Jストリーム Research Memo(7):アフターコロナの顧客ニーズに対応する
■事業戦略
4. 市場戦略の基本方針
Jストリーム<4308>は市場戦略の基本方針も掲げている。大きな方向性は従来と変わらないが、アフターコロナという新たな時代の顧客ニーズや中期経営の方向性を取り込んだものへとバージョンアップした。
(1) 医薬領域の市場戦略
医薬業界における中長期的課題は、国の医療費削減策への対応、高コストのMR※からのプロモーションチャネルのシフト、マーケティングのデジタル化などがある。こうした課題に対して同社は、既存の大手顧客から国内中堅企業や新たな大手顧客などへと対象顧客を拡大し、得意とする本社開催の大規模Web講演会だけでなく、支社(エリア)開催の中規模講演会やホテルなどで開催される全国規模の講演会などリアルイベントにネット配信を併用したハイブリッド化を推進する。また、次世代のMedical DXパートナーとして、リアルとデジタルで差のない顧客体験(CX)を提供する方針で、講演会のオプションメニューや追加サービスの開発、ハイブリッド化への対応を強化し、新規顧客の開拓にもつなげる考えである。また、デジタルだからこそできる新しいCXの向上施策として、メタバース空間での講演会や双方向コミュニケーションのためのオプション機能を充実させた。さらに、「WebinarAnalytics」によるWeb講演会視聴履歴のデータ分析やデータ連携の支援、製薬業界特化型クラウドCRM「Veeva」と連携したオリジナルソリューションの開発、新たなチャネルとしてオウンドメディアのノウハウ蓄積など、製薬企業のマーケティングにまで踏み込んだデジタル化を推進し、効率的かつ生産性の高いマーケティングをサポートする方針である。
※MR(Medical Representatives):医薬情報担当者(医師などに向けた製薬企業の営業担当者)。
(2) EVC領域(医薬以外)の市場戦略
EVC領域では、「J-Stream Equipmedia」のさらなる機能向上を通じて、動画を活用する企業に対しベストソリューションを提供する考えである。具体的には、「J-Stream Equipmedia」ポータルや動画eラーニングシステム「J-Streamミテシル」を教育・トレーニングや社内外情報共有などの用途向けに拡販するほか、バーチャル株主総会や学会、展示会など大規模イベントへのプラットフォームの提供などを推進する。また、引き続き業種を超えてニーズが強いセミナー/イベント、社内情報共有、教育/トレーニングの3分野に絞った用途別カスタマイズを進める。大企業向けはライブ配信や制作などの社内人的リソースを活用し、大企業以外の成長領域にはセルフ型ソリューションで対応する。急拡大しているウェビナーに関しては、「J-Stream Equipmedia」と連携したシステム「WEBINAR STREAM」を様々な形態で提供する。「J-Stream Equipmedia」には各種ビジネスプラットフォームとの連携に加え、Zoom等を使用したインタラクティブ要素の強いセミナー映像も一元管理することで、顧客企業の販促活動の効率と生産性の更なる向上をサポートする方針である。また、付帯する映像制作では、内製化ニーズを支援するための多彩なメニューを提供することで新たな案件創出もねらう。
(3) OTT領域の市場戦略
OTT領域の動向としては、コロナ禍によってインターネットによる動画視聴者の数が飛躍的に増加したことに加え、急拡大する放送同時配信、エンタメ業界でのデジタルライブなど新たな配信ビジネスの台頭、先端的な海外OTT業者のプレゼンス拡大、動画配信技術のコモディティ化(による大手顧客の内製化と取り残される中小顧客)、通信環境の5G化、マルチアングルによる新たな表現、双方向通信によるコミュニケーションの変化など様々なものが挙げられる。一方で、固有のビジネスや技術、運用課題に絞った市場特化型の商品・サービスの提供、動画配信機能を核に動画周辺機能も網羅したトータルソリューション、新技術へのスピーディな対応など多様なニーズも強まっている。これに対して、OTT領域における動画ビジネスのトータルテックパートナーを目指す同社は、主要放送局には配信機能からCDNやSIとその運用までを統合的に提供するとともに、マルチCDNやクラウドベースの動画編集サービス「Grabyo」なども展開する方針である。地方局に対しては「J-Stream Equipmedia」のブロードキャスティングプラン、エンタメ業界には既存サービスに付加したエンタメ特化型ソリューション、CS/BS局には配信マスターシステムとリモートプロダクションを提供するなどDXの支援をしていく。
(4) M&Aと人材投資
市場拡大を予見し、2017年以降で子会社化3件(ほかにアズーリ(株)をビッグエムズワイが吸収合併)、事業譲受1件、出資2件といったM&A投資を先行してきたことが、同社の成長要因である。2023年5月には、動画マニュアルを容易に作成できるSaaS「VideoStep」を開発・販売する(株)LAMILAを子会社化することを発表した。実施予定は7月、取得額は5億円としており、2024年3月期の業績への影響は軽微としている。
こうしたことを考えると、中長期成長へ向けた事業戦略上の課題は、人材やノウハウの獲得にあると言えるだろう。同社は、今後も人材確保やシナジーを創出できる新規事業の獲得などに向けて、M&Aを推進する意向である。ただ、M&Aは相手先があるためコンスタントにできるわけではない。一方で、先端技術の導入などによる新商品・新サービスの開発は日進月歩で進めなければならず、引き続き人材の不足感は強まりそうだ。そのため人材に関しては、増員の遅れが戦略遂行のボトルネックにならないよう、サービス開発系を中心に足元でも先行した採用を続けている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《AS》
提供:フィスコ