ワイエイシイ Research Memo(6):高水準の受注残が売上の伸長に寄与する想定
■今後の見通し
1. 2023年3月期の連結業績見通し
2023年3月期の業績に関してワイエイシイホールディングス<6298>は、売上高で前期比18.4%増の27,000百万円、営業利益で同53.2%増の2,400百万円、経常利益で同47.5%増の2,200百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同44.5%増の1,600百万円を見込んでいる。半導体業界における車載向け関連製品の需要増加等によって受注は好調に推移しているものの、外部環境の不確実性が高いことを受け、前回発表(2022年5月13日)の通期業績予想を下方修正した(前回発表予想との増減率は売上高10.0%減、営業利益20.0%減、経常利益21.4%減、親会社株主に帰属する当期純利益5.9%減)。中国のロックダウンによるサプライチェーンの混乱に端を発する部材調達難、ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー・原材料価格の高騰、欧米各国のインフレ抑制のための金融引締による為替の急変動、資材調達価格の高騰などが背景にある。ただ、前述のとおり、2023年3月期第2四半期末時点の受注残高は前年同期比54.7%増の23,385百万円と積み上がっている。下期にかけては、部材の需給逼迫が解消することを見込んでおり、受注残高が順調に売り上がっていくことが予想される。また、利益面に関しても、原価低減の努力が2023年3月期第2四半期に発現してきている。足元で収益性が高まっている状況だ。加えて、原材料価格の高騰も販売価格に反映し、適正な利益確保に努めている。外部環境のマイナス要因が緩和されるにつれて、同社業績予想の達成確度は高まっていくと弊社は考える。
2023年3月期の業績予想達成に向けて、「営業改革」、「粗利率アップ」、「経費の最適化」の3つをキーワードに事業を行っていく。「営業改革」に関しては、1)戦略的・組織的行動の強化、2)コンタクト数アップ、3)量産ニーズの取り込みを実行していく。粗利率アップに関しては、1)標準部品の集中購入、2)稼働率、生産効率、交渉力の強化、3)依命システムの強化を実施する。経費の最適化に関しては、1)人事総務・財務経理のグループ一元化、2)社内利用品調達先の一元化を行っていく構えだ。営業要員一人ひとりが意図的な戦略を持って営業活動を実施し、顧客との接点を増やすことによって受注の拡大を目指していく方針だ。受注拡大によって稼働率をアップさせ、利益率を高めていく。
なお、業績予想の下方修正を行ったが、下期にかけて収益性が回復してくると想定し、通期配当予想は50.00円で据え置いている。また、このことから同社の株主還元を重視している姿勢が見て取れる。
2. SDGsに対応した量産型新製品の投入
同社は量産型ビジネスモデルへの変革と事業活動を通じた社会課題の解決を実現するために2023年3月期からSDGsに対応した新製品を本格的に市場に投入していくことを計画している。以下は同社が進めるSDGsを加味した量産型新製品の一例である。
a. 海水淡水化装置
海水中のマグネシウムを採取し、淡水化プロセスの効率を向上させる装置。海水中には1,800兆トンものマグネシウムが存在すると言われており、これを淡水化することができれば世界の飲料水不足などの問題や半導体工場などで使用する水の供給など社会的な問題、産業的な問題の解決に資することが期待される。現在、試作機は完成しており、評価試験を行っている。2023年第4四半期には量産を開始できるよう準備を行っている。
b. マグネシウム電池・アルミニウム電池
海水中に存在する大量のマグネシウムをエネルギー源とする小型電池。従来のマグネシウム空気電池の20倍以上の出力を有しており、将来的にはバイク用、家庭用、電気自動車用の充電器としての活用を見込んでいる。脱炭素型非常用電源としての注目度が高いことから製作を継続していく。また、アルミニウム電池に関しては、ジャパン・クリア・エージェント株式会社と共同で開発に着手しており、デモ機が完成している。
c. 高感度デジタルバイオマーカー測定装置
血中アミロイドβ、タウ蛋白などの疾病マーカーを検出し、認知症の早期発見を目指す装置の開発に着手している。将来的には薬局に設置し、血液・毛髪を採取すれば測定が可能になるといったような使用法を目指している。これによりコストの削減と質の高い医療を遍く普及させることを目指す。2022年度には開発を終了し、2023年度からの発売開始を目指している。
d. 人工透析装置
世界中で増加する糖尿病患者が透析を受けるために必要となる装置。2023年3月期中にはよりユーザーオリエンテッドな製品の上市も目指しており、より多くの患者に質の高い医療を届ける一翼となることが期待される。
e. 自動紙包装機
紙包装に対応した自動包装機。現在は試作機は開発済みで、試作品イベントで高い評価を得ている。EC業界での脱プラ支援など、環境問題などに貢献することが期待される。
同社は上記に加えて「毛髪縦断スライス装置」、「光触媒性能判定装置」、「SiCレーザアニーラ(パワー半導体向け)」といった量産型新製品にも注力していく。毛髪縦断スライス装置に関しては、すでにアメリカの研究所に納品するなど実績を上げている。光触媒判定装置に関してはデモ機が完成し、見込み顧客との協議を行っている段階だ。SiCレーザアニーラについては、自動車産業を中心に需要が拡大することが見込まれており、8インチの開発に着手している状況である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
《NS》
提供:フィスコ