CACHD Research Memo(9):2023年12月期配当予想は前期比20.00円増配の80.00円
■中長期経営方針と進捗状況
1. 2022年2月に長期ビジョンを設定し、社員全員で共有すべき価値観を明確化
2022年2月、CAC Holdings<4725>は長期ビジョン「CAC Vision 2030」と「新中期経営計画」を公表した。「CAC Vision 2030」は、「世界をフィールドに先進のICTをもって新しい価値を創造する」という企業理念(果たすべき使命)をベースに、10年後の「ありたい姿」「向かうべき方向性」を定め、共有することでグループのベクトルを統一させることを主目的に策定されたものである。
「CAC Vision 2030」で特に注目したい点は、中長期的に目指す企業像である「Vision」と社員全員で共有すべき価値観である「Value」が明確にされていることである。同社は、まず「Vision」として「テクノロジーとアイデアで、社会にポジティブなインパクトを与え続ける企業グループへ」を掲げている。そして「Value」については、1) Creativity:既成概念に囚われないアイデアや発想を大切にする、2) Humanity:人間性を重視し、人間らしく生きる、3) Challenge:失敗を恐れずに、挑み続ける、4) Respect:相手を尊重し、常に感謝の気持ちを忘れない、5) Pride:仲間と自らの努力を信じ、社会に誇れる仕事をする、という「Five Values」を定めている。いずれも、ICTによる価値創造と変革に挑戦し、顧客指向でCSV(Creating Shared Value、事業を通じた社会貢献)型企業グループへと発展してきた同社の歴史を踏まえれば、一貫性があり社員から見ても納得度の高いものであると考えられる。
また、「CAC Vision 2030」は2021年末にかけて対外公表に先んじて社内的に共有されている。西森社長がWeb会議形式で全社員に向けて直接説明し、幹部社員に対しては対面説明会が数回開催され質疑応答の時間も設けられたという。「社長自らが中長期の経営計画に込めた思いを全社員に語りかける」、当たり前のことながら実際には行われていないケースも多いだけに、同社が「CAC Vision 2030」を如何に重要視しているかが読み取れる。社内向け説明会を受け実施したアンケートでは、10年後の「ありたい姿」と「向かうべき方向性」が定められたことに対し、社員は総じて好印象を持っている模様であり、「CAC Vision 2030」は「ベクトル統一」だけでなく「従業員エンゲージメント向上」にも資する可能性がある。
2. 2022~2025年で新たなビジネスモデル構築を目指す
「CAC Vision 2030」では、2022~2025年(新中期経営計画期間)をプロダクト&サービス基盤(新規事業を継続的に立ち上げる仕組みとビジネス基盤)の構築に充てるフェーズ1と位置付け、2025年12月期における経営指標目標として売上高580億円、営業利益50億円、営業利益率8%以上、ROE10%以上を設定した。そして、2026~2030年は高成長を実現するフェーズ2とし、最終的に高収益・高成長の「デジタルソリューション提供企業」への生まれ変わりを達成するとしている。
同社は「デジタルソリューション」を「顧客課題を先導解決するデジタルプロダクトとサービス(コンサル、サポート)のコンビネーション」と定義している。これまでの受託事業が顧客の要求に応える受け身的で人月単価に規定された変動費型・労働集約型のビジネスモデルであるのに対し、「デジタルソリューション」事業は自社で価格設定が可能な固定費型・収穫逓増型のビジネスモデルであると考えられる。
CRO事業を除いて算出した2021年12月期の業績は、売上高が43,094百万円、営業利益が2,885百万円、営業利益率が6.7%、ROEが6.2%程度である。フェーズ1の最終年度となる2025年12月期における目標値(売上高580億円、営業利益50億円、営業利益率8%以上、ROE10%以上)の達成は簡単とは言えないものの、見通し粗利率25%の受託事業メインの成長であっても販管費をコントロールすれば可能な水準に見える。しかしながら、2030年12月期のイメージとして示されている営業利益率15%以上の達成には固定費型・収穫逓増型のビジネスモデルへの転換が必須と言える。
同社は中期経営計画骨子のなかで、新たなビジネス基盤を構築するために、事業投資及び人材投資の推進に約150億円を投入するとしており、フェーズ1で使い切る方針である。2022年1月の組織改編では「戦略投資委員会」「新規事業推進本部」「R&Dセンター部」が新設され、具体的な投資案件やプロダクト戦略が日々練られている。まずは、海外IT事業における構造改革の進捗状況を見極めつつ、今後明らかになる投資内容にも注目しておきたい。
3. 中期経営計画の初年度を終えて
同社はフェーズ1における中期経営計画で目指す財務指標及び配当方針を明確化し、2025年12月期の目標として(1) ROE10%以上、(2) エクイティスプレッド(株主資本を上回るROE)2.5%以上、(3) DOE5%水準、の3点を新たに掲げた。高い資本効率を目指す指標としてエクイティスプレッドに着目し、株主資本コスト約7.5%を前提に(1) ROE10%以上、(2) エクイティスプレッド2.5%以上を目指す。また、株主還元方針を明確にする指標として(3) DOE5%水準を掲げ、将来の成長のための内部留保と、株主への継続的・安定的な配当の実現を目指すとした。これらの方針に基づき、2023年12月期の1株当たり年間配当金を前期比20.00円増配の80.00円とした。DOEを配当の指標としていることから、業績拡大が続けば年間80.00円をベースとした安定配当が期待できる。配当利回りは5%近くに達することになり、リクルート株も含めた保有金融資産が多いことも考慮するとバリュー投資の観点で注目される。
中期経営計画フェーズ1での最注力項目の1つである「プロダクト&サービス基盤の構築」については、中核となるプロダクト&サービスの2022年12月期売上高が前期比3億円増の13億円にとどまっており、以前から取り組んでいるサービスが売上上位を占めている状況にある。今後はリソースの不足する営業やマーケティング分野の強化のほか、M&Aを通じた外部リソースの活用も検討しながら、最終年度での目標達成を目指している。ただし、達成には事業投資の活用内容が課題となる。同社は150億円の投資原資として、既存事業からの獲得資金に加え、保有している現金及び預金や投資有価証券の活用、借入金の活用などを掲げており、この投資原資を株主還元のみならず、人材投資に約65億円、M&Aや新規事業投資に関わる資金として約100億円を投じる意向である。ただし、実行中のCVC投資(2022年12月末時点で約55億円を出資)も含め、M&Aなどコーポレート側の積極的なプロフェッショナル人材採用を通じて、社内で不足しているリソースへの投資に重点を置く必要があると弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 永岡宏樹)
《YI》
提供:フィスコ