食糧危機を救え!培養肉や昆虫食など次世代フード関連株の出番到来 <株探トップ特集>
―進む「食」のイノベーション、2030年の世界市場は3兆3000億円規模に拡大へ―
植物由来の肉や肉の細胞を培養した 培養肉、更に昆虫食などの「次世代フード」への関心が高まっている。日本電信電話 <9432> [東証P]傘下の東日本電信電話(NTT東日本)は1月19日、食用コオロギの養殖を手がけるスタートアップのグリラス(徳島県鳴門市)と組んで、ICT/IoTを活用した食用コオロギのスマート飼育の確立を目指す実証実験を開始すると発表した。中央研修センター「NTTe-City Labo」(東京都調布市)内に飼育施設を新設し実証実験を行い、昆虫食の生産支援を2025年にも商用化する。
一方、日本ハム <2282> [東証P]は1月17日に大豆由来の植物性たんぱく質を原料とする「フィッシュフライ」を3月に発売すると発表。プリマハム <2281> [東証P]も1月30日に、常温保存可能な「ストックディッシュ」ブランドから大豆由来肉(大豆ミート)の新商品を発売すると発表した。これら大手企業に限らず、次世代フードへの関心は徐々に広がりつつあり、株式市場でも注目テーマの一つとなりそうだ。
●世界人口は2050年に97億人に達し食肉需要も増加
次世代フードへの関心が高まっている背景には、世界的な人口の増加がある。国連の「世界人口推計2022年版」によると、世界人口は22年11月15日時点で80億人に達したもよう。今後も更に人口は増え続け、30年に約85億人、50年には約97億人に増える見込みという。
世界人口の増加に伴い、懸念されるのが食料危機だ。農林水産政策研究所の「2031年における世界の食料需給見通し」によれば、31年の世界の食肉需要は増加すると予測され、牛肉では18~20年の平均である6200万トンから31年には7140万トンへ、豚肉は同1億630万トンから1億2130万トンへ、鶏肉は同1億490万トンから1億2780万トンへ増加すると見込まれる。
一方で、飼料の製造・加工過程や家畜の肥育過程で発生する温室効果ガスは温暖化の原因ともなっており、環境意識の高まりから従来型の畜産業を大きく拡大させるのは難しい。また、飼料・水資源の大量利用、農業をはじめとした食に関わる就労人口の減少なども問題となり、将来的に従来の動物由来の食肉のみで需要を満たすことが困難になる可能性が高まっている。
●代替たんぱく質市場は30年に21年比6.8倍へ
安定した食肉の供給を維持するには、食品に関するイノベーションを進める必要がある。そこで、豆類や野菜などを原材料とした植物由来肉や動物細胞を培養して製造する培養肉が注目されている。また、国際連合食糧農業機関(FAO)が13年、食料問題の解決策の一つとして、食品及び飼料における昆虫類の役割に注目した報告書を公表したことで、昆虫食への関心も高まっている。
矢野経済研究所(東京都中野区)が22年2月に発表した「代替タンパク質(植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク)世界市場に関する調査を実施(2022年)」によると、21年の代替たんぱく質の世界市場規模はメーカー出荷金額ベースで前年比25.4%増の4861億円になったと推計する。19年ごろからアメリカや日本で食品大手企業・食肉大手企業の参入が相次ぎ市場が活発化していると指摘。既に植物由来肉で一定規模の市場を持つアメリカ、ヨーロッパが今後も順調な伸びを見せることなどを要因に、30年には3兆3113億円に拡大すると予測している。
今回は、代替たんぱく質のなかでも、既に市場が立ち上がり成長が見込まれている植物由来肉に加えて、スタートアップ企業を中心とした研究開発が世界各国で進む培養肉、急速に市場が立ち上がりつつある昆虫食の関連銘柄に注目したい。
●植物由来肉で注目される銘柄
植物由来肉の中心は大豆ミートだ。前述の日ハムやプリマをはじめ、丸大食品 <2288> [東証P]、伊藤ハム米久ホールディングス <2296> [東証P]などのハム大手各社が既に大豆ミートを市場に投入しているほか、カゴメ <2811> [東証P]、大塚ホールディングス <4578> [東証P]傘下の大塚食品なども大豆ミート市場に進出しているが、注目したいのは不二製油グループ本社 <2607> [東証P]だ。
同社は1950年代から大豆ミートの開発を始め、その元になる粒状大豆たんぱくの生産量は国内トップを誇る。現在展開する大豆ミート素材は60種類以上に上り、食品メーカーや外食、流通向けに業務用として提供している。
また、スターゼン <8043> [東証P]は大塚食品と組んで「ゼロミート」を展開しているが、業務用などに拡大を図っている。家庭向けでは既にスーパーマーケットなどで各社の商品が陳列され認知度が高まっているだけに、業務用分野の普及において食肉卸大手としてカギを握りそうな同社が注目されている。
●培養肉で注目される銘柄
培養肉は、肉の細胞を培養して新たに作り出された肉のこと。既にシンガポールでは培養した鶏肉の販売が世界で初めて認可され、チキンナゲットなどにして提供されているほか、アメリカでも昨年11月にアップサイドフーズ社がFDA(米国食品医薬品局)から安全性認可を取得した。ただ、生産コストの高さなどまだ課題も多く、更なる生産技術の開発や効率化についての取り組みが進められている分野でもある。
国内企業では、日清食品ホールディングス <2897> [東証P]が東京大学と共同で22年3月に国内初の「食べられる培養肉」の作製に成功したと発表しており、国内の培養肉開発で一歩先んじている。また、日揮ホールディングス <1963> [東証P]は子会社オルガノイドファームがグループのプラント運営のノウハウを生かして培養肉の開発に取り組んでおり、この2社の動きに注目したい。
このほか大阪大学、島津製作所 <7701> [東証P]、シグマクシス・ホールディングス <6088> [東証P]が共同で3Dプリントを応用した培養肉開発に取り組んでいるほか、日ハムが培養肉の細胞を培養する際に必要となる「培養液」の主成分を、これまでの動物由来のもの(血清)から一般的に流通する食品由来のものに置き換えることに成功したと発表。培養肉生産のコスト低減につながると注目されている。
●昆虫食で注目される銘柄
前述のFAOの報告書をきっかけに世界的に盛り上がりを見せ始めている昆虫食だが、たんぱく質や鉄分、カルシウムなどを豊富に含んでいることや、肉や魚などに比べて大量捕獲がしやすく環境へのダメージが少ないことなどを理由に、世界的にも普及が始まっている。
世界的にはアメリカやヨーロッパの企業が先行するものの、国内でも前述のグリラスやコオロギをはじめとした昆虫食の製造・販売を行うTAKEO(東京都台東区)、蚕を原料としたシルクフードを手掛けるエリー(東京都中野区)などのベンチャーが売り上げを伸ばしている。
大手で昆虫食に取り組む企業として最初に名前が挙がるのが良品計画 <7453> [東証P]だ。同社は20年5月、初の昆虫食としてグリラスが開発・生産した食用コオロギパウダーを練り込んだ「コオロギせんべい」を他の大手企業に先駆けて発売。その後「コオロギチョコ」も発売した。
また、ニチレイ <2871> [東証P]は昨年7月、TAKEOと資本提携したと発表。ニチレイの持つ食品開発力を活用することで、昆虫食品の研究開発・製造・販売を強化するのが狙いという。ミダックホールディングス <6564> [東証P]傘下のミダックはオールコセイ(東京都台東区)、齋藤精機(静岡県浜松市)、東京農業大学バイオロボティクス研究室とともに、廃棄物焼却廃熱などを活用した食用コオロギの飼育を通じた研究・製造・販売などを行っており、注目されている。
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