって積み上げられた154万件(2023年3月末)の顧客基盤である。これにより水源分散化や物流効率化、無駄のない工場設備投資などが可能となり、好循環を生み出している。
(1) 高い顧客獲得力
同社は宅配水市場でのシェアを近年大きく伸ばしている。高い顧客獲得能力を培ってきた元をたどると、エフエルシーがデモンストレーション販売では国内トップクラスであったことに遡る。顧客獲得方法は様々であるが、主に大型商業施設や大手量販店、ホームセンターなどで同社専用のブースを期間限定で出展し、デモンストレーション販売で5割強の顧客を獲得している。また、培った営業ノウハウや従業員への教育のほか、従業員の育成とモチベーションを考慮して作り込まれた従業員評価制度があり、能力を引き出す仕組みが充実している。5割弱の新規顧客を獲得する手法がテレマーケティング及びWeb販売である。特にコロナ禍により在宅時間が増えた消費者に対して、これらの手法の有効性が増している。環境の変化に柔軟に対応し、多様な販売チャネルから顧客を獲得できるのが同社の強みと言えるだろう。
従来は自社の営業による販売(直販)が主体であったが、近年は代理店による販売(代販・取次)が増えており、その割合は50%程度で推移している。同社の認知が高まったことにより、取次店販売の依頼が増えた。取次店としては、家具、各種通販、家電量販店、不動産、鉄道、電力など多様な事業会社との取引を拡大中である。また宅配水事業を行う他社への製品提供(OEM)も増えている。
(2) 水源の分散化(全国8水源体制へ)
同社は水の安定供給及び地産地消を狙いとして水源を分散する方針を採っている。現在では、富士吉田(山梨県)、南阿蘇(熊本県)、金城(島根県)、朝来(兵庫県)、北アルプス(長野県)、富士(静岡県)、吉野(奈良県)、そして2022年2月に稼働した北方(岐阜県)の全国8ヶ所、最大で月に250万件の生産が可能な体制が整う。8つもの水源を持つことは業界では特異であるようだ。水源を増やす難しさは、一定以上の顧客が確保できなければ工場の稼働率は上がらず製造コストが高くなってしまう点にある。その点で同社は保有顧客を増加させることができているため、工場稼働率を落とすことなく水源の開拓が可能である。また、水源の分散は、災害時などの事業継続対策にもつながる。2016年の熊本地震の際に南阿蘇の供給がストップする事態があったが、九州地方に配送する宅配水をほかの水源から供給することができたことからも、分散化が災害時にも強いことを証明した。(北方工場への先行投資に関しては「成長戦略・トピック」にて詳述)
(3) 地産地消による物流の効率化
宅配水業界にとって、近年の物流費の上昇は大きな経営課題である。同社は1WAY方式の配送を行うため、大手の配送業者に配送を委託しており、売上収益に占める配送費の比率20%を超える。配送業界からは絶えず値上げのプレッシャーがあるため、物流費をコントロールすることの重要性は高い。同社が打ち出す大きな方向性が「水源の分散化による配送距離の短縮化」、いわゆる「地産地消」である。製造地と消費地が近ければ配送費も抑制できる。8工場が担当するエリアは決まっている。例えば南阿蘇工場から九州地方、金城工場から中国・四国地方などである。エリア内で、定期的にまとまった物量が確保できるため、トラックの積載効率も高くなり、物流費高騰を回避できる要因となっている。(自社物流の拡大に関しては「成長戦略・トピック」にて詳述)
(4) 無駄のない工場設備投資による原価低減
同社は、製造原価の低減にも取り組んできた。2016年からプリフォーム射出成形機を導入し、容器の内製化を行い、原価低減に成功した。この設備投資は約4億円の投資であった。容器1本当たり20円削減を想定した投資だったが、大きな設備投資も商品の本数が少なければ、無駄な投資となってしまう。同社では初年度に1,000万本出荷し、約1.6億円の利益向上を達成した。投資から3年目には投資回収し、利益を生み出し続けている。このように、顧客純増による出荷規模の拡大は様々な面で好循環を生み出している。
新規顧客獲得力に加え解約率の抑制に成功し、顧客純増を継続できる業界でも数少ないプレーヤー
5. 保有顧客件数の推移
同社はKPI(重要業績評価指標)として保有顧客件数を設定し進捗を管理している。2016年7月の経営統合前に23万件であった保有顧客件数は統合直後に39万件となり、その後も安定して右肩上がりに伸び、2023年3月末には154万件に達した。新規契約ペースが解約ペースを絶えず上回るため、安定して純増することができる。純増を継続できるプレーヤーは宅配水業界でも数少ない。解約率を抑制するためには、優良な顧客を獲得すること、顧客満足度を向上させることなどがカギとなる。同社ではクレジットカード決済比率を高める取り組みなどを通じて優良顧客の獲得に努めてきた。また、接客サービスの品質向上やプレミアムモール(会員になると食品などが手頃な価格で購入できる)などを通じて顧客満足向上に取り組んでいる。結果として2018年に2%前後だった解約率が2020年には1.5%前後に低下した。同社によるとその後も順調にコントロールできていると言う。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
《SI》
提供:フィスコ