Jストリーム Research Memo(6):動画配信にトータルで対応できる専業企業はほとんどない
■事業戦略
1. 市場環境
動画配信市場といっても、Jストリーム<4308>同様、動画配信にトータルで対応できる専業企業はほとんどないが、部分的に類似する企業は少なくない。動画配信プラットフォームでは米Brightcove<BCOV>や米Vimeo<VEMO>、CDN事業者では米Akamai Technologies<AKAM>やAmazon Cloud Frontを提供するAmazon.com<AMZN>が主に挙げられる。いずれもグローバルな巨大企業である。そのほか、自社会員へのサービスとして配信を行っている大手ISP事業者や、大手コンテンツホルダーと提携して副次的に配信サービスを提供するポータルサイト事業者なども、一部同社と類似した事業を行っている。同社の売上高で大きな割合を占める医薬系のWeb講演会に限ると、木村情報技術(株)やエムスリーデジタルコミュニケーションズ(株)といった企業も事業が重なっている。
一方、スマートフォンなど動画視聴可能なデバイスを個人が常時携帯するようになったことに加え、Wi-Fi環境の充実や5Gの普及などもあって、インターネット動画の視聴環境は屋内外で整備が進んだと言える。また、SNSや社内ポータルなどでの動画利用の増加、動画を利用することによるコストダウンや販促効果の顕在化などが、動画配信の環境を一層充実させている。このため、デジタル化とともに育ったZ世代のみならず、全世代がインターネットで動画を視聴する時代となり、さらにコロナ禍によるオンライン化ニーズが重なったことで、アフターコロナに向けても動画配信に対するニーズは引き続き強い状態が続いている。こうした環境のなかで、パイオニアかつ専業として長年蓄積してきたノウハウを持ち、常に先端技術を取り込んでいる同社への、製薬企業やコンテンツプロバイダ、一般企業など顧客からの期待は大きい。
自社システムなど動画配信に必要なすべてをワンストップで提供
2. 同社の強み
動画配信市場における同社の強みは、自社開発の動画配信プラットフォーム「J-Stream Equipmedia」、自社構築のCDNサービス「J-Stream CDNext」、ライブ配信・オンデマンド配信、動画の企画・制作、動画広告、Webサイト制作・システム開発、Webサイト運用といった、動画活用に必要なすべての機能をワンストップで提供できる体制にある。また多種多用な業界・業種のニーズに応じて、部分的な利用からフルパッケージでの提供まで、幅広いサービスで対応することができる。加えて、パイオニアとしての豊富な実績とノウハウ、専任スタッフと営業による柔軟で安心できる対応や、新たな技術や顧客のニーズ・ウオンツを素早く取り込む開発力に裏打ちされたサービス品質も強みである。この結果、年間取引企業は1,200社以上、利益成長を見るための基礎数値である主力商品「J-Stream Equipmedia」の累計導入アカウント数は、3,500件を突破した。そのほかの主力商品・サービスの導入実績・開催実績としては、「J-Stream CDNext」が1,300アカウント以上、ライブ配信が年間2,600件以上となった。
ビジネスと働き方を「進化」させ、新しいグループへと「変革」する
3. 中期経営の方向性
動画配信市場が長期成長期に入り、動画の活用が当たり前になった現代においては、顧客の期待を超えるサービスを提供していく必要がある。このため同社は、「最先端の動画ソリューションを提供し、企業活動の支援を通じて社会の発展に貢献する」という経営方針を基軸に、ビジネスと働き方を「進化」させ、新しい時代にふさわしい、新しいグループへと自らを「変革」していくことを考えている。このため、ビジネスの進化、働き方の進化、グループの変革という進化へ向けた3つの事業戦略を策定した。
ビジネスの進化では、営業戦略、ソリューション戦略、プロダクト戦略、投資・財務戦略、組織・人材戦略を通じて、従来の事業戦略をより一層強力に推進する一方、蓄積してきたスキルとノウハウによって、顧客の期待を超える、従来の事業戦略の「その先」にあるサービスも提供する方針である。働き方の進化では、フレックスやリモートワーク制度を取り入れた「就業規則の改定」、会社業績と個人業績を適切に評価しフィードバックする「人事制度の改定」、社内プロセスのデジタル化「社内DXの促進」といった働き方の進化を定着させることで環境変化に対応できる経営基盤を構築するとともに、働き方の進化を通じて多様性に富んだ厚みのある人材の育成に注力する考えである。グループの変革では、これまでグループ各社の長所を生かしてきたが、今後は子会社のサービスを同社や他子会社で展開するなど一層のシナジー強化を進める計画である。
また、投資・財務戦略も重要戦略のポイントとなっている。同社の収益規模はここ数年で大きく成長し、資金調達もあって資金余力は格段に向上した。このため、資本効率の強化を進める一方、より大型のM&Aや海外進出なども視野に入れることができるようになった。現在の資金余力からは、従来の2倍以上となる30億円規模のM&Aが可能であり、大型M&Aや海外などに積極的に投資することで、同社の成長ポテンシャルはまた一段向上すると考えられる。今後はESGへの取り組みも本格化する方針で、こうした事業戦略を背景に持続的な成長へつなげる考えである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《AS》
提供:フィスコ