【市況】日米関税交渉の合意に含まれる驚きの内容【フィリップ証券】
7/23に公表された日米関税交渉の合意は、市場予想を大きく上回る驚きの内容だった。相互関税の15%は米国とEUとの間の交渉で出ていた「15-20%」のレンジ範囲内だったが、自動車関税も15%に引き下げられたのはポジティブ・サプライズだった。ボーイング機の100機購入や防衛装備品の追加購入および農産物の輸入拡大も、米国と東南アジア諸国との合意内容からすれば驚くにはあたらない。米国産コメの輸入拡大も関税ゼロのミニマムアクセス(MA)米の枠内であることから、十分に想定内といえる。
最も驚くべきは、日本側が政策金融による最大5500億ドル(約80兆円)の資金枠を設けて、対米直接投資を拡大させると約束したことだ。日本政府は政府系金融機関による出資・融資・融資保証枠を新設し、両国は投資を受けて生産した製品を米国内の用途に向けることを確認している。日本銀行によれば2025年6月の民間銀行・信金合計の貸出金残高(平残)は約640兆円。その約8分の1の額が供給される可能性がある。さらに、関税が15%に引き下げられたとはいえ、自動車部品メーカーをはじめ中小企業の資金繰り支援のため秋に予定される補正予算に向けて財政出動の可能性があるだろう。
これらの資金供給の可能性に加え、参院選後の政局の動向次第では、政府が財政支出拡大策へ政策転換を行う可能性がある。これらは、日本株市場を力強く押し上げる要因になると想定される。日経平均株価(加重平均ベース)日次終値の1株当たり純資産(BPS)は7/24で2万7884円の水準にある。過去10年間の日経平均株価のPBR(株価純資産倍率)の最大値は、昨年の7/11の1.57倍であることから4万3000円台後半までの潜在的な上昇余地も考えられる。海外投資家による日本の現物株と先物合計の売買は、7月第2週(7~11日)まで13週連続の買い越しとなり、年初来の累計でも初めてプラスに転じた。買い余力は残っているとみられる。企業のBPSは、原則的には赤字にならない限り増加すると考えられる。主要225銘柄から構成される日経平均株価ベースのBPSは、決算発表を経て上昇すると見込まれる。
日本経済新聞社によれば、2025年度の全産業の設備投資計画額は前年度実績比12.4%増の34兆2663億円となり、2年連続で過去最高を更新。1位のNTT<9432>、2位のトヨタ自動車<7203>に続いたのが3位のJR東日本<9020>、4位のJR東海<9022>だった。インバウンド増加に伴う鉄道利用者増加の追い風を受けて、鉄道会社の設備投資は増加基調となっている。鉄道会社が主要株主となっている取引先企業は恩恵を受けると考えられる。JR東日本関連では、第一建設工業<1799>、鉄建建設<1815>、東鉄工業<1835>、東洋電機製造<6505>などが挙げられる。JR東海関連では、子会社の日本車輛製造<7102>が注目される。資本再編の動きも注視すべきだろう。
■貸出残高伸び率と関税交渉合意~米投資向け5500億ドル融資枠が注目
全国銀行協会によると、大手5行の6月末貸出金残高が前年同月比3.4%増。トランプ関税の先行き不透明感に伴う設備投資を控える動きもあり、2025年2月以降、伸びの鈍化が目立つ。地方銀行は、新型コロナ救済に関連した「ゼロゼロ融資」の返済が進んで新規融資需要が一巡したことから、2023年後半から2024年にかけて伸びが鈍化したものの、2025年には返済一巡および中小企業における原材料や人件費の高騰を背景とした企業の運転資金需要が根強く推移したことから、貸出の伸びが再加速しつつある。
日米関税交渉で、日本政府は、政府系金融機関が米国向け投資に対し5500億ドルの出資、融資、融資保証を提供可能にすることで合意した。民間銀行の貸出の伸びへの好影響が見込まれる。

参考銘柄
日清食品ホールディングス<2897>
・1948年に中交総社として設立され、1958年に世界初の即席麺「チキンラーメン」を発売。カップ麺で国内シェア5割超。日清食品、明星食品、低温・飲料、菓子、米州、中国の6事業を展開。
・5/8発表の2025/3通期は、売上収益が前期比6.0%増の7765億円、既存事業コア営業利益が同3.6%増の835億円。セグメント利益は日清食品(売上比率31%)が4%増の308億円、米州(同22%)が12%減の189億円、低温・飲料(同13%)が13%増の86億円、菓子(同12%)が20%増の53億円。
・2026/3通期会社計画は、売上収益が前期比4.3%増の8100億円、既存事業コア営業利益が同0.1%増の836億円、年間配当が同横ばいの70円。米州地域事業を強化する中、「日清の炒飯」シリーズ等の冷凍チャーハンは中粒米の米国カルローズ米と相性がよく、同社製品に加え、コンビニやスーパーへOEM供給も行う。日米関税交渉合意により米国産コメの輸入拡大の恩恵が見込まれる。
東邦チタニウム<5727>
・1948年に創業後、1953年に金属チタンの製造・販売を開始。JX金属<5016>が50%超の株式を保有。主力の金属チタン事業(航空機および一般産業用途)に加え、触媒事業、化学品事業を営む。
・5/8発表の2025/3通期は、売上高が前期比13.5%増の889億円、営業利益が同4.5%増の58億円。セグメント別営業利益は、金属チタン事業(売上比率74%)が航空機向けスポンジチタンの寄与により54%増の69億円、触媒事業(同12%)が21%増の23億円、化学品事業は営業赤字へ転落した。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比3.7%増の923億円、営業利益が同26.9%減の43億円、年間配当が同横ばいの18円。親会社であるJX金属の林社長は、子会社である同社との資本関係を見直す必要性を認識している旨を公表している。また、日米関税交渉の合意には日本が米ボーイング製の航空機を100機購入する内容が含まれており、同社の金属チタン事業へ恩恵が見込まれる。
三井物産<8031>
・1947年設立の三井グループ中核の総合商社。鉄鋼製品、金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品、生活産業、次世代・機能推進の事業セグメントを展開。原油の生産権益量で商社首位。
・5/1発表の2025/3通期は、収益が前期比10.0%増の14兆6626億円、当期利益が同15.4%減の9003億円。事業セグメント別の当期利益は、化学品、鉄鋼製品、次世代・機能推進が増益だったものの、資源価格下落に加え、海外再エネ会社関連の減損損失など一過性要因が利益面で響いた。
・2026/3通期会社計画は、当期利益が前期比14.5%減の7700億円、年間配当が同15円増配の115円。資源価格下落と円高を含めて保守的に見積もったと述べた。日米関税交渉の合意内容には、日本側が関税ゼロのミニマムアクセス(MA)米の枠内で米国からのコメ輸入を即時に75%増やすことが含まれた。同社は米大手穀物商社との提携関係から米国産穀物輸入の取り扱いで優位にある。
日本テレビホールディングス<9404>
・1952年に国内初の民間テレビ放送免許を取得し設立。関係会社に読売新聞グループを擁する。主力のメディア・コンテンツ事業のほか、生活・健康関連、不動産賃貸、およびその他事業を営む。
・5/8発表の2025/3通期は、売上高が前期比9.1%増の4619億円、営業利益が同31.1%増の549億円。地上波テレビ広告収入(売上比率48%)が1%増収、コンテンツ販売収入(同20%)が17%増収、コンテンツ制作収入(同6%)が20%増収、BS・CS広告収入(同3%)が5%増収と、堅調に推移。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比0.9%増の4660億円、営業利益が同0.2%増の550億円、年間配当が同横ばいの40円。同社は5月、2023年10月に子会社化した「スタジオジブリ」の事業支援などを行う「ジブリ支援・新領域チーム」の新設を発表。また、同社は日本発のIP(知的財産)の収入額で「ポケモン」、「ハローキティ」に次ぐ「アンパンマン」に関する権利の一部も保有している。
※執筆日 2025年7月25日
※フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。
株探ニュース
最も驚くべきは、日本側が政策金融による最大5500億ドル(約80兆円)の資金枠を設けて、対米直接投資を拡大させると約束したことだ。日本政府は政府系金融機関による出資・融資・融資保証枠を新設し、両国は投資を受けて生産した製品を米国内の用途に向けることを確認している。日本銀行によれば2025年6月の民間銀行・信金合計の貸出金残高(平残)は約640兆円。その約8分の1の額が供給される可能性がある。さらに、関税が15%に引き下げられたとはいえ、自動車部品メーカーをはじめ中小企業の資金繰り支援のため秋に予定される補正予算に向けて財政出動の可能性があるだろう。
これらの資金供給の可能性に加え、参院選後の政局の動向次第では、政府が財政支出拡大策へ政策転換を行う可能性がある。これらは、日本株市場を力強く押し上げる要因になると想定される。日経平均株価(加重平均ベース)日次終値の1株当たり純資産(BPS)は7/24で2万7884円の水準にある。過去10年間の日経平均株価のPBR(株価純資産倍率)の最大値は、昨年の7/11の1.57倍であることから4万3000円台後半までの潜在的な上昇余地も考えられる。海外投資家による日本の現物株と先物合計の売買は、7月第2週(7~11日)まで13週連続の買い越しとなり、年初来の累計でも初めてプラスに転じた。買い余力は残っているとみられる。企業のBPSは、原則的には赤字にならない限り増加すると考えられる。主要225銘柄から構成される日経平均株価ベースのBPSは、決算発表を経て上昇すると見込まれる。
日本経済新聞社によれば、2025年度の全産業の設備投資計画額は前年度実績比12.4%増の34兆2663億円となり、2年連続で過去最高を更新。1位のNTT<9432>、2位のトヨタ自動車<7203>に続いたのが3位のJR東日本<9020>、4位のJR東海<9022>だった。インバウンド増加に伴う鉄道利用者増加の追い風を受けて、鉄道会社の設備投資は増加基調となっている。鉄道会社が主要株主となっている取引先企業は恩恵を受けると考えられる。JR東日本関連では、第一建設工業<1799>、鉄建建設<1815>、東鉄工業<1835>、東洋電機製造<6505>などが挙げられる。JR東海関連では、子会社の日本車輛製造<7102>が注目される。資本再編の動きも注視すべきだろう。
■貸出残高伸び率と関税交渉合意~米投資向け5500億ドル融資枠が注目
全国銀行協会によると、大手5行の6月末貸出金残高が前年同月比3.4%増。トランプ関税の先行き不透明感に伴う設備投資を控える動きもあり、2025年2月以降、伸びの鈍化が目立つ。地方銀行は、新型コロナ救済に関連した「ゼロゼロ融資」の返済が進んで新規融資需要が一巡したことから、2023年後半から2024年にかけて伸びが鈍化したものの、2025年には返済一巡および中小企業における原材料や人件費の高騰を背景とした企業の運転資金需要が根強く推移したことから、貸出の伸びが再加速しつつある。
日米関税交渉で、日本政府は、政府系金融機関が米国向け投資に対し5500億ドルの出資、融資、融資保証を提供可能にすることで合意した。民間銀行の貸出の伸びへの好影響が見込まれる。

参考銘柄
日清食品ホールディングス<2897>
・1948年に中交総社として設立され、1958年に世界初の即席麺「チキンラーメン」を発売。カップ麺で国内シェア5割超。日清食品、明星食品、低温・飲料、菓子、米州、中国の6事業を展開。
・5/8発表の2025/3通期は、売上収益が前期比6.0%増の7765億円、既存事業コア営業利益が同3.6%増の835億円。セグメント利益は日清食品(売上比率31%)が4%増の308億円、米州(同22%)が12%減の189億円、低温・飲料(同13%)が13%増の86億円、菓子(同12%)が20%増の53億円。
・2026/3通期会社計画は、売上収益が前期比4.3%増の8100億円、既存事業コア営業利益が同0.1%増の836億円、年間配当が同横ばいの70円。米州地域事業を強化する中、「日清の炒飯」シリーズ等の冷凍チャーハンは中粒米の米国カルローズ米と相性がよく、同社製品に加え、コンビニやスーパーへOEM供給も行う。日米関税交渉合意により米国産コメの輸入拡大の恩恵が見込まれる。
東邦チタニウム<5727>
・1948年に創業後、1953年に金属チタンの製造・販売を開始。JX金属<5016>が50%超の株式を保有。主力の金属チタン事業(航空機および一般産業用途)に加え、触媒事業、化学品事業を営む。
・5/8発表の2025/3通期は、売上高が前期比13.5%増の889億円、営業利益が同4.5%増の58億円。セグメント別営業利益は、金属チタン事業(売上比率74%)が航空機向けスポンジチタンの寄与により54%増の69億円、触媒事業(同12%)が21%増の23億円、化学品事業は営業赤字へ転落した。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比3.7%増の923億円、営業利益が同26.9%減の43億円、年間配当が同横ばいの18円。親会社であるJX金属の林社長は、子会社である同社との資本関係を見直す必要性を認識している旨を公表している。また、日米関税交渉の合意には日本が米ボーイング製の航空機を100機購入する内容が含まれており、同社の金属チタン事業へ恩恵が見込まれる。
三井物産<8031>
・1947年設立の三井グループ中核の総合商社。鉄鋼製品、金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品、生活産業、次世代・機能推進の事業セグメントを展開。原油の生産権益量で商社首位。
・5/1発表の2025/3通期は、収益が前期比10.0%増の14兆6626億円、当期利益が同15.4%減の9003億円。事業セグメント別の当期利益は、化学品、鉄鋼製品、次世代・機能推進が増益だったものの、資源価格下落に加え、海外再エネ会社関連の減損損失など一過性要因が利益面で響いた。
・2026/3通期会社計画は、当期利益が前期比14.5%減の7700億円、年間配当が同15円増配の115円。資源価格下落と円高を含めて保守的に見積もったと述べた。日米関税交渉の合意内容には、日本側が関税ゼロのミニマムアクセス(MA)米の枠内で米国からのコメ輸入を即時に75%増やすことが含まれた。同社は米大手穀物商社との提携関係から米国産穀物輸入の取り扱いで優位にある。
日本テレビホールディングス<9404>
・1952年に国内初の民間テレビ放送免許を取得し設立。関係会社に読売新聞グループを擁する。主力のメディア・コンテンツ事業のほか、生活・健康関連、不動産賃貸、およびその他事業を営む。
・5/8発表の2025/3通期は、売上高が前期比9.1%増の4619億円、営業利益が同31.1%増の549億円。地上波テレビ広告収入(売上比率48%)が1%増収、コンテンツ販売収入(同20%)が17%増収、コンテンツ制作収入(同6%)が20%増収、BS・CS広告収入(同3%)が5%増収と、堅調に推移。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比0.9%増の4660億円、営業利益が同0.2%増の550億円、年間配当が同横ばいの40円。同社は5月、2023年10月に子会社化した「スタジオジブリ」の事業支援などを行う「ジブリ支援・新領域チーム」の新設を発表。また、同社は日本発のIP(知的財産)の収入額で「ポケモン」、「ハローキティ」に次ぐ「アンパンマン」に関する権利の一部も保有している。
※執筆日 2025年7月25日
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当資料は、情報提供を目的としており、金融商品に係る売買を勧誘するものではありません。フィリップ証券は、レポートを提供している証券会社との契約に基づき対価を得る場合があります。当資料に記載されている内容は投資判断の参考として筆者の見解をお伝えするもので、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。また、当資料の一部または全てを利用することにより生じたいかなる損失・損害についても責任を負いません。当資料の一切の権利はフィリップ証券株式会社に帰属しており、無断で複製、転送、転載を禁じます。
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