シュッピン Research Memo(5):各EC施策の効果発現により「カメラ事業」が好調に推移(2)
■シュッピン<3179>の決算概要
3. グローバル展開
越境ECについては、2017年8月に「Map Camera」(カメラ事業)にて世界最大級のオンラインマーケットプレイス「eBay」へ出店したほか、「GMT」(時計事業)についても、2019年5月に世界最大級の高級腕時計マーケットプレイス「Chrono24」、2020年7月には「eBay」にも出店し、事業拡大に向けた体制を整えるとともに、サービスの質を重視した展開により海外でのブランド力も確立されてきた。特に、時計事業については、商品ラインナップの拡充と世界的なロレックス人気とが相まって、海外での認知度も高まってきた。足元では国際情勢等により免税売上が苦戦しているものの、2023年3月期上期の越境EC売上は約13.4億円(前年同期比2.1倍)と順調に拡大した。また、後述するように、2022年11月7日には新たに「Buyee Connect」(海外向け購入サポートサービス)※の導入を開始した。本件により、自社サイトを通じて、筆記具、ロードバイクを含むすべての取扱い商材が世界118の国/エリア(約330万人の会員)において購入が可能となった。
※BEENOS<3328>の連結子会社であるtenso(株)が運営する海外向け購入サポートサービス。
4. 四半期業績とKPIの推移
(1) 四半期業績の推移
2020年3月期(コロナ禍前)からの四半期売上高の推移を見ると、コロナ禍の影響により2021年3月期第1四半期に大きく落ち込んだものの、第2四半期からは「巣ごもり需要」による追い風や各施策の効果もあり、EC売上が好調に推移し、コロナ禍前を上回る水準に伸びてきた。2022年3月期も、コロナ禍の影響が続くなかで、EC売上が順調に拡大したほか、戦略的な商品ラインナップ拡充により「時計事業」の免税売上も大きく貢献し、第4四半期は過去最高水準(四半期ベース)を更新した。2023年3月期に入ってからは、中国におけるロックダウンの影響などを受けて免税売上が減少するも、EC売上は引き続き好調に推移しており、第2四半期(単独)及び上期累計での過去最高水準を更新した。
(2) Web会員数
2022年9月末のWeb会員数は594,588名(前期末比25,775名増)と順調に伸び続け、足元(2022年11月末)では60万人を突破している。コロナ禍に伴う外出制限が続いたなかで、手頃で身近な趣味としてカメラを始める人が増えたことや、これまでのEC強化策が軌道に乗り、同社ブランドや運営サイトの認知度が高まってきたことが背景にあると考えられる。世代別の構成比を見ると、年齢層は幅広いが、10代~30代の割合は41.1%を占め、インスタグラムなどのSNSの普及により、10代~30代の女性比率は22.9%と他年代と比べて高く、新たなターゲット層となっている。また、若い世代の構成比が増加しているなかでも、利用平均単価は維持されているところも特筆すべき傾向と言える。
(3) 購入会員数とアクティブ率
購入会員数とアクティブ率についても、新規会員数が純増するなか、引き続き高い水準を維持している。「欲しいリスト登録数」※1や「入荷お知らせメール登録数」も順調に伸びており、それらのOne to Oneマーケティング施策もアクティブ率を高める要因になっているようだ。特に、「入荷お知らせメール登録数」については、メールやアプリだけでなく、2022年5月からはLINEでのお知らせ機能を開始し、配信数が大幅に増加※2したほか、One to OneマーケティングとAIMD、さらにはAIコンテンツレコメンドとの掛け合わせにより、リクエスト配信数※3も堅調に推移しており、これらも取引機会の拡大に大きく寄与している。
※1 「欲しいリスト」の登録商品数は月平均6万件と堅調に推移し、1,829,120件(前期末比127,092件増)に増加した。
※2 「入荷お知らせメール」の登録数についても113,159件(前期末比11,471件増)に増加するとともに、月平均配信数は40万件に上っており、アクティブ率の維持・向上に貢献している。
※3 スマートフォン向けに月平均400万配信を実現している。仮に1店舗当たりの来店客数が月平均3万人とすると、130店舗を超える情報発信力及び顧客接点を生み出していることになる。
(4) 中古カメラ買取額
中古カメラ買取額についても、これまでのAI顔認証システム(2020年6月)やAIMD(2021年3月)に加え、AIコンテンツレコメンドの導入(2022年3月)などEC強化を図ってきたことが奏功し、ECでの買取比率は引き続き高水準で推移している。また、様々な差別化要因のひとつである先取交換や下取交換も好調に推移しており、EC買取比率の底上げに寄与している。
5. 2023年3月期上期の総括
以上から、2023年3月期上期を総括すると、免税売上の減少により「時計事業」の店舗売上が大きく落ち込んだものの、それを除くと総じて好調に推移したと評価できる。特に、各EC施策の効果発現により「カメラ事業」を中心にEC売上が想定以上の伸び(前年同期比23.6%増)を実現したところは、同社のビジネスモデルの強さや戦略的な進展を確認するうえでも大きな成果と言える。もちろん、プラス・マイナスの両面から評価する必要があるが、マイナスの材料となった免税売上の減少についても、構造的な需給の悪化ではなく、一過性の特殊要因によるところが大きく、その影響がある程度続いたとしても、根強い国内需要の掘り起しや越境ECによる販路拡大によりカバーすることが可能であるため、弊社では大きなリスク要因として捉えてはいない。一方、AI活用によるEC買取やOne to Oneマーケティングの精度が格段に高まり、売上成長と利益率改善の両面に寄与してきたことはプラスの材料として大いに評価できる。また、円安の影響も追い風として、海外での認知度向上や新たな販路開拓を含め、グローバル戦略(越境EC)が軌道に乗ってきたことも評価すべきポイントと言えよう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《NS》
提供:フィスコ