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【特集】自動車業界に再編の号砲、脱「ケイレツ」加速で自部品株に大化け機運 <株探トップ特集>

国内自動車メーカーの再編機運の高まりはサプライヤーの合従連衡を加速させる大きな原動力となるとみられており、割安な自部品株への注目度が一段と高まっている。

―低PBR株が山積するセクターで優勝劣敗の潮流加速、投資妙味深まる6銘柄を厳選―

 日本の自動車産業史上、例を見出すことができない再編劇が繰り広げられることとなった。昨年12月、ホンダ <7267> [東証P]と日産自動車 <7201> [東証P]が経営統合に向けて協議を始めると発表した。三菱自動車工業 <7211> [東証P]も合流する可能性がある。3社の統合が実現すれば2023年暦年ベースでみて世界販売台数が813万台規模となり、トヨタ自動車 <7203> [東証P]と独フォルクスワーゲンに次ぐ3位の自動車メーカーが誕生することとなる。再編の余波は国内の自動車部品メーカーにも及ぶとみられ、サプライヤーにおいても合従連衡が一段と加速する公算が大きい。自部品株には割安な銘柄が多いこともあって、投資家の関心が高まった状況にある。

●既視感のある鴻海のアプローチ

 世界を俯瞰してみて、一定の生産台数を持つ乗用車メーカーが8社もある国は珍しい。国内に生産拠点を構える商用車メーカーを加えると12社となる。このうち、トヨタ傘下にダイハツ工業(大阪府池田市)と日野自動車 <7205> [東証P]があり、マツダ <7261> [東証P]やSUBARU <7270> [東証P]、スズキ <7269> [東証P]、いすゞ自動車 <7202> [東証P]がトヨタと資本関係を持つ。スズキといすゞに対するトヨタの出資比率は5%前後だが、スズキの場合、現社長はトヨタ系のデンソー <6902> [東証P]での勤務経験を持つ。スズキとトヨタは遠州(静岡県西部)発祥企業であることも共通項だ。

 日産自は、三菱自とアライアンスの関係にある。商用車では旧日産ディーゼル工業のUDトラックス(埼玉県上尾市)がいすゞの子会社となり、三菱ふそうトラック・バス(川崎市中原区)は独ダイムラー傘下となった。合従連衡や提携が進むなかでホンダは直近ではソニーグループ <6758> [東証P]とEV(電気自動車)の開発を進めている。元来、ホンダは自主独立色の強い企業ではあるが、自動車業界に押し寄せる変革の大波に対処するには、協業の枠組みを広げることが不可避の状況だ。ちなみに、ホンダの創業の地は遠州である。

 ホンダと日産自の「縁談」は、産業のすそ野の広い自動車産業の競争力を維持させるために、国がお膳立てをしたとみるのが自然である。日産自はEVに傾斜したのが結果的に仇となり、業績不振に陥った。そこで歩み寄ってきたのが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業である。鴻海は液晶パネルの巨額投資後に経営が悪化したシャープ <6753> [東証P]に救いの手を差し伸べた企業であり、既視感が否めない。鴻海においては、日産自の副COO(最高執行責任者)とニデック <6594> [東証P]社長を経験した関潤氏がEV事業の最高戦略責任者として君臨している。日産自にとっては、己の細部を知る人物との対峙を余儀なくされることとなる。

●カルチャー異なる3社の統合議論には不透明感も

 もっとも、日産自が経営不振に陥るのは、今回が初めてではない。バブル崩壊後は過剰な生産体制が足かせとなり、「サニー」を世に届けた座間工場の閉鎖を決断した。更にカルロス・ゴーン体制のもと、村山工場の閉鎖にも追い込まれることとなった。大規模なリストラ後に日産自の業績が回復し、スーパーカー「GT-R」など世界的なブランド力のあるクルマを今でも送り出してはいるものの、仏ルノーとの提携効果を生み出すには至らず、北米向けハイブリッド車(HV)の玉不足も業績不振の一因となった。

 一方、ホンダは新興国において二輪で稼ぎつつ、国内では小型車「フィット」に続く形で、軽自動車の「N-BOX」をヒットさせた。北米で「アコード」を着実に伸ばし、旧タカタ製のエアバッグ問題を受けて一時的に低下したブランド力を大きく回復させている。リコール隠し問題を発端に経営難に陥った三菱自は「デリカD:5」や、プラグインハイブリッド(PHEV)モデルを用意した「アウトランダー」でコアなファンの心をつかみ、ピックアップトラック「トライトン」を日本市場に投入するなど、攻めに動いている。

 3社のカルチャーやこれまでの歴史は同じ日本車メーカーといっても大きく異なり、統合に向けた議論は紆余曲折が見込まれる。経営不振に陥ったシャープに対し、パナソニック ホールディングス <6752> [東証P]など電機大手が与することがなかったように、日産自のリバイバルに日本の自動車メーカーがどこまでコミットメントを示すか、不透明感も漂う。日産自株を保有するアクティビストの動向からも目を離すことができない。

●「メガサプライヤー」志向強まるか

 日産自の相手がホンダになろうが、鴻海になろうが、自動車部品業界の事業環境は一段と変化するのには変わりがない。トヨタにあって、他の自動車メーカーが持たないのは、デンソーのようなメガサプライヤーである。そのデンソーにしても、独ボッシュやコンチネンタルといった名高い海外のメガサプライヤーと激しい受注争いを繰り広げている。

 日産自にとって主要サプライヤーの1社であったマレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ、さいたま市北区)は、国内の製造業の負債総額として最大級となる経営破綻を引き起こした。ホンダに関しては、系列サプライヤーの規模の小ささが課題となっている。要素技術をデンソーやボッシュといったメガサプライヤーに握られるようであれば、魅力あるクルマを世に届けることが難しくなる。経営リソースが限られる中堅・中小サプライヤーにしても、自動車メーカーからの技術的な要求が複雑化・高度化するなかでは、合従連衡へのプレッシャーが一段と高まることとなるだろう。ケイレツの垣根を越えて再編が加速する可能性は十分にあると考えられる。

 とはいえ、部品メーカーのなかには、高いシェアを誇り価格交渉力を持つ企業や、M&Aを駆使して事業規模を拡大させた企業もある。相対的に収益力があり、成長も期待できそうな企業に対しては、再編機運の高まるセクター内において、投資家からの熱視線を集めることとなりそうだ。そのような観点で、投資妙味のある自部品株を厳選してピックアップする。

●大化け機運高まる自部品株6選

◎スタンレー電気 <6923> [東証P]

 小糸製作所 <7276> [東証P]や市光工業 <7244> [東証P]とともにヘッドランプ大手の一角。22年9月にホンダとの資本・業務提携を発表した。今9月中間期は増収増益ながら通期計画に対する利益の進捗率の低さが意識され、株価はもみ合いを余儀なくされている。ただし得意先の自動車販売の低迷のあおりを受けながらも、米州での生産革新による合理化が利益を押し上げる要因となっている点は、ポジティブに評価されている。昨年11月には三菱電機 <6503> [東証P]傘下の三菱電機モビリティと、次世代車両向けランプシステム事業での合弁会社設立において基本合意したと発表。今後のシナジーの発現に期待が膨らむ。PBRは0.8倍近辺にとどまっている。

◎大同メタル工業 <7245> [東証P]

 自動車用エンジン軸受では23年の世界シェアが同社推定で33.3%とトップシェア。愛知県に本社を置くが、幅広く自動車メーカーと取引関係を持つ。25年3月期は減益計画とするものの、中間期の売上高と営業利益は北米向けの伸長や原価改善効果により計画を上振れして着地した。世界シェアトップとして一定の価格交渉力を持つと想定される同社は自動車以外にも、データセンター向け発電機の軸受の需要拡大が期待されている。環境対応が迫られる船舶向けの部品の良好な受注環境も、長期的な成長に寄与する見通しだ。PBRは0.3倍台と低水準にある。

◎ハイレックスコーポレーション <7279> [東証S]

 独立系サプライヤーで、自動車向けコントロールケーブルでは国内トップシェア。国内全自動車メーカーや米ビッグ3との取引関係を持つ。日産自を主要取引先としてキーセットを供給するアルファCo <3434> [東証S]の筆頭株主としても知られる。25年10月期は減収予想ながら、営業利益は前期比6.6倍と大きく回復する見通しだ。ハイレックスは今月開催予定の定時株主総会に際し、香港の投資会社系でアクティビストとして知られるリムジャパンイベントマスターファンドや、マネックス・アセットマネジメントから、剰余金処分などの議題で株主提案を受けている。いずれの議案にも反対の姿勢を示しているが、PBRは0.3倍台にとどまっているだけに、資本効率の向上に向けた具体的なアクションが出るか注視される。

◎村上開明堂 <7292> [東証S]

 自動車用バックミラーで国内トップ。視認性に優れる電子ミラーも供給する。独立系として幅広く自動車メーカーと取引関係を構築しつつ、22年にはホンダを中心に電装品を供給するミツバ <7280> [東証P]から、ドアミラーなどの生産会社を買収するなど事業を拡大。電子ミラーでは市光工、トヨタ系の東海理化 <6995> [東証P]、パナHD傘下のパナソニック オートモーティブシステムズと競合関係にある。電子ミラー市場では京セラ <6971> [東証P]なども事業拡大を狙う。完成車メーカーの認証不正問題による生産減のあおりを受けながらも今9月中間期は増収・経常増益で着地。今期は連続最高益更新を狙う。自部品株のなかではパフォーマンスの高さが際立っているが、PBRは0.7倍台にある。

◎今仙電機製作所 <7266> [東証S]

 シートの機構部品、電装部品を主力とする。愛知県に本社を置くが、ホンダ車向けの比率が高い企業として知られ、ホンダ系シートメーカーのテイ・エス テック <7313> [東証P]の拠点を活用した営業機能の強化を図るほか、マツダ向けイーアクスルのインバーターの開発なども推進している。シート全体で主要プレーヤーとなるのは、TSテックやトヨタ系のトヨタ紡織 <3116> [東証P]、独立系のニッパツ <5991> [東証P]やタチエス <7239> [東証P]などがある。自動車業界の再編を通じて商圏を拡大できるか、注目されることとなりそうだ。PBRは0.2倍台で、配当利回りは3.7%近辺とまずまずの水準にある。

◎森六ホールディングス <4249> [東証P]

 ホンダ系の内外装樹脂部品メーカーで、内装ではコンソールやインストルメントパネルなどを展開。この領域ではマレリや、トヨタ系の豊田合成 <7282> [東証P]もプレーヤーとして関連する製品群を手掛けている。中国やアジアでの減産や為替差損の発生を受けて昨年11月に25年3月期の業績予想を下方修正したが、業績が底入れに向かいつつあるとの市場参加者の確信が深まれば、株価が反転攻勢に向かうことも期待できるだろう。配当利回りは足もと5%台と高水準。PBRは0.4倍近辺にとどまっている。

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