アルプス技研 Research Memo(8):社会的課題の解決を通じた持続的成長を目指す(2)
■中長期の成長戦略
3. 業界動向とアルプス技研<4641>の位置付け
全国の派遣労働者数は、厚生労働省「労働者派遣事業の事業報告の集計結果(速報)」によると、リーマンショックが起こった2008年の202万人をピークに減少傾向にあったが、2013年に底を打ち、2021年6月1日時点では約169万人となっている。また、労働者派遣法の改正や同一労働同一賃金制度の導入(いずれも2020年4月1日施行)※などによって、派遣事業をめぐる環境は大きな転換点を迎えている。それは、派遣社員が有する技術力や専門性などと、派遣先企業が何を派遣社員に期待するかによって、今後大きく変貌していくものと考えられる。端的に言えば、より新規で高度な技術力・専門性を持った人材へのニーズは堅調に推移するが、下流工程の作業については、景気動向などで大きく変動するだろう。
※同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)間にある不合理な待遇差の解消を目指すもの。一般的には、本件の導入により、非正規雇用労働者の賃金アップや非正規雇用労働者間での賃金格差拡大などが懸念されている。
同社では技術者の立場が無期雇用(正社員)で安定しており、高度な技術力と専門性を持つべく教育研修を受けているため、顧客企業からも信頼を得ている。無期雇用型技術者派遣に特化した同社の業績は、堅調に拡大していくものと期待される。もちろん、電気・機械、自動車、航空・宇宙など、技術力と専門性が生かせる業種の顧客ニーズを汲み取り、上流工程を任せられるには努力が必要となるだろう。長期的な人間教育に支えられ顧客の信頼を得ることによって、継続的に事業が拡大できるものと考えられる。
また、ここ数年の動きを見ても、「働き方改革」の影響を受け1人当たりの工数が減少する一方、エンジニア要請人数の増加のほか、メーカーの人手不足を補うだけでなく特定技術を必要とする先端技術領域においても需要が増えているところに特徴的な傾向が現れている。したがって、同社が重点領域と位置付ける最先端技術の分野においていかに優秀なエンジニアを確保(育成)できるかが、今後ますます重要な成功要因になるであろう。
4. 弊社アナリストの注目点
弊社でも同社の事業展開の方向性は、国内人口の減少や経済のグローバル化が進展するなかで、今後の産業構造の変化や社会的課題を見据えた合理的な戦略であると評価している。新規事業の進捗を含め、需要が拡大している新たな技術分野への対応や社会的課題の解決に向けた取り組みを、いかに持続的な成長に結び付けていくのかが今後の注目点だろう。特に農業・介護関連分野については、同社が他社に先駆けて新たな市場を創っていけるかどうか、先端技術の活用やノウハウの蓄積等により、人手不足の解消及び生産性の向上(及び収益性の確保)にもつなげられるかどうかが成否を決すると見ている。また、DONKEYやデジタル・デバイスを中心とするものづくり事業についても、業績のアップサイド要因となる可能性があり、今後の具体的な動きに注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《SI》
提供:フィスコ